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6回目の逢瀬...3

2008/03/03(月) 20:55:57
暫くして、彼がわたしの横に寝そべったのがわかった。
彼の指が、小鳥が水を飲む様なタッチでわたしに触れる。
その度に身体が跳ね上がる。
すぅっと身体を撫でられる。

  はあ…ぁ…

ため息混じりの声が出て、身体をよじってしまう。
時々、彼もため息をついている。
それを聞いているだけで、わたしも高まっていく。

口の中に何かが入ってきた。
指だ。
フェラチオの様に舌を絡ませ、無心にしゃぶった。

  エロいなぁ…
  すげぇエロい…


彼が、囁く。
わたし自身が、益々濡れていく…。

再び彼の気配が遠ざかった。
戻ってくるなり、ヴァギナにひんやりとしたものが当てられた。

  今日はこれ使うぞ…

なに…? バイブ…?
そう思った途端、それがメリメリと音を立てんばかりに、わたしの中に突き入れられた。

  あああぁぁぁぁーーーっ!!!

それまでの静かさが嘘の様な、突然の荒っぽい行為…。
その落差が起爆剤となって、爆発する様な大声が出た。
激しくピストンされるバイブ。
低く唸るモーター音と、わたし自身が立てている、ぐちゅぐちゅという音。
自分の声とは思えぬ程の、喘ぎを通り越した叫び声…。

肉体的な快楽は、感じない。
わたしを掻き回すバイブの、無機質な硬さと冷たさを感じるだけだ。
けれども、彼がわたしに突っ込み、そこをじっと見つめながら動かしているのだ…と思うと、深い処から、悦びが湧き上がってくる。
高い処に押し上げられる…。

バイブが抜かれると今度は、彼の指が入ってくる。
彼の温度を感じるなり、達してしまう。
中を掻き混ぜられて、また達する。
達し続ける…。

けれど、欲しいのは絶頂だけじゃない。
彼の体温。
彼の体重。
彼の体液…。

  挿れて…Tさんのを挿れて…

  欲しいか。
  じゃ、舐めろ。


ぐいっと身体を起こされ、アイマスクを外される。
両手の自由も取り戻す。
彼の前に跪き、ベルトの存在を疎ましく思いながら彼のものを取り出して、夢中で口に含んだ。
ずっと責め立てられ、声を上げていたから、喉が乾き切っている。
彼のものを喉の奥まで銜え込む。
噎せるまで続けると、口の中に粘りのある唾液が溜まるので、それを潤滑剤代わりにする。
丁寧に、丁寧に、舐め上げる。

  気持ちいいぞ…

ため息交じりにそう言う彼の声が聞きたい一心で、手と舌と頭を動かし続ける。
やがて、彼が動いた。
後ろを向かせたわたしに、一気に根元まで突き立てた。

  あああああーーーーっ!!
  ああっああっああっ……


それはもう叫び声ですらない。悲鳴だ。
彼の動きに押し出される様に、叫んでしまう。
何も判らなくなる…。


尊厳

2008/03/03(月) 23:15:20
  俺以外の男に抱かれたお前にぶち込みながら、
  どういう風にされたのかを問い詰めたい。


ある時、彼が言った。
わたしは、彼がそれを求めた時、最終的には拒まないだろうと思った。


Sさんにメッセで会った。
会話の流れの中でわたしは、そのうち彼が、他の男にわたしを貸し出すかも知れないという話をした。
途端にSさんが豹変した。

  何だそれ。ふざけるな。

  え、なんで?
  SMの世界では、珍しい事じゃないみたいだよ。


  いくら何でも、友達を玩具にされては黙っておれんぞ。

  …わたしは…玩具だよ。

Sさんからの言葉が途切れた。

そう、わたしは玩具。
だからSさんも、わたしを道具にしたいなら、してくれて構わない…。

やっと反応があった。

  お前がそれでいいのなら、文句は無い。

その日は、それで終わった。
後日、再びメッセでSさんと会った。

わたしは結局、自分が嫉妬している事を白状した。

  彼氏の玩具だとか言い放つヤツが、
  嫉妬なんかしてちゃ駄目だろw


  彼の玩具なんじゃない。
  わたし自身が、玩具なの。


  あほか。変な事言うな。
  自分で自分を落としてどうする?


わたしは、落ちてしまいたいのだ。
一種の自己破壊願望。
物心ついた頃から、わたしの背後にぴったり寄り添っている、暗い衝動。

  こないだの話もそうだ。
  彼が本当に貸し出ししそうになったら、逃げろ。
  自分から落ちていくな。


  なぜ?
  彼が面白いと思ってくれるなら、私は何でもする。


  尊厳を踏み躙られてもいいのか?

  彼にとって、わたしの存在価値がそこにあるなら、尊厳など要らない。

  そんな事でしか、自分を確認できないのか?

  そうだよ。
  他のどこにわたしの居場所がある?
  こんな、生産性の無い肉のわたしに。


会話をしながら、気付く。
結局わたしは、夫という精神的支配者を失い、その穴の大きさに為す術を見失っているのだと。

  そうか…何だかんだ言っても、
  旦那の存在はデカかったか。


  そりゃデカいよ…
  離婚を言い出されるまで、
  浮気ひとつせず、旦那の為にって事だけ
  考えて生きてきたんだもん。


けれど、わたしが思う「夫の為」は、夫にとっては「自分の為」ではなかった…。

Sさんとの会話は、わたしの混乱した思考を整理分析する際の、きっかけも与えてくれる。

けれどこの時の会話は、同時に大きな失望をもわたしにもたらした。
『奴隷』と呼んで面白がっているわたしの「尊厳」を気にするSさんは、真のサディストではない…
それならば、サディストとしての精神の安寧を得る為に、わたしを求めることはないだろう…

そう考えたからだった。


7回目の逢瀬

2008/03/05(水) 19:15:44
  最近、パターン化してきてるからな。
  今日は趣向を変えていくぞ。


待ち合わせ場所で助手席に滑り込むなり、彼は満面の笑みでそう言った。
彼の、屈託のない笑顔が、わたしは大好きだ。
わたしを使うのが愉しくてしょうがないという事が、よく判るからだ。

いつものラブホテルに入る。
ベッドのヘッド部が、格子になっている部屋が空いていた。

  お、ここにしよう。

  やっぱり…そこを選ぶだろうなって気がしてた。

  判ってるじゃないか。

悪戯っぽく笑う彼。
わたしをベッドに縛り付けて遊びたい…というのは、彼が常々口にしていた願望だったから…。

部屋に入ると、いつもの様にわたしは彼にしがみ付く。
彼もわたしを抱き締めて、キスをしてくれる。
絡みつく舌…。
舐め回される唇…。
そして、背中を這い回る、彼の大きな手…。
わたしが既に蕩けている事を証明する様に、ヴァギナが潤っていく…。

  さて…と…。
  まずは舐めて貰おうか。


わたしは頷いて、彼の靴下とズボン、パンツを脱がせた。
彼も、わたしの下半身を露出させる。
そのままソファに座る彼の前に跪き、ペニスを口に含んだ。

まだ柔らかい部分の残るペニスを全部口の中に入れ、舌を使う。
彼のものに、みるみる力が漲っていく。

  気持ちいい…

彼は感想を言ってくれるから、それが嬉しい。
一生懸命に舌と唇と手を動かしていたら、彼のものは口に入り切らない程、怒張する。
全部を味わいたくて、喉の奥に、奥に、飲み込もうとするけれど、どうしても喉を通ってくれない。
彼の手がわたしの頭を押さえる。
息が詰まる。
嘔吐感がせり上がってくる。
目に涙が滲み、鼻水が出てくる。
苦しい。
でも、嬉しい…。

噎せ込んだわたしの頭を、彼が解放した。
そしてわたしを立たせ、後ろを向かせた。
わたしはベッドに手をつき、彼が入ってくるのを待つ…。

  あ、あ、ああああーーーーっ!!

いきなり奥まで突き立てられた。
彼が激しく動く。
わたしも彼に動きを合わせる。
彼の手がわたしのどこを触っているのか、それすら判らない程、わたしの意識は彼のペニスだけを感じている。

  すげぇ…気持ちいい…

  あっあっあたしもっ気持ちいいっ…!

ふと、脳裏を過ぎる夫やSさんの顔…。
夫は、わたしが後ろからされるのが大好きだと、知っていただろうか。
Sさんは、わたしを抱いて「気持ちいい」と言ってくれるだろうか…。

そんな事を頭の隅で考えながら彼に突かれて、わたしは逝ってしまう。
何度も、何度も、逝ってしまう。

全身から力が抜け、わたしはがっくりと座り込んでしまった。

  おいおい、もうギブアップか。

彼が、笑った。


7回目の逢瀬...2

2008/03/06(木) 10:05:05
ぐったりしているわたしを、彼がベッドの上に抱き上げる。
そして、ミネラルウォーターを口移しで飲ませてくれる。

  まだ欲しいか?

  …もう少し、頂戴…

  ん。

わたしが望むだけの水を、喉に注ぎ込んでくれる。

ボトルを置くと、わたしの上に重なってきた。
正常位でわたしの中に入ってくると、今度は、ゆっくり動き始めた。

  今日はこうやって、じっくりじっくり、責めてやる…

彼が、囁く。
ゆっくり動かれると…彼自身のことがよく判る。
その形…硬さ…温度…。

彼が体勢を変えた。
重ねたスプーンの様に後ろから抱きすくめられ、二人とも横になった形で挿れられる。
そして、ゆっくり動く…。

  スローセックスって奴だ…。

それは、不思議な感触だった。
いつもは、彼の激しいピストンで一気に絶頂に押し上げられるのだけれど、ゆっくり動かれるセックスは、まるでトロ火で炙られる様にじわじわと熱くなり、高まっていく…。

  はあぁ…あぁ…っあぁ…

獣の様な声は出ないが、身体の奥底から搾り出される様な、快楽の喘ぎが漏れてしまう…。

  気持ちいい…逝きそうだ…

  逝って…お願い、頂戴…

  嫌だ…もっとお前を味わいたい…

長い長い時間…突かれ続けた。
けれどわたしは乾く事がない。
彼の動きに合わせて、ジュブジュブと湿った音を立て続ける…。

絶頂も、ゆっくりとやって来た。
自分の意思に反した動きが、身体を襲う。
ビクビクと痙攣する様な動き…。

  はっ…あ…っあ…っあ…

全身に彼を感じながら、じわりじわりと高みに上りつめる。
それは、今まで経験した事のない、とても深みのある絶頂だった。

  …すげぇ締まる…っ

歯を食いしばる様な彼の囁きを耳元に受けながら、再びわたしは何度も何度も達していた…。



7回目の逢瀬...3

2008/03/07(金) 07:56:17
逝って、逝って、逝き続け…朦朧としてしまう。

  ちょっと休憩するか。

彼が笑いながら、ミネラルウォーターを飲ませてくれる。
ソファに移動して、テレビをつけた。
暫くベッドの上でぼんやりしていたわたしも、のろのろ起きて、彼の隣へ座る。
おやつを食べたり、テレビを見ながらあれこれ喋ったり…。
これも、わたしの大好きな時間だ。

  こうして喋ってると、お前って
  男友達と喋ってる様な気楽さがあるな。


これは、良く言われる言葉だ。
職場の人も、友人も、そして夫ですら…わたしの事を「男っぽい」とか「思考が男だ」などと言う。
彼らは、本当のわたしがどんなに淫らな牝なのかを、全く知らない…。

ひとしきり休憩した後、彼がテレビを消した。
わたしを使う気になったのだ。
道具鞄の中から赤い綿ロープを取り出す。

  ベッドへ行け。

後ろ手に縛られて、仰向けにされた。
足も、ベッドのヘッド部に開いた状態で縛り付けられる。
さらにアイマスクを付けられた。
あと道具鞄に入っているのは…バイブとバラ鞭…。
ビュンッと空を切る音がして、彼がバラ鞭を手にした事を知る。

 ビュンッ
 ビュンッ

音がする度、わたしはビクッと身体を硬直させる。
予測出来る痛みに備えての、緊張と、弛緩。
彼は、その間隙を突いて、わたしが弛緩した瞬間に鞭を振り下ろす。
バシッという激しい音と、わたしの悲鳴。
わたしのお尻や背中は叩かない。
乳房を叩くのが好きなのだ。

わたしを産んだ人物は、竹の布団叩きでわたしのお尻を叩くのが好きだった。
彼女の意に沿わぬことをすると、渾身の力で、息が出来なくなる程の打擲を受けたものだ。
わたしの生殺与奪権を握っていると思い込んでいるその人物に叩かれる度、わたしは、激しい屈辱と恐怖と、生命の危機を感じていた。

それなのに今、わたしは望んで打擲され、股間をぐっしょり濡らしている。
打つのが彼なら、日常的に露出する部分を打つ事はないという安心感があるとは言え、わたしの心と身体は、一体どうなっているのだろう…?
そして何故、この安心感を『彼はわたしの命を奪わない』というところには、感じないのだろう…?

乳房を鞭打たれ、ヴァギナにはバイブを突っ込まれる。
わたしは仰け反り、跳ね上がり、悲鳴を上げる。
彼の呼吸も荒くなっていく。
鞭打つ力が、どんどん強くなる。
わたしは心の中で叫んでいる。
もっと…もっと…皮膚が破れて、血が流れるまで、打って欲しい…

どのくらいの時間、打たれていたのか判らない。
彼が縛めを解いて、口移しで水を飲ませてくれた時、その時間が終わった事を知る。
アイマスクを外されると、目の前には彼の穏やかな顔がある。

  大丈夫か?

  …うん。

  気持ちよかった…

わたしをバスタオルで包み、汗を拭いながら、優しくキスをしてくれる。

  途中でお前が壊れたと思った…

わたしは一体、どんな状態になっていたのだろう…?
わたしを責め続ける彼と、それに悶えるわたしを、客観的に観てみたい…。
そういう願望が、募ってくる。

再び休憩に入る彼の横に行く前に、わたしはミニドレスを身に着けた。
打たれた痕に、レースが擦れて痛む。

  擦れてピリピリする…

  え。大丈夫か?
  これでも乳首は避けたつもりなんだがな。


  大丈夫だよ…

頷きながらわたしは、痕が出来て痛むまで打たれた悦びを、噛み締めていた…。



7回目の逢瀬...4

2008/03/08(土) 21:42:38
また暫く、テレビでコントショーを見て一緒に笑ったり、AVを観ながら感想を言い合ったりして過ごす。

  さて…と。

TVを消した彼がおもむろに全裸になり、ベッドに大の字になった。
言われなくても、フェラチオを要求されていることが判る。
わたしもベッドに上がり、彼の股間に蹲る。

根元まで口に入れて、
舌で舐め上げて、
口に入り切らなくなったら
楽器を演奏する様に横から銜えて
唇を滑らせる…

彼は、頭の下に手を組んで、わたしを見下ろしている。

  お前はフェラの時に目を閉じないから、いいな。
  ちゃんと俺のチンチンを見ている…。


わたしは、返答代わりに微笑した。
わたしの行為がきちんと彼に快感を与えられているかどうか…それを知るには、彼と、彼自身を見ていなければ…そう思う。
気持ち良さそうだと、わたしも嬉しくなってくる…。

どのくらい、そうやっていただろうか。
ペニスは怒張しきっている様なのに、彼は動かない。

  欲しい…Tさん、欲しい…

ついにわたしは哀願した。
その瞬間。
彼の手がわたしの髪を鷲掴みにし、ぐいっと喉を反らされる。
驚いて息を呑んだわたしの目に、彼がニヤリと笑うのが見えた。

  その言葉を待っていた。

普通に話している時には見せる事のない種類の、酷薄な笑み…。
ぞくっとした瞬間、潤っていたヴァギナが、溢れるのを感じた。

彼がわたしの上に覆い被さり、ゆっくりと貫く。
腕を押さえ込まれ、突かれる。
彼の目は、真っ直ぐにわたしを見ている。
わたしのどんな反応も、見逃すまいとしている。
その真摯な視線が、わたしを益々熱くする。
わたしも必死で、彼の目を見返す。
彼への想いを、彼にもたらされる快感の全てを、この目から読み取って貰える様に…。

彼のものが、ゆっくりとわたしを掻き回す。
突いて、引いて、突いて、引いて…
まるでゴリゴリと膣内を削られているよう…
身体がビクビクと痙攣し始め、わたしの頭から思考力が消え失せる。
そのまま、達し続ける…

  逝く…

その声に、拡散していた思考のピントが復活した。
彼がわたしの胸に顔を突っ伏した。
腕を回して、彼を精一杯抱き締めながら、自分の中に意識を集中する。

ドクン…ドクン…

彼のものがわたしの中で、脈打っている…
いま、彼がわたしで逝っている…
やっと、彼が逝くまで使って貰えた…
深い悦びが、湧き上がってくる…

不意に彼が起き上がり、わたしの顔の上に跨った。
わたしは彼のペニスを頬張り、彼の精液と、わたしの愛液を舐め取った。

荒い息を吐きながら、彼がゴロリと横になる。
その上にバスタオルをかけ、汗を拭いながら…

  …ありがとう…

そう言うのが、やっとだった…



7回目の逢瀬...5

2008/03/09(日) 00:40:43
お風呂に入り、ホテルを出ると、外はまだ明るかった。

以前の逢瀬は、ホテルから出て、指定された場所まで彼を送り届けたら終わりだった。
それがいつの間にか、帰る前に一緒に食事をする様になっていた。
けれどもその日のわたしは、その食事の時間さえも、逢瀬を締めくくるには物足りなく感じた。

  もう暫く一緒に居たい…

  この近所にドライブウェイあるけど…
  結構タイトなカーブが多い道だぞ、運転大丈夫か?


  大丈夫。峠を走るのは好きだよ。

この日、彼は、ブログを開いて、二人の軌跡を残したいと言い出した。
わたしは、迷った。
このブログ以外にも運営しているブログがあるわたしは、内容が重複しそうな複数のブログを管理する事が、難しい様に感じたのだ。
けれどもここには、あまりにも正直に書きすぎている。
一番怖いのは…Sさんの存在を知られる事だ…。

結局わたしは、既にブログを作っている事を白状した。

わたしに対して彼は、とても正直だ。
取り繕う事もしないし、誤魔化そうともしない。
常にわたしに対して、真っ直ぐに接してくれている事が、感じられる。
そんな彼に、わたしは内緒にしている事がある。
それが、辛い。
わたしも、嘘や誤魔化しを取り払って、彼と向き合いたい…。
そういう気持ちが勝ってしまったのだ。
帰ってからURLを知らせる事を約束した。

  こんな峠道なのに、安定した走りだなぁ。
  やっぱ運転してる時のお前は、男っぽい。
  いろんなお前が居て、楽しいよ。
  次はどんな顔を見せてくれるのかなと思う。


彼は、このブログで見せている顔も、受け入れてくれるだろうか…。

  俺がお前に挿れて動かすと、お前も腰を動かす。
  その動きが、最近はぴったりはまって、
  凄く気持ち良くなって来ている。


  そう…。それが、身体が馴染むって感覚なのかもね。

  ああ、そうかも知れない。

身体は馴染んできていても、わたしの心は乱れている。
それを知っても彼は、屈託のない笑顔を私に向けてくれるだろうか…。

  いい気候になって来たな。
  これからは、ホテルだけじゃなくて
  普通にドライブとかするのもいいかもな。


  そうだね。

  まあ、途中でお前には舐めて貰うけどな。
  俺はセックスは逢ったら絶対にするからな。


  好きなのね…。

  ああ、大好きだね。
  これが普通の彼女だと、途中で痛いとか
  身体だけが目当てなの、とか言い出して
  面倒臭えんだ。


  その点、わたしが相手なら、
  身体だけ目的なのが前提なのだから、
  そんな面倒なことは言い出さない。

  そう。
  おまけに長い時間やっても、
  お前は痛がらずに悦んでくれる。


わたしの淫乱さを、彼は悦んでくれている。
そんな彼に、わたしの心を見せて、それをも受け入れて欲しいと考えるのは、わたしには過ぎた望みなのではなかろうか。
そんな事ばかり考えると、つい黙り込みがちになってしまう。

  どうした?
  ブログを見せるのが、嫌なのか?


  そうじゃないけど…。
  ただ、内容は暗いよ?
  いつものわたしじゃないと思うし、
  Tさんの知らない事も書いてある。


  それは楽しみだな。

楽しんで読んでくれるだろうか。
もしかしたら、彼を失う事になりはしないか。

それを考えた時に、ぞっとした。
彼を、失いたくない。

自分の本心を、やっと見つけた気がした。



怒りに触れて…

2008/03/10(月) 15:06:13
このブログのURLを、彼に知らせた。

読み終わった彼からのメールは、
仕事の用事で外出している時に受け取った。

  内容についてはいい。
  お前の欲望などについても想定内だ。
  だがひとつ、許せない事がある。
  俺の事を報告している事だ。

  この意味が、お前にはわからないのか?
  お前は、Sに報告する事によって、
  間接的に俺まで陵辱させているんだぞ。
  胸糞悪い。


手が、震えてきた。
わたしは、自分の仕出かした事の重大さを認識した。
彼の逆鱗に触れてしまった事も、理解した。


彼を、失う。


その結末が、急に現実的なものとなった。
涙が、溢れてきた…。

やっとの思いで、彼に謝罪のメールを送った。
自分の思慮が足りなかった事、
今後二度と、報告行為は行わない事…。

すぐに返事が来て、夜にメールするから、とにかく今は仕事に戻る様に言われた。




その夜。
彼からのメール。

  お前には失望した。
  もっと凛とした女だと思っていた。


わたしは、凛とした女ではない。
強い女でもない。
本当のわたしは、自分に自信がなくて、自分の事が誰よりも嫌いで、自分を破壊してしまいたい、卑小で思慮が浅く、その癖に淫乱な、どうしようもない女…。

けれども彼に対しては、謝罪の言葉しか出ない。

暫くして、彼からメールが来た。

  お前、晩飯食ったか?

  …いいえ。

  少しは落ち着いたか?

  落ち着いたというよりも…
  あなたを失望させた事が悲しくて…
  わたしは…どうすれば
  償えるのでしょうか…?


彼からのメールが、沈黙した。
やがて入って来た返答…

  お前には仕置きを与える。
  次に逢った時にお前を打つ。



打つ…?
今までにも、鞭打たれる事は、あった。
それなのにわざわざ断るという事は、バラ鞭で打たれるくらいでは済まない、という事だ…。

  それから、常に俺が
  気持ち良く使える身体を保つ事。
  お前の体調次第で、抱き心地も
  締まり具合も全然違う。


彼が、わたしを使う前提で話をしている。
まだわたしを使って貰えるのだ…。

その夜は、それだけが、ただただ嬉しかった。


お仕置きの朝

2008/03/11(火) 15:58:56
8回目の逢瀬…。
今日は、彼からお仕置きを受ける日…。

夜明け前、極度の緊張で目覚める。
座薬タイプの下剤を使った後、お風呂に入って、丹念に身体を洗う。
この身体は今日、どういう使われ方をするのだろう…。
不安。
期待。
そのどれでもない、説明し難い複雑な感情。
どこをどうされてもいい様に、今の自分に出来る精一杯で、身体の手入れをする。

家を出る前にこれから出発する旨メールをし、彼の住む街に向かって車を走らせ始めた。

  早えな…。

  少しでも早く、お逢いしたくて…

朝方の、見通しの良い田舎の田圃道とは言え、時速80キロで飛ばしながら、携帯メールを打つ。
自分の命知らずな無謀さが、可笑しくなる。


  お前に決定的に欠落しているのは、
  自己防衛本能だ。


突如、Sさんの言葉が脳裏を過ぎる。

  自分を護ろうとしないのは、
  自分が可愛くないからだ。
  もっと自分を可愛がれ。


自分を可愛がる…。
わたしにとっては、あまり理解のできない行動だ。
わたしは、他人を踏み躙ってでも自分を可愛がろうとする人々を見て育ち、自分を可愛がるということに、一種の嫌悪感のようなものを持っている。
けれども、彼を失いたくないと切望するのは、彼なしで生きていく事が、自分にとってどれほど困難なものになるか、予想出来るからであって…。
つまりこれは、自分を可愛がる為に彼を欲している、という事になるのではないか。
そんな理由で彼を欲するのは、彼にとって理不尽ではないだろうか…。

そんな事を考えながら、車を操る。
周囲の交通量が増えてきたら、わたしの無謀運転はなりを潜める。
わたしが破壊したいのは自分であって、他人ではないからだ。
車には、他人を簡単に殺傷する能力がある。
わたしとてそれくらいの事は、理解している。


待ち合わせ場所に着いた。

  今、着きました。待ってます。

彼にメールを送り、彼が現れる筈の方角を、じぃっと見つめていた。

暫くして彼がやって来た。
わたしの姿をみとめた彼が、にっこりと笑う。
それは、いつもの笑顔と変わらなかった。

  段々、到着時間が早くなってるな。

  今日は凍ってなかったし…
  道にも慣れてきているから。


  そうか。じゃ、行こうか。

車中では、このブログや、他のブログの感想などを話して過ごした。
いつも通り、明るくて楽しそうな声の調子。
変わった様子は、感じられない…。

それでも、ホテルに到着した時には、いつもの様に抱き付いてはいけない、と思った。
ただ立ち尽くして、彼の動きを見守る。
彼が、わたしを見て微笑んだ。
少し勇気付けられて、そっと彼に向かって足を踏み出した。
その瞬間。

彼に、髪の毛を鷲掴みにされた。
わたしの中から、一切の感情が消え去った。
呼吸の仕方すら、忘れてしまった様な気がした。

  まずは仕置きを済ませよう。
  お前も早く楽になりたいだろう?


そう囁く彼の声は、今まで聞いたことのない種類のものだった。
低く、冷たく、静かで、高濃度に圧縮された怒りの他に、愉悦の匂いも感じる声…。
目を逸らしてはいけない…。
そんな気がして、必死で彼の目を見つめた。

鰐の目だ…。

愛情も憎しみもない。
目の前の獲物を、屠る事しか考えていない。
その圧倒的な力を行使する瞬間を、待ち望んでいる捕食者の眼…。

今日、わたしは、まったく新しい彼を知る事になる…。
凍てついた思考の奥底で、それだけを確信した。



初めてのお仕置き

2008/03/11(火) 23:04:14
彼は、わたしの髪から手を離すと、言った。

  脱げ。全部だ。

  …はい。

自分の声は、聞こえなかった。
もしかしたら、声が出なかったのかも知れない。
機械的に衣服を脱ぐ。
脱ぎながら、畳む。
畳まないといけない様な気がした。

彼は、わたしの周囲をゆっくり回りながら、感情の読み取れない眼でわたしを見ている。
時折手を伸ばし、わたしの髪を、慈しむ様に撫でる。
けれど慈しんでいる訳ではないのだ、と、感じる。
これは単に、これから使う道具の、手触りと強度を確かめているだけ…。

下着姿になった。

  …ぜんぶ?

声が、掠れた。
彼は今まで、全てを脱がせた状態からわたしを使い始めた事が無かった。

  全部だ。

わたしは作業を続けた。
脱ぎ終わって顔を上げ、彼の目を見て深呼吸をした。

  後ろで手を組め。
  そうじゃない。
  腕は伸ばせ。掌を組め。


彼の手には、赤い綿ロープ。
手首を縛られる。
続いて、肘の上辺りを縛られた。
ギチチッ…というロープの軋む音。
今までにない強さで、縛り上げられている。

首に、幅の広い革の紐が結ばれる。
彼が、首輪の代わりに好んで使うものだ。

  これ、何?

以前、初めて使われた時に、訊いた。

  ギターのストラップ。

楽器をやらないわたしは、答えを訊いても何か判らないままだったが、肌触りが好きだったので、それ以上は何も言わなかった。
彼の引っ張り方次第で、首を絞める強さが自在に変わる紐…その革紐が、首に食い込んだ。

ロープのきつさが、革紐の強さが、今までの彼ではないという事実をわたしに突き付ける…。

  お前は、俺を見てるのか?

何を訊かれているのか、一瞬判らなかった。

バシッ

いきなり頬を平手で打たれた。

…平手打ちなんて…どのくらいされてないんだっけ…

そう考える。
決してわたしが冷静なのではない。
感情の振幅が限界を超えると、わたしは、自分のおかれた状況について、主観的に考える事を放棄してしまう癖がある。
今のわたしは、何も感じない。
何をされても痛くないし、悲しくもない…。
そう自分に言い聞かせてしまうのだ。

打たれたまま、俯いていると、首の紐を引っ張られた。

  俺を、ちゃんと見てるのか?
  え?


バシッ バシッ

どう答えればいいのだろう…。

  俺を舐めやがって。

彼の声は、まったく激していない。
とても静かだ。
それだけに、凝縮された感情が滲んで滴り落ちている様な気がする…。
氷の声の下に渦巻く、灼熱の怒りを感じて、ぞっとした。
わたしは彼を、舐めていただろうか…?
頬を打たれ続けながら考える。
年下の、可愛いセックスフレンド。
そういう意識は皆無だったかと訊かれれば、答えに窮する。
Sさんに対する当て馬のつもりが無かったかと問われれば…全否定することは…出来ない…。
わたしは彼を、舐めていた…。

その時に、何をされても受け入れよう、と、決意した。
彼の怒りは、とても正当だ。
どんな罰も謹んで受ける事が、わたしの謝意の表明になる。
何よりも、ここで彼のお仕置きに耐える事が出来なければ、彼との関係は間違いなく終わる。
それだけは嫌だ。
彼を失うのは嫌だ…。

現実逃避を決め込んだ方のわたしが考える。
この人、平手打ちが上手い…。
変な当たり方をして、顔に痣が出来る様な打ち方はしない。
全くそうは見えないけれど、案外殴り慣れているのかも知れないな…。

冷静なわたしが存在していたのは、この時までだった。



初めてのお仕置き...2

2008/03/12(水) 01:00:14
彼が、腰からベルトを引き抜いた。
ズボンを脱ぐ…?
そうではなかった。
彼は、革ベルトでわたしを打とうとしていた。

  ベルトは嫌ッ!!

絶叫しそうになった。


わたしの父親は、わたしを殴る時にベルトを使った。
この人は、何が切っ掛けで怒り出すか判らない人で、さっきまで笑っていたのに、突然鬼の形相でわたしを叩き伏せたりした。
機嫌のいい時は、わたしの良き理解者だっただけに、この豹変と折檻を恐れつつもわたしは、父親と話をしたいといつも考えていて…。
近付いては、何か失敗をして、殴られて…。
そこに、わたしを産んだ人が乱入してきて…。
そして訪れる修羅場…。



彼を、失う…!

幼い頃の記憶に翻弄されていたわたしは、それに思い至り、やっとの思いで絶叫を飲み込んだ。
他人事の様に、身体と感情を切り離し、状況を客観視していたわたしは、この瞬間に霧散した。
真っ先に打たれたのが、どこだったのか…思い出せない。

ビシィッ

悲鳴が漏れる。
バラ鞭など比較にならぬ、本物の痛み。
姿勢が崩れると、髪を掴んで引っ張られる。

  真っ直ぐ立て。

あくまで静かで、調子の変わらない彼の声。
大声で怒鳴りつけていた父親よりも、そんな彼の方が恐ろしい。
彼の暴力行為は、感情の昂ぶりとは無関係のところにある。
それが、骨身に響いてくる。
間違いなく、彼の性癖は歪んでいる。
わたしは何処まで、彼の仕打ちに耐えられるだろうか。
怖い。
彼が、怖い。
でも、彼を失う方が、もっと怖い…。

ビシッ ビシィッ

革ベルトは、わたしの太股と乳房を集中的に打ち据える。
苦痛の悲鳴を上げながら念じる。
耐える、耐える、耐えてみせる…

突然、突き飛ばされた。
後ろのベッドに、仰向けに倒れ込む。
その時に気付いた。
自分の内腿が濡れていることに。

凄まじく混乱した。
幼少期のトラウマを刺激され、古傷を抉り出され、肉体に激痛を与えられながら、何故、わたしの女陰は悦んでいるのだろう?
溢れて腿に流れ出す程に…。

わたしに馬乗りになる彼。
平手打ちを浴びせられながら、わたしは、自分の身体が理解できなくて、呆然としていた…。



初めてのお仕置き...3

2008/03/12(水) 09:03:06
首の革紐を引っ張られ、立たされた。

彼の額に、汗が光る。
けれども、元々アスリートで、今でも身体を鍛えている彼は、息一つ乱していない。
おもむろにミネラルウォーターのボトルを手に取り、水を飲む。
まさかわたしには飲ませまい…
そう考えた時、彼が口に含んだ水を、わたしの顔に吹きかけた。

ある意味、屈辱的な行為。
他の誰かにやられたら、冗談でも決して許しはしない、その侮蔑の行為。
わたしの感情は、不思議なくらい動かなかった。
革ベルトで打たれながら濡らしているような淫乱な女の癖に、何が尊厳か。
それにわたしは、彼に軽蔑されてもしょうがない程のことを仕出かしたのだ…。

アイマスクが付けられた。
そして、別の道具が用意される気配…。

それは最初、左乳首につけられた。
何これ…?
乳首に激痛が走る。
洗濯ばさみだ…!

  あ…あ…あああ゛あ゛ーーーーーーっっ!!

悲鳴を殺そうとしたが、喉から勝手に迸ってしまう。
念じ続けていた『耐えてみせる』という言葉が、完全に意識から飛び去った。
洗濯ばさみの数は増えていく。
右乳首に…お腹に…わき腹に…腕に…。
脂肪で弛んだわたしの身体、挟む場所には事欠かぬ筈だ。
身ではなく、皮1枚を挟む様に調整しながら、つけられているのが判る。
悲鳴を上げながら身体を捻ると、髪をがしっと掴まれる。

  動くな。

  痛いーっ! 痛いよぉーっ!

いつの間にかわたしは、涙を流し、声を上げて泣いていた。

  動くなと言うのに。

彼の声からは、何の感情も感じられない。
叱責するような言葉なのに、苛立ちすらも感じないのだ。
泣きじゃくりながらわたしは、ここで『やめて』と叫んでしまったら、彼とはもう逢えなくなる…という事だけを考えていた。
この責めがいつ終わるのか、という事は、考えていなかった。

バシッ ビシビシッ

  ぎゃあーーーーっ!!!

バラ鞭で、打たれた。
洗濯ばさみが衝撃で吹っ飛んでいく。
皮膚に激痛を刻み込んで。

  あ゛ーーーいだいーーーっ!!

泣き喚く。
座り込みそうになる。
髪が掴まれ、引っ張り上げられる。

  ちゃんと立て。

  いだいいだいよーーあ゛ーーーっ!!

  前向いて立てって。

立たされて、またバラ鞭で打たれる。
蹲って泣き喚く。
静かに叱責されて、引っ張り上げられる。
『やめて』とだけは言ってはいけない…
『やめて』とだけは…
呪文の様に心の中で繰り返す…

どのくらいの時間が経ったのだろうか…
アイマスクが、外された。
彼の眼は、人間の眼に戻っていた。
とても穏やかで暖かな、愛おしいものを見る眼…。

  許す。…許してやる。

わたしにキスをし、優しく抱き締める。
彼の胸に顔を埋めて、しゃくり上げた。

  ごめんなさい…

  …許す…。

囁きながら、わたしをベッドへ横たえる。
縛られたままの腕が、かなり痛む。
けれど『もう解いて』と言ってしまっていいものかどうか、迷っていた。
彼がわたしの乳首を舐める。

  あ…ああ…あ…ん

腕の激痛が堪らないのに、思わず漏れる自分の声には、もう甘さが混じっている。
彼が唇を離し、わたしの乳首を見つめながら呟いた。

  俺の大事な乳首から、血が出た…。

  え…血? どこ?

  今はもう見えない。全部舐めた。
  あぁあ…乳は責めたいけど、
  傷付けたくはないんだよなぁ…。
  難しいなぁ…。


もう彼は、いつもの朗らかさを取り戻している。
はっと気付いた顔をして言った。

  解いてやる。後ろを向け。

ゆっくりと綿ロープが解かれた。
足元に、ぱらりと落とされる。
両腕の感覚は、すっかり失われていた。
痺れてしまって動かない。
それでも、持ち上げることは出来る。
わたしは振り返り、彼に抱きついた。
彼が、優しく抱き返してくれる。
痺れる腕を彼の背中に回し、精一杯の力を込めた。
彼と唇を合わせ、舌を絡ませ合いながら…

彼のお仕置きを受けて…耐え忍ぶことが出来た…

そういう実感が胸を満たし…
それまでとは違う意味の涙が溢れてきた…



お仕置きの後…

2008/03/13(木) 02:21:16
口移しで水をたっぷり飲ませてくれた後、

  休め…。

彼はそう言って、わたしをベッドに横たえた。
わたしはその場で丸くなる。
まだ止まらぬ涙を拭いもせずに、ベッドの足元部分で、膝を抱える様な姿勢になった。

彼がわたしの後ろに寝そべった。
背後から、わたしの肩や髪をそっと撫でる…。



あの時…わたしは、何を考えていただろう…。

何も考えていなかった様な気がする。

時々鼻を啜り上げながら、ただただ、放心していたと思う。



彼が、ベッドの上の方に移動していく気配があった。
背中がすぅっと寒くなった。
わたしは、動かなかった。



気がつくと、腕の痺れは消えていた。
そっと指の動作確認をして、異常がないのを確かめた。
涙は止まり、頬も乾いていた。
姿勢を変えて、彼の姿を確認する。

彼は、枕に頭を乗せ、大の字になっていた。
眠っているのかと思ったが、目は開いていた。
わたしが彼を『可愛い』と感じてしまうのは、普段の彼の目の所為だ。
歪んだ性癖を持っていることを感じさせぬ、邪気のない明るい光を湛えた、澄み切った瞳…。
その目を見開き、彼はじぃっとしている。

わたしはごそごそと傍らに這って行った。
彼の腕の下に潜り込み、わき腹に寄り添う。
彼がわたしを見下ろした。
わたしを抱き寄せ、髪の中に指を入れる。
そのまま髪を梳きながら、視線を天井に戻す。

わたしは彼の顔を見上げ続ける。
一体なにを考えているのだろう…?
こうして頭をゆっくり撫でられていると、眠ってしまいそうだ…。

  この天井の模様、落ち着くな…。

彼が、呟いた。

  え…?

天井に視線を転じる。
モルタルの様な粗さのある素材。規則正しく溝が刻まれ、縞模様の陰影を見せている。

  今までの部屋の天井、見てなかった…。
  どんなんだったっけ?


  普通の…つるっとした天井だった。

  そう…?

彼は再び、黙り込んだ。
わたしも天井を見上げたまま、口を閉じた。

彼の、ゆったりとした穏やかな呼吸音が聞こえる。
そこにわたしの呼吸が重なる。
規則正しい、微かなふたつの呼吸音が、室内を満たす。

とても、静かだった。





初めてのイマラチオ

2008/03/14(金) 00:45:02
  そろそろ餌をやろう。

その言葉で、静かな時間は終わりを告げた。
彼がベッドから降り、ズボンと下着を脱ぐ。
わたしも急いで起き上がり、仁王立ちしている彼の足元に跪いた。

彼は、フェラチオを「奉仕させる」とは言わない。

  これは、お前の餌だ。
  たっぷりと味わえ。


そう言う。
それほど、彼をしゃぶっている時のわたしは、嬉しそうなのだそうだ。

唇と舌と手を使って一心不乱に、咥えて、舐めて、吸って、扱いて、彼のものが膨張し、硬直し、わたしを狂わせる凶器へと変貌していく過程を確かめ、味わう。

  ああ…気持ちいい…。
  お前、上手くなったなぁ…。
  どこに出しても恥ずかしくないフェラだ。


どこに出しても…って、どこに出す気なのだろう?
他の男にわたしを使わせたいという願望が、やっぱりあるのだな…と、漠然と考える。

わたしの頭を撫でていた彼の両手に、力が入った。
じわじわと喉の奥まで捻じ込まれる。
完全に怒張した彼のペニスは、わたしの喉をすっかり塞いでしまう。

んぐ…ぐぇ…

わたしの喉から、聞き苦しい音が漏れる。
いつもなら、ここで彼は手を離すのだが、その日は違った。
わたしの頭を、押し続ける。

ぐ…ぐぶっ…

わたしは、噎せる。

  こうされたかったんだろう?
  これが、好きなんだろう?


頭上から降ってきた彼の声には、残虐性が滲み出し、ぞっとする様な響きがあった。
そう、こうされるのが望みだった。
動かして欲しい…。
その気持ちが通じたかの様に、彼がゆっくり、わたしの口の中で動き始める。
初めての、イマラチオ。
嬉しい。
でも、苦しい。
粘度の高い涎が、噎せる度に唇から溢れ落ちる。
それでも、わたしの喉を突くのより、頭を掴んでいる手の方に、彼の力の集中を感じる…。

ぐぼぇぇ…っ

喉の奥まで押し込まれ続けて、とうとうえずいてしまった。
背中を丸めたわたしの頭を、彼が解放する。
びちゃっと、わたしの膝の上に嘔吐したものが落ちた。
ただの水のようだった。
朝から固形物を胃に入れていなかったからだろう。
胃液が逆流した感じもなく、休憩で飲んだ水を吐いただけだった。

  後ろからしてやる。
  立て。


言われて、乱れた呼吸を整える間もなく、後ろから貫かれた。
激しく突き上げられて、わたしは、悲鳴に近い喘ぎを漏らしながら狂乱した…。




彼。

2008/03/14(金) 21:04:39
後ろから激しく責め立てられ…何度も達して、動けなくなったわたし。
それを、ベッドに横たえて休ませ、水を飲ませた後、仰向けになり、天井を見つめながら、彼が口を開いた。

  俺のことを優しいと思ってるんなら…。
  それは、俺をちゃんと見ていないって事だ。
  俺の優しさは…俺のこの欲望を、誰にも悟られまいと
  隠してきた結果、俺が纏っている鎧の様なものだ。
  お前は、その鎧しか見ていないんだ。


何も、言うことが出来なかった。

  こっちは初心者だぞ。
  何十年も封印していた欲望を一気に解放して…
  途中で制御する事が出来なくなったら、
  …どうするんだ…?


この時の彼の瞳は、黒い大河の濁流を覗き込んでいる様だった。
彼のこんな暗い眼を初めて見た、と思った。

イマラチオの時、彼の手の方に力を感じた理由を、理解した。
あの時感じた力は、抽送を補助するものではなかった。
わたしの自由を、封じ込める為のものでもなかった。
あれは、欲望が暴発しそうになるのを、必死で抑制していたが故の力。
彼の、強靭な意志力の顕在…。

自分がサディストであると自覚した時から…彼は、自分自身の欲望と、壮絶な闘いを続けてきたのだろう。
独りきりで。
その上で、あれだけの鎧を構築出来るとは…彼の、並ならぬ精神力を思い知らされる…。

わたしも、彼とは分野が違うけれども、誰にも理解してもらえない苦悩を抱えている。
人と違うということがどれだけ孤独かは、身に沁みてよく知っているつもりだ。
けれどもわたしは、とても脆い。
そう思っている人は少ないけれど…強い女だと言われてばかりだけれど…その実、蝶や蛾の腹部の様に脆くて、ちょっとした打撃で、すぐにぐちゃりと潰れてしまう。

この時、わたしの胸中に込み上げてきた想いを、どう表現すれば良いのだろうか。
彼への共感、愛しさ、敬意…。
どれをとっても、当て嵌まらない様な気がする。
未だに言語化出来ぬものを、その時のわたしが伝達できる訳もない。
けれども何とか伝えたい…。
そういう時、わたしは、身体で表現しようとするのだ。
獣のように。

身体を起こして彼に覆い被さり、その唇を貪った。
彼が、応える。
やがて彼の方がわたしの上へと位置を変え、中に入ってくる。
先ほどとは打って変わって、わたしの感触を、隅々まで味わおうとするかの様な、穏やかだけれども力強い抽送…。
思わず、口を突いて言葉が出た。

  T…Tさん…。

  ん…?

  Tさんを、好きに、なってもいい…?

わたしが好きになる人は…夫も、Sさんも、そのうちわたしを持て余す事になる様だから…。
それが彼にも、判った筈だから…。

  俺は、彼女とか、そういう女には欲情しない。
  こうしてお前を突かなくなる。
  それでも、いいのか?


  違う…。
  彼女なんかじゃなくていい…。
  玩具のままでいいの…。
  ただ、わたしがあなたを、好きでいていいか…。
  好きでいさせて欲しいの…。


彼は、それには答えず、優しく微笑しただけだった。

いかに本性を隠す為とは言え、中身とあまりにも乖離している鎧なら、気味の悪い歪さがどこかに必ず見える筈。
けれども彼は、そうではない。
こちらまで優しい気持ちになれる優しさ。
一緒に居て愉快な気持ちになれる明るさ。
これらを、暗い黒い衝動や残酷さと共に、表裏一体で併せ持つ。

それが、彼。
わたしの全てを、支配しつつある人。



彼の言葉

2008/03/15(土) 04:42:27
彼が、空腹だと言うので、ソファに移動した。

  お前、来るのが早すぎ。
  俺、朝飯食う時間なかったぞ。


笑う彼に、途中で調達した食料やおやつを披露する。
食べ始めた彼の足元で、わたしは部屋中に散乱した洗濯ばさみを集めてきて、整理していた。

  どうした?
  上に座らないのか?


  ん…ここがいい。

ひと息ついた後、再び彼が口を開いた。

  俺は、お前の離婚の理由も事情も何も知らない。
  けれど…離婚ってのは、夫婦両方に原因があると思ってる。


わたしは、彼を見上げた。

  それから、俺がおまえを見ていて思うのは、
  おまえはおそらく無意識なんだろうが、
  男の領域に平気で踏み込んだり、
  踏み躙ったりすることがあるんじゃないかと思う。


夫に言われて…その時には理解できなかった事。
それらの言葉が、そういう視点から見たならば理解できる、と思った。

  俺の言う事、事情も知らない癖に、と思うか?

わたしは、首を横に振る。

  思い当たる事が、ある…。

  そうか。

初めて聞く、彼の声色だった。
春の雨の様に、穏やかで、暖かくて、わたしの耳と心に、ゆっくりと沁み込んでくる。

  お前の心象風景を想像すると、
  広い草原の中で、お前は、大きな樹の
  切り株を見て呆然と立ち尽くしている。
  そんな絵が浮かぶ。
  大きな樹は、旦那さんだ。
  今までは、この大木の陰で雨露を凌いで、
  快適に暮らしていたのに、
  突然切り倒されてしまった。
  それでお前は、途方に暮れている。


彼の職業は、クリエイターだ。
その想像力から紡ぎ出される言葉は、わたしの脳裏にも微細な情景を浮かび上がらせる。
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。

  お前はとにかく樹の下に逃げ込もうとしている。
  最初は、Sだ。
  Sが駄目なら、俺。
  依存する先を探してるんだ。
  俺を好きになりたいというのは、
  俺に依存したいって事だろう?


彼の大きな手が、わたしの頭を撫でている。

  人は、出逢った以上、必ず別れなければならない。
  どんな形であれ、別れは必ず来る。
  その覚悟はしておかないといけない。
  俺は、お前を失う事も覚悟している。


  もう…?
  逢ったばかりなのに…?


  逢った瞬間から、いつも覚悟してるんだ。

彼を失う事をひたすら恐れているわたしには、到底出来そうもない…。
涙がぽろぽろと零れ落ちる。

  失う度に、次に逃げ込む先を探す様では駄目だ。
  自分自身が大木にならないと。
  その為には、何か、軸になるものを持て。


  …軸…?

  そう、軸。
  軸があってしっかりしていれば、
  多少の事があってもぶれたりしなくなる。


  Tさんの軸は、なに?

  俺か…俺は、バイクかな…。

大好きで、打ち込めるものという意味なのだと理解する。
わたしが打ち込めるものは、何だろう…。
いろんな趣味はあるけれど、その殆どが夫に教えられたものだ。必然的に、夫と危機を迎えている今、足が遠のいてしまっている。

彼を見上げたまま、思考を巡らせる。

以前、打ち込んでいたものは、仕事だった。
けれども今はその仕事も失い、しがない事務員として糊口を凌いでいる有様。
夫に関係なく打ち込んでいることといえば、読む事と、書く事…。

  それから…欲望を、実現させる事かな。

彼の欲望は、性的なもののみならず、多岐に渡る。
そしてそれを実現させる為にどういう努力をしているか、わたしはその一部を垣間見ている…。

  お前の軸になるものを探せ。
  なにものにも依存しない女になれ。
  自立した、かっこいい女になるんだ。


彼が望むなら、そういう女になりたい…。
そう考えてから、打ち消す。
この思考そのものが、既に彼に依存しているではないか。
わたしは、わたしの意志で、そうならなければならない。
彼が求めているのは、そこなのだ。

彼が、ニヤリと笑った。

  そういう女を、俺の下で
  ヒィヒィ言わせるのが愉しいんだから。


わたしは、涙を流しながらも、声を立てて笑った。



蓮華草

2008/03/16(日) 03:14:21
春が来る。
日に日に温度が上がり、雲雀が長閑な歌声を響かせている。
鶯もやって来た。
下手糞な囀りで、春を謳歌している。
これからどんどん、上手に鳴ける様になるのだろう。

もうすぐ、付近の田圃は蓮華草で埋め尽くされる。
蓮華草を見ると、わたしの心の奥底に封印された出来事が、息を吹き返す。
わたしが、自分が女であることを忌まわしく思う様になった、原初の出来事…。



幼い頃わたしは、西日本の田舎町に住んでいた。
両親と、妹たち。
その隣家に、父方の祖母。
妹たちとは歳が離れていた為、わたしはよく、近所の同じ年頃の男の子たちと野山を駆け巡って遊んでいた。
1人で遊ぶ事も、苦痛ではなかった。

その日わたしは1人で、いつもは行かない蓮華畑で蓮華摘みをしていた。
そこに、会った事のない男の子が現れ、一緒に遊んだ。
おそらく、中学生くらいだったと思う。
どういう会話を交わして、そんな事態になったのか…記憶がない。
わたしは蓮華畑に横たえられ、下半身をむき出しにされていた。
『お医者さんごっこだよ』
手垢に塗れたあまりにも陳腐な理由付けで、わたしはそんな状態にされ、未発達な女陰に蓮華草を飾られていた。
わたしを見下ろす少年の、顔も、表情も、全く憶えていない。
ただ、自分の周囲を埋め尽くす蓮華草を、いつもとは違う角度から見つめていたその情景だけが、わたしの記憶に映像を結ぶ。

その出来事が、何故、大人たちの知るところになったのか。
それも記憶にない。
ただ、わたしの家にたくさんの大人がやって来て大騒ぎになり、母が泣き叫び、祖母と父が怒号を上げていた。
訪ねてきた大人たちの内数人が、玄関先で土下座していた。
一緒に遊んでくれた少年の姿は、なかった。

やがてわたしは、祖母の傍らに呼ばれた。
そしていきなり祖母にパンツを脱がされ、スカートをたくし上げる様に言われた。
大人の女の悲鳴が、響き渡った。
母と、土下座していた女の人だった。
その声でわたしは、下着を脱がされるという事が、とても異常で酷い事なのを悟った。
『しのぶちゃん、言いなさい。
 あんたをこうしたのは誰?
 ここに居る?
 ここをどうされたの?
 言いなさい!』
祖母が言う。
『やめて下さい!
 お願い、もうそんな事、しないで上げて…!』
土下座した女の人が、号泣していた。
わたしも泣いていたと思うが、憶えていない。
『(母の名)さんの娘は怖いねえ。
 こんな子どものうちから、こんな事されて悦んでるなんて。』
『違います!
 こんな子に育てた覚えはありませんっ!
 私のせいじゃありませんっ!』
祖母の、底意地の悪い声と、母の悲鳴。
そんな中、土下座していた女の人が、泣きながらわたしに言った。
『ごめんね。
 しのぶちゃんは、何にも悪くないんだからね。
 うちの子が悪いんだからね。
 気にしちゃ、だめだからね。』
この夜の事態が、どう終わりを告げたのか、それも記憶にない。

それから暫くの間、わたしは少年と会った蓮華畑にこっそり出掛けていた。
少年ではなく、少年の母親に会いたかった。
どうしてわたしは悪くないのか、その理由を教えて欲しかったのだと思う。
勿論、再会などできる筈もなかった。
その出来事から程なくして、一家は引っ越してしまっていたからだ。
それをわたしが知ったのは随分後だったが、わたしが残念そうな顔をしたのだろう、母が憎々しげに言った。
『なに、あんた会いたかったわけ?
 つくづく厭らしい子だねぇ。』



今でも、蓮華草を見ると、思い出す。

あの時の少年は、どんな大人に育ったのだろうか。
それを知りたいと、わたしは今でも思っている。



眼球愛撫

2008/03/16(日) 12:47:49
ソファの上で寛ぐ彼。
その足元に座り込み、涙を流し続けるわたし…。

彼がソファに寝そべり、わたしを抱き寄せる。

  久しぶりに、舐めたい…。

彼が舐めたがるのは、わたしの眼球。
わたしはおとなしく彼の為すがままになり、涙で濡れた眼球を舐められる。


-----


初めて眼球を舐められたのは、何度目の逢瀬の時だったろう。

  他にわたしにしたい事、ある…?

ベッドの上で、彼の腕の中に抱かれながらそう訊いたわたしに、彼は微笑んで、

  ある。

そして、逡巡する様な表情を一瞬浮かべた。

  眼球、舐めたい。

  眼球!?
  …目玉のこと?


  うん。…嫌か?

  いや…コンタクトもしてないし、
  大丈夫だと思う…。


コンタクト。
何という頓珍漢な返答だろう。
そう考えてわたしは少し可笑しくなった。
彼はすぐにわたしの上に圧し掛かり、瞼を指で押し開くと、舌を眼球の上に這わせた。
経験した事のない、不思議な感触…。
舐めながら呼吸が荒くなる彼の体重を受け止めながら、この人の性欲はやっぱり少し変わっているな…と考えた事を思い出す。

あれは、初めて逢った時の出来事だろう。
あの時わたしたちは、これからどんな欲望を実現させたいか、そんな事を話し合っていたから…。

  痛いか…?

  ううん。大丈夫。

  眼球舐められるのって、どんな感じだ?

  …わかんない…初めてだし…不思議な感じ…。

  俺も初めてだ。
  …嬉しいよ。願望を叶えてくれて。
  ありがとう。


  ううん。

  お前は?
  お前は、今まで叶えられなかった願望、何かないか?


  ん…と。

わたしも逡巡する。
壊して欲しい。
完膚なきまでに。
いきなりそんな事を要求して、彼を怯ませはしないだろうか…。
少し考えて、無難かも知れないと思った願望を口にした。

  口の中に出したり…
  顔に出したりして欲しい…。


  それって…顔射か?

  う、うん…。

  変わってんな…。
  普通の女は嫌がるぞ?


  そ、そうなのかな?

何故、普通の女は嫌がるのだろう?
あれこそ、男に完全に征服された証のような行為ではないか。
過去に、そうして欲しいと頼んだ男が居ないでもなかったが、『AVの見過ぎだ』と一蹴され、汚いものを見る様な目つきをされた。
それっきり、その願望をわたしが口にする事は無かった。

けれども彼は、嬉しそうに笑った。

  そうか…お前も変わってるんだ…。

そしてわたしを強く抱き締めた。

  お前も、変わった女なんだ…。

彼が、悦んでくれているのが判った。

  今日は残念ながら出来ないが…
  風邪が治ったら、必ずしてやる。


そう、初めて逢った時、彼は酷い風邪をひいていて…。
強い咳止めの副作用で、前立腺異常を起こしたのか、勃起力を失っていた。
メールのやり取りで、彼はそれを正直に告白し、逢いたい気持ちは強いけれども、わたしを失望させる事になる、と告げて来たのだった。

あの時わたしは、その正直さに、彼の誠意を感じた。
『風邪が治らないから逢わない』
のひと言で、良いではないか。
それをしなかった彼のメールから、わたしを強く求める気持ちと、わたしに対して誠実であろうとする気持ちを感じて…。
逢う前からわたしは、彼を単なる肉欲解消の相手として見る事が、出来なくなっていたのだ。

  元気になったら、お前の穴という穴全てを犯してやる。
  全ての穴に、ぶちまけてやる。
  勿論、顔にもだ。
  楽しみにしていろ。


あの時彼は、とても愛おしそうにわたしを抱き締めて、耳元でそう囁いた…。


-----


彼の舌が、まだわたしの眼球を舐め回している。
彼の加虐願望の強さを知った今では、その行為に一抹の恐怖を感じる。
彼は本当は、わたしの眼球を抉り出し、飴玉の様に口に含みたいのではないだろうか…。
そうされた時、わたしの眼球は、どんな味がするだろうか。
血液以外のどんな味を、彼の舌に届けるだろうか…。

舐められ続けて、わたしの涙が止まる。
眼球から、頬、唇と、彼の舌がその場所を移動する。
唇を離し、わたしの目を覗き込んで、彼が言った。

  舐めろ。

わたしは頷くと、ソファに座り直した彼の膝の間に、身体を滑り込ませた。



初めてのアナル

2008/03/17(月) 00:15:44
一生懸命に、彼のものを舐める。
彼に教わった通りに、道具を動かす。
手、舌、唇が、わたしの持つ道具。
袋の方にも舌を這わせ、睾丸をそっと吸い込んで、口の中で遊ばせる…。
根元から舐め上げて、先端部で舌を蛇の様にちろちろと動かす…。

彼が、呻く。

  すげぇ…。
  並みの男なら、我慢できんぞ。
  きっとすぐに逝っちまうだろうな…。


彼の言葉の端々に、他の男にわたしを使わせたいという願望を感じてしまう。
他の男に使われて…口であっと言う間に逝かせられたら、わたしはきっと、わたしをそう仕込んだ彼を、誇らしく思うに違いない。


彼が、コンドームを手にした。

  え、コンドーム…?

ニヤリと笑う彼。

  こいつにはちゃんと使い道を考えてあるんだ。
  立て。
  後ろから挿れてやる。


まさか…。
胸を過ぎる一抹の…これは、不安ではない。
明らかに、期待だった。

彼は、いつもいきなりわたしに挿入する。
けれどもそれで、わたしが痛みを感じる事はない。
彼のものが入って来た途端に、いつも自分が噴き出す様に濡れるのが判る。
それに、彼を舐めてから挿れられる時は、わたしも常に充分に潤っている。
その後に、そこにもたらされる悦楽を、わたしの身体が知っているのだろう…。

立ち上がり、ベッドに手をついて、彼を待つ。
彼が、後ろから入って来て、突き上げる。
わたしは、喘ぐ。
漏れる声は、悲鳴のよう。
一番深いところまで、彼に突き入れられて、髪を振り乱して悶え狂う。

アナルに、ひんやりとした感覚。
やはり、アナルを使う気だったのか…。
たちどころに冷静なわたしが出現する。
下剤を使ってきておいて、良かった。
わたしの声に、獣の様な響きが混ざる。
感じるのは、異物感。
それ以上でもそれ以下でもない感覚。
アナルよりも、彼のペニスが食い込んでいる感覚の方が、わたしを狂わせている。
子宮にまで届き、がつん、がつんと突き破られそうな、痛みと紙一重の快感。
激しい痙攣が、全身を襲う。
自分が、深く達し始めたのを知る。
声が途切れ…身体が仰け反り…意識が拡散していく…。

四肢から力の抜けたわたしを、彼がすぐにベッドに抱え上げた。
深い絶頂の余韻で、まだ身体がびくん、びくんと痙攣する。
朦朧としたわたしの視界に、彼が指にはめたコンドームを剥がし、ゴミ箱に捨てている光景が入った。
汚れていなければ良いのだけれど…。
ぼんやりと考える。
彼がわたしの横に寝そべり、穏やかな笑顔で頭を撫でてくれる。

  すげぇよお前。
  痛がりもしない。
  それどころか逝くなんてな。


  逝ったのは…突かれていたから…。
  指、入れたの…?


  ああ、中指の、第二関節までスルっと入った。

  うそ?

わたしは驚いた。

  第二関節って…ここ、だよね?

  ああ。
  解そうと思ったら、あっさり入った。
  驚いたぞ。


  …ここまで、入ったの…?

  すごいぞお前。
  すごいポテンシャルだ。


ポテンシャル。
わたしは車か。
くすっと笑った後、あくまでわたしをモノと見なしている彼の視点に気付き、ぞくっとした。

  これから毎回、アナル調教するぞ。
  次は指を2本入れてやる。
  この調子なら、俺のチンポもきっとすぐに入る。


彼はとても嬉しそうだ。

  お前の穴全てが、俺に使われるんだ。
  どんな気分だ?


突然、その声に混じる酷薄な色。

  …早く、全部使われたい…。

嬉しかった。
日一日と、彼を悦ばせる玩具になっていく自分が、とても、嬉しかった。



変質者

2008/03/18(火) 00:15:42
小学校低学年の時だった。
わたしは、家の近所の道路で、同年代の少年たちと遊んでいた。
そこに通り掛かった労務者風の男。
異様な熱を持った視線を感じ、わたしはその男を見た。
男は、急に進路を変えると、わたしに真っ直ぐ近寄ってきた。
この人何か変…と身構えた時には、もう男は眼前に迫り、手を伸ばしてわたしの胸をべろりと撫でていた。
悲鳴を上げたわたしと、わたしに駆け寄る友人たち。
男は、歩調を変えずに立ち去りながら、首を捻じ曲げてわたしを見つめている。
わたしは、憎悪を込めて男を睨んだ。
男は、舌なめずりをして見せた。

一緒に遊んでいた少年たちの口から、その出来事が大人の知るところとなった。
母親は、ため息をついて言った。
『またなの?
 なんであんたばっかり
 こんな目に遭うんだろうねぇ…。』
その少し前にも、わたしは、性器を露出して見せる男に、付け回されたばかりだったのだ。
答えは簡単だ。
その地域には、わたしと同年代の少女が居なかった。
わたしの他は少年ばかりだったのだから、わたしの様な年齢層を狙う変質者が相手なら、自然わたしだけが標的になるのだ。

それから数日後。
やはり近所の少年たちと遊んでいたわたしは、その男が歩いてくるのを見つけた。
『あいつだ!』
わたしたちは、隠れた。
男が立ち去った後、少年たちが後を付けようと言い出した。
当時、わたしたちの一番お気に入りの遊びが、少年探偵団ごっこだった。
わたしたちは、物陰に隠れながら、男を尾行した。
男の家は、わたしの家からそう離れてはいなかった。
表札も出ていたが、習っていない字で読めなかったので、わたしはその文字を図形として脳裏に焼き付けた。
その日の出来事は、誰にも話さなかった。
ただ、憶えた字を何と読むのか、父親に訊いたのみだった。

それから暫くして、うちに警察官がやって来た。
わたしの胸を触った男について、詳しく訊きたいという事だった。
どうやら他所でも同じ様なことを繰り返している、常習者であったらしい。
『その人なら、何処に住んでいるか知ってます。』
得意になって、そう言った。
『へえ、そうなの? どうして?』
『尾行したんです。名前も判っています。』
『そうか…連れてってくれるかな?』
わたしは、警察官を見て興奮し、集まってきていた遊び仲間たちと共に、彼を案内した。
案内し終わった後、警察官は言った。
『どうもありがとう。助かったよ。
 でも、危ないから、もう二度と
 尾行なんかしちゃいけないよ。
 皆もだよ。』
わたしたち少年探偵団は、誇らしい気持ちと残念な気持ちを、同時に味わったのだった。

家に戻ると、母親が言った。
『普通、怖い目に遭わされた相手を尾行なんてするかねぇ。
 あんたがこんな目にばかり遭ってるのは、
 やっぱりあんたが色目を使ってるからなんだよ。』
『色目ってなに?』
『あんたがそういう事をされて、嬉しがってるって意味。』
母親は、汚いモノを見る様な目つきをして言い捨てた。
『嬉しくなんかないよ…。
 わたししか女の子がいないからだよきっと…』
『それにしたって、あんたそういう目に遭い過ぎる。
 要するにこれは、あんたに隙があるって事なの。』
『隙ってなに?』
『男を誘ってるっていう意味。』
わたしには、理解できない事ばかりを言われた。
ひとつだけ理解できたのは、変質者に遭ってしまうのは、どうやらわたしに非があるかららしい、という事だけだった。

その男の姿は、それ以降、見かけなくなった。



被虐嗜好

2008/03/19(水) 00:11:52
わたしの身体は、彼の加虐に反応する。

決して、痛みを気持ちよく感じている訳ではない。
痛みは痛み、それ以外のなにものでもない。
それなのにわたしの身体は、それを快感に変換し、わたしの秘部をしとどに濡らす。



何度目の逢瀬の時だったろう。
ベッドで抱き合って愛撫しあいながら、

  痕が残ってもいいから…
  お願い…わたしを噛んで…


彼に、そう懇願した事がある。
夫はもう、わたしに手を触れない。
それを確信した直後だった。

彼は一瞬、迷う様な表情を浮かべた後、わたしの乳首を舌で転がしながら、ゆっくりと歯を立てていった。

  い…いい゛ーーーーーーーっ!!

自分の声かと思う様な悲鳴が出た。
わたしとしては、肉食獣が獲物を食む様に、口を大きく開けて噛む事を求めたつもりだった。
局部的に乳首だけを噛まれるとは、全く予想していなかった。
その驚きが、激痛に拍車をかけた。
彼の方は、一度加虐を始めると夢中になるのだろうか、もう片方の乳首にも噛み付いた。

  ぎぃぃーーーーーーっ!!

金属的な悲鳴が出た。
そんな声を聞いても、彼は怯まない。力も緩まない。
それどころか、暴れるわたしの身体を押さえ込み、ギリギリと歯を立て続ける。

痛い痛い痛い痛い痛い……

自分で要求しておきながら、その痛みに挫けそうになる。
けれどもわたしはその時、自分の女陰が燃える様に熱くなり、溢れ出し、とろとろと滴り落ちるのも感じていた…。



この日のわたしは、いつにも増して、自分を壊してしまいたかった。
痛め付けて欲しかった。
当時はまだ、優しさの鎧を強固に纏っていて、わたしを壊してくれる人なのかどうか判断の付かない彼に、少し焦れる気持ちもあったと思う。

行為の後、乳首から唇を離し、

  相当力入っちまったぞ。
  大丈夫か。
  血、出てないか…。


と呟いた彼。

今にして思えば、わたしの乳房は傷付けたくない、という気持ちから出た言葉だったのだと思う。
当時のわたしは、わたしの身体を気遣ってくれているのだと解釈した。
勿論、そういう意識も彼にはあるだろう。
純粋にわたしの身体を気遣っているのか、今は気に入っている玩具をまだ破壊したくないのか…そこは判断が難しい処だけれど。


その日の彼は、わたしに色んな事をした。
縛って拘束した上で…
ヴァギナにバイブを突っ込んで掻き混ぜる…
指を突き入れて、ぐちゃぐちゃに掻き回す…
色んな体位を取らせて、ペニスを突き立てる…

その後、薄く冷たい笑みを浮かべて言った。

  お前が、何を一番悦ぶか把握した。
  一番好きなのは、やっぱりこいつだな?


そう言いながら、再びわたしをペニスで貫いた。

  あ…あ…そう…Tさんのが…一番好き…。
  ああっ…凄い…素敵…。


彼にしがみ付いて、悶える。

この時彼はきっと、わたしがどういう行為にどう反応するのか、その性能を確かめていたのだろう。
わたしも、彼を試したのだと思う。
一度噛んだ後は、躊躇いを見せずに力を込め続けた彼…。
この人なら、わたしをいつか壊してくれる…。
要求を聞いて一瞬逡巡したのは、今なら彼が、己の自制心を危ぶんだのだと理解できる。
このわたしの願望と、それが満たされた時の反応は、彼の加虐にある程度まで対応できると、彼にも教える事になっただろう。

  これからが、愉しみだな。

答える代わりにわたしは、しがみ付く腕に力を込めた。



堕落して…

2008/03/20(木) 01:29:08
お仕置き、イマラチオ、アナル調教…。
8回目の逢瀬は、初めて経験する事ばかりだった。

アナル調教も終わり、ベッドの上で寛いでいる時、わたしは訊ねた。

  ブログ…どうすればいい?

  続ければいい。
  Sへの報告の件を別にすれば、中々面白いぞ。


  …このままのスタンスで?

  うん。

考え込む。

わたしがこのブログを開設した目的は、わたしにとって書く事というのは、己の思考を整理し、分析する際に、重要な役割を果たすからだ。
どう表現すれば良いか判らない感情を言語化する事で、気持ちが落ち着いたり、自分の本心に気付いたりする。
自分を見つめる為に、わたしが必要としている作業。
それを、閉鎖された場の日記帳などではなく、ウェブ上で公開して行うのは、読んで下さった方から、わたしの思考を更に整理するヒントを頂いたり、違う視点で考える事を示唆して頂いたり、共感して頂く事で安心したりしたいからである。

つまり、ここには本当のことしか記せない。
でないと、わたしがこのブログを書く意味が、なくなってしまう。

  このままで続けるという事は…
  Sさんの事にも触れる可能性がある、という
  意味なんだけど、それでもいいの…?


  ああ、構わん。
  俺は、お前とSの関係には興味がない。


  ……そう。
  わかった。
  じゃ、続けさせて貰うね。


  うん、頑張れ。
  俺も読者になるから。



こうして、このブログは存続が決定したのだった。
わたしの、とりとめのない思考を垂れ流す為の場として。


  Sと言えば…。

  ん…? なぁに?

  俺がやりたい事が、増えたなぁ…。

  …なに?

にこにこと笑う彼の笑顔は、素晴らしい悪戯を思い付いた子どもの様だった。

  俺とSと、二人でお前を使いたい。

わたしは、絶句した。

  俺がお前に後ろからぶち込んで、
  Sがお前の口にぶち込むんだ。
  どうだ?
  面白そうだろう?


彼の表情を見れば、本気で面白がっているのが判る。
彼と知り合った後も、Sさんに抱かれたいと思ってしまうような淫乱なわたしも…どんな快楽を味わうことになるのだろう…と、思わず想像してしまう。
けれどもおそらく、Sさんは決して加担するまい。
わたしを道具にする事を頑なに拒み、彼がわたしの尊厳を踏み躙ると考えているSさんは…絶対に。

あの時わたしは、どんな返事をしただろう。
何も言わずに、笑って誤魔化したような気がする。

実現する筈はないと思いながらも…万が一実現すれば、わたしはきっと、もっと壊れるに違いない…そう期待している自分を認識した時、わたしは、完全に、今までのわたしではなくなっている事に気付いた。

どこまで壊れる気か…。
どこまで堕ちるつもりか…。

けれどもわたしは、こんなわたしを、それほど嫌いではない…。

それが、とても不思議である。



初潮の夜

2008/03/21(金) 18:23:00
小学校高学年になった時。

女子だけ集められて受ける、特別授業があった。
そう、生理に関する説明会だ。

その時の衝撃は、忘れられない。


わたしは、生理に関して何の予備知識もなかった。
男女の性差は、おちんちんやおっぱいの有無程度に捉えていて、内臓の構造まで違うなどとは考えた事もなかったのだ。
突然インプットされた、自分の身体に関する重要かつ膨大な情報…。
それを全く知らずにいた事に、まずは激しい衝撃を受けた。

さらにショックだったのは、クラスの女子の殆どは、母親から教えられて、既に知っていたという事実だった。

家に帰り、わたしは母親に、生理について習った事を報告した。
そして、他の女子の事も話し、『どうしてわたしには教えてくれなかったの?』と尋ねた。
『あんたにはまだ早いから。』
母親の返事は、それだけだった。


わたしは、読む本、聴く音楽、観るテレビ番組に至るまで、母親の許可を取らねば見聞きする事を許されない生活を送っていた。
わたしの希望を聞いた母親が、まずは内容をチェックし、不適切と判断されれば、それに触れる機会は失われていた。
そんな状態に、不満がなかった訳ではない。
けれどもその頃わたしは、学校の図書館で小説を読む楽しさに目覚めており、母親も、学校が置いているものなら安心とばかりに、どんなものを読んでいるかまではチェックを入れて来なかった。
わたしはそこで、ホラー小説や推理小説、SF小説に触れ、何とか自分の好奇心を満足させていた。
母親がそういう手段を取っていた理由は、彼女によれば『教育的なものでないなら、知る必要はない』から。
それなのに彼女は、学校の授業で扱われる様な、充分に教育的と思われる…しかも、わたし自身の身体に関する…そんな情報まで、独断で遮断していたのだ…。
そういう風に考えた時に、母親の与えるもののみ甘受するだけの当時の現状には、改めて強い反発と不信感を覚えたものだ。

生理について、尚も詳しく情報を得ようと質問を繰り返すわたしを、彼女は、優しくて物分かりの良い母親を演じる時の、独特のアルカイック・スマイルで見つめていた。

『そんなに興味があるの?
 ませてるのねぇ。』

その目の色を見てわたしは、こういう話をこの人にはあまりするべきではないのだ、と、感じた。




やがてわたしは、中学2年生になった。

その頃には、クラスの女子の殆どに生理があり、わたしは不安な気持ちになっていた。
何故、自分には、女性としての成長の証が訪れないのだろう。
なにかおかしな病気に、冒されているのではないだろうか、と…。

けれども、その日はやって来た。

今まで経験した事のない不快な腹痛に、昼過ぎから悩まされていたわたしは、部活を休んで早めに家に帰り、部屋に寝転がって、読書をしていた。
本に夢中になっている間は、痛みを忘れる事が出来た。
しかし読み終わってしまうと、次第に痛みを増していく、この不思議な腹痛は何だろう、と気になってきた。
トイレに入って下着を下ろし、絶句した。
そこは、赤黒いもので、ぐっしょりと濡れていた。

どのくらい、そのままの姿勢で硬直していただろう。
ようやく、初潮が訪れたことに思い至ったわたしは、とにかくどうすればよいか判らなかったので、母親のもとに飛んで行った。
わたしの報告を聞いた母親は、驚いた顔をした後、言った。

『そう…とうとう来たのね…。』

この時わたしは、自分だけが普通ではない様な心境から解放され、『やっと来た』という安堵感で一杯だった為、彼女の『とうとう』という言い方には、引っ掛かりを感じた。


その夜は、父親が早く帰宅した。
母親から連絡があったのだろう、彼は、チェリータルトのホールケーキを買って帰って来た。
何のお祝いかと無邪気にはしゃぐ妹たち。
『お赤飯は間に合わなかったから、代わりにね。』と、笑顔の母親。

しかしその笑顔を向けられる度に、わたしはひどく落ち着かない気持ちになった。
口元だけは、慈しみ深く見えそうな笑みを浮かべているが、目元は、彼女が表面とは全く違う感情を内包している事を、如実に物語っていた。
父親に、女性独特の身体の変化を知られた、という羞恥心よりも、その笑顔を母親に向けられる事の方が、何故か不快だった。

食事の後片付けをする母親を手伝っていた時、彼女が言った。
『それにしても、お母さんが初めての時は、
 恥ずかしくて恥ずかしくて、
 暫くの間は誰にも言えなかったのに、
 あんたは大喜びですっ飛んできたねぇ。』
『そりゃクラスで一番わたしが遅かったんだもん、』
どこか変なんじゃないかと心配だった…と続けようとしたわたしを、母親が遮った。

『女になったのが、そんなに嬉しいんだね。』

彼女は、わたしの方を向いていなかった。
洗い物をする自分の手元を見ていた。
まるで、犬の汚物を踏んづけたような表情をしていた。

この人は、わたしが女性として成長した事を祝福していない。
それどころか、嫌悪してさえいる…。

その夜わたしは、それを胸に、焼き付けた。



心に芽生えたもの

2008/03/23(日) 13:16:41
初めてお仕置きをされた日。
わたしの中で、何かが大きく変化した。

彼の隣に、座れなくなった。

それまでは、彼がソファに移動して寛ぎ始めると、わたしも隣に座っていたのだが、この日はどうしても、彼の隣には座れなかった。
彼の足元、床の上に座っていたのだ。
彼の事を、見上げていたかった。
肩を並べて寛ぐなど、自分には相応しくないという気がした。

  どうした?
  座らないのか?


最初、彼は、不思議そうだった。

次にソファに移動した時も、床に座ったわたしに言った。

  なんだ?
  そこが落ち着くのか?


  うん。

頷いたわたしを見下ろす彼の瞳に、なんとも言えない光が一瞬走った。
あれはきっと、端的に表現するなら、満足感…。
自分の行為がもたらした、思いもよらぬ効果を目の当たりにし、悦に入ってほくそ笑む…とでも言う様な…そういう光だった。
その瞳の色を見た時、わたしの心の中で、何かが蠢いた。
けれども…それが何なのか判らなかったし、今でも明白な形を為さずにいて、言語化できぬままでいる…。

彼の太股に寄り掛かって腕を回し、頬を押し当てる。
彼の手が、わたしの髪の中に滑り込む。
髪を梳く様に頭を撫でられ、わたしは、大きな安心感に包まれる。
ついさっきまで、その手に自由を拘束され、髪を引っ張られ、打たれていたというのに。
今、彼に突然スイッチが入れば、その手に何をされるか判らないというのに。
それを不安に感じない自分が、とても不思議だった。


かつてわたしは、どういう切っ掛けでどんな暴力をふるうか判らぬ人々の傍で、身を縮めて生活していた。
その恐怖は、わたしの心と身体に、深く深く刻み込まれている。

成人して結婚もした後、母親と会っていた時のこと、彼女がわたしの横で、突然身体を動かした事がある。
その瞬間、わたしの身体が母親から逃げ、わたしは頭を抱えて縮こまった。
母親は呆気にとられた顔をした後、笑った。

『何よ、それ。
 しょっちゅう叩かれてた子みたいに。』

わたしも、自分の無意識の反応に、驚いていた。
しょっちゅう叩いていたではないか。
でなければ、こんなパブロフの犬の様な、反射的行動が出るものか。
そう言いたかったが、その場では言ってもしょうがなかったので、言葉を飲み込んで、掌に吹き出した汗を握り締めた。


それほど暴力に怯えていたわたしが、今は彼の足元で、すっかり安心しきって寛いでいる…。
この差は一体、何なのだろう…。


ぼんやりと眺めていたTVの画面が、消えた。
思考に没頭していたわたしも、我に返る。

  さて…舐めて貰おうか。

頭上から降ってくる、彼の静かな声。

ひとつだけ、はっきりしていることがある。
それは、今後、こうして彼と二人きりの場では、決してわたしは彼と肩を並べて座ろうとは考えないだろう、という事。
わたしの心に芽生えた、自分の立場を弁える気持ち…。

わたしは彼を見上げ、微笑しながら頷いて、彼の命令に従った。



不必要

2008/03/24(月) 17:17:21
尊厳というものは、この世で何か成し遂げたい人だけが、持っていればいい。
人生の目標を持っている人には、必要だろう。

成し遂げたい事がある訳でなく、
目標を持っている訳でもなく、
生産性のある事など何ひとつ出来ず、
ただただ消費するしか出来ない肉塊には、
尊厳など、必要ない。



存在理由

2008/03/25(火) 22:12:41
今、わたしが存在している理由は、
彼がわたしを気に入っているから。

こんなものの考え方で、
自立した女になれ、と言われても…
至難の技の様な気がしてしまう。

彼が、わたしに飽きた時、
わたしの存在する意味は
無くなってしまうのだから。



疼き

2008/03/26(水) 14:41:15
仕事中、何の前触れもなく、
突然呼吸が苦しくなる。

自分の両肩を抱き締めて
蹲りそうになる。

泣きながら何かを叫びたくなる。
何をかは判らない。

彼からメールが来る。

  そろそろ俺が欲しくなっているだろう?

その通りだ。
そして気付く。

これが、わたしの、身体の疼き方なのだ、と…



被虐で得るもの

2008/03/28(金) 15:06:09
初めてお仕置きを受けた日…。

彼と別れて帰途についたわたしの携帯に、彼からのメールが届いた。

  お前の泣き顔は、凄く可愛かった。
  俺の大事な乳首を傷付けたのは残念だったが、
  血を舐め取るのは、愉しかった。


彼は、血を見るのは嫌だと以前言っていた。
けれども今回、愉しいと感じたのなら、今後は、血を見る事を躊躇しなくなるかも知れない。
そしてそれは、彼の責めのバリエーションに、影響するかも知れない。
そんなことを、考えた。


わたしは、痛みに対して我慢強い。
決して痛みを感じぬ訳ではない。
感じてはいるのだが、それを痛みと認識し、表現したり回避したりすることが不得手だ、とでも言えばよいのだろうか。

例えば、わたしは手に故障を抱えている。
PCを使う仕事をしている為、忙しくなると手が酷使され、痛み始める。
しかし仕事中は、その痛みを意識から追い出してしまえるのだ。
全然動かせなくなってしまうまで。

かかり付けの接骨院では、
『痛みというのは、
 身体からの限界だというメッセージなのだから、
 痛みを感じたら安静にして、すぐに来なさい。』
と、口を酸っぱくして言われている。
一応普通の社会人の仮面を被って生活している以上、仕事に差し障りが出ない様に、注意はしているつもりなのだが…。

こんなわたしが、彼の責めを受けている間、身体のダメージを正しく認識しなかったら、一体どんなことになってしまうのか…。

そこまで考えて、気付く。
痛みを堪える事に慣れてしまっているわたしが、彼のお仕置きでは、理性を失って子どもの様に泣き叫んでしまった…。
これは、それ程の痛みを与えられたという事であり、それを表現する事を躊躇わなかったという事だ。
そしてその後の、今まで経験したことのないような安心感と解放感…。

自分の感情を遮断する癖を持ち、痛みや苦しみを意識の外に追い出して認識しない様にし、周囲から『男っぽい』『明るくて豪快』などと言われながら、生きているわたし。
けれども、それでは精神の均衡を保てなくて…。
自分の中に沈殿しているものを、激流で一掃してしまいたくて…。
だからわたしは、責められることを求めてやまないのだろう。
それも、わたしに感情をぶつけてくる人ではなく、わたしを大事に扱ってくれる人の手によって。
感情表現の延長として虐げられるのは、嫌というほど経験していて、もう勘弁して欲しいから…。


そしてわたしは、自分の身体の限界を、正しく認識できるようにならねばならない。
彼が、少しでも長く、快適にわたしを使える様に。
わたしに、決定的なダメージを与えさせてしまわぬ様に。
無論彼は、わたしを完全に壊さぬ様、気をつけてはいるだろうけれども、彼にばかり、自制心との熾烈な闘いを強いる訳にはいかない。
彼とて、今まで抑圧してきた加虐の欲望を、心置きなく、存分に発散したい筈なのだから…。



大事な人

2008/03/29(土) 01:18:02
久しぶりに、Sさんとメッセで話した。
わたしは、ブログを書いている事、それによってSさんの事が彼に知られ、お仕置きを受けた事などを報告した。

  お仕置きって…何をされたんだ?

  いろいろ…。ブログに書いた。

SさんにもブログのURLを教える。

  …マジか。

内容を知って、Sさんは絶句する。

  大丈夫か。
  彼氏、絶対どこかおかしいぞ。


  SさんだってSっ気あるんだもん、
  理解できるんじゃないの?


  理解できん。
  俺の本質は、ノーマルなんだろう。


やっぱり…。
『尊厳』などと言い出した時から、そうだろうと思っていた…。
わたしは、落胆する。

Sさんは、わたしに無い視点を持っている人で、諸々の相談相手としては頼もしかったし、わたしが先天的に持つ誰からも理解されない障害についても、深く理解してくれた人だ。
そんな人に、自らが封印していた性癖を自覚させられ…わたしは愚かにも、そのまま開花させて欲しいと、望んでしまった。
本人の意思とは全く無関係に…。

  彼が、Sさんと一緒に
  わたしを使いたいって言ってた。


  はあ?
  何だそれ。


  つまり…二人で同時に
  わたしを抱きたいと…。


彼の言葉を思い出す。

  Sが真性なら、乗ってくる筈だ。

Sさんは真性のサディストではない。
けれども、サドっぽさは確かに内包していて、時々それを曝け出して行動し、後で後悔している事もある…。

  俺にそんな事出来ると思うか?

  Sさんは…しないと思う。

  判ってるんならいい。

サドならサドに徹する事が出来れば、Sさんはおそらく、わたしへの態度で苦しんだりしない。
随分前から据え膳状態となっていたわたしを、さっさと食っていただろうから。
私を、欲望を満たす道具として使うことを、躊躇しない筈だから…。



それから少しして、Sさんからメッセージを受け取った。

  お前がTに、首を絞められて殺される夢を見た。
  心配している。


Sさんは、わたしの強い自己破壊願望を、知っている。
未遂の一歩手前までいった事も、知っている。
自分に危害を加えるものを、他人事の様に見ているだけの、自己防衛本能の欠落したわたしを、よく知っている。
そんなわたしは、彼が責めの時に暴走してしまっても、必死で抵抗しないかも知れない。
それが、わたしの命を奪ってしまうのではないか。
Sさんは、それを危惧しているのだ。

  大丈夫。
  彼を犯罪者にする気はないから。


そう、彼を犯罪者にしてはいけない。
けれどわたしには、そうしてしまう可能性が充分にある…。

この時のSさんとのやり取りで、前のエントリーの様なことを考える事が出来た。
やはりSさんは、わたしにとって大事な人である事に、変わりは無い。
わたしの思考に、新しいアプローチ法を教えてくれる人として…。



レッテル

2008/03/29(土) 14:58:03
母親は常々、わたしに『女の子らしくしなさい』と言っていた。
近所の少年たちと、野山を駆け巡る山猿の様なわたしを嘆き、野球や空手を習いたがるわたしを嘆き、女の子らしい習い事をさせようと、躍起になっていた。

それが、初潮を迎えて以降、変化した。

わたしは、髪の毛に癖がある。
長さによっては、寝癖にしか見えないはね方をする為、朝、鏡の前で母親のドライヤーを拝借して苦心していると、飛んで来て叱責される。
『たかが学校に行くのに、何をめかしこんでるの!
 そんなに男の目が気になる訳?』
わたしが鏡の前に立つ事を、母親は、極端に嫌がった。

そのくせ、『女の子なんだから』という理由で、家事を手伝わせる。
母親は、完璧主義者でもあった。
食器洗いや部屋の掃除を言いつけられ、それを遂行しても、どこか一箇所でも完璧に出来ていなかったら、何度でもやり直しをさせられた。

そのやり方は、狂的だった。
夕食後の食器洗いを言い付けられる。
洗っただけだと、不合格だ。
きちんと拭いて、食器を片付けていなければならない。
今度は、食器を拭いて片付ける。
それでも不合格だ。
ガスコンロに残った鍋を洗っていないからだ。
次は、鍋も洗って片付ける。
また不合格。
ガスコンロを磨いていないからだ。
その次は、流し台に飛んだ水滴を拭いていないから不合格。
その次は、中身の残った鍋を放置していたから不合格。
永遠に合格点は、出ないのだ。
しかも、この手順を前もって教えられている訳ではない。
母親がやっている事を見ていれば、きちんと出来て当然なのに、それが出来ないからと言って叱責される。
洗い方が悪くて、汚れの残った食器など見つかろうものなら、とんでもない事になった。
食器棚の中の全ての食器を出して、綺麗に洗い直しをさせられていた。

『完璧でないのは、何もしていないのと同じ。』

それが母親の言い分で、何度やらせても完璧に出来ていないという理由で、わたしは『何をやらせても出来ない駄目な子』と言われ続けた。

ここに更に、わたしの先天的な障害が絡んでくる。
わたしの障害は、興味の持てない事はとことん出来ない、というものだ。
手順を覚えることすら出来ない。
その代わり、興味のある事ならば、1回見ただけで手順などを全て記憶する事が出来る。
凄まじい集中力を見せて、何時間でも没頭していられる。
その能力差はあまりにも極端で、周囲には、故意にやっているとしか思われないのだ。
わたしの場合、家事に対して興味を持てない事は、非常に不運だったとしか言いようが無い。

女らしく家事を完璧にこなすことは出来ないくせに、見た目ばかりは一人前に気にする、男好き…。

それが、中学・高校時代のわたしに母親が貼った、わたしのレッテルだった。