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9回目の逢瀬の朝…。
彼と逢う日は、いつもより早起きしなければならないのに、その日わたしは、仕事に行く時と同じ時間に目を覚ました。
慌てて支度を始める。
アナル調教は毎回する、と言われていたから、身体の準備に手は抜けない。
下剤を使ったあと、恐る恐る
フリーウォッシャーを使ってみる。
汚れがかなり薄くなるまで使い続けた結果、お風呂とトイレを何度も往復する羽目になる。
これからは、前夜の食事を早めに摂り、洗腸も夜のうちに済ませてしまおうと決意する。
わたしのスカート姿を見たい、という彼のために、初めて買ったワンピースを身にまとい、急いで彼にメールする。
ごめんなさい。
寝過ごしました。
これから向かいます。ガレージに飛び出した処で、彼から返事が来た。
今どこだ? まだ家です。ごめんなさい。 そのまま家に居ろ。
今日はやめだ。頭が、真っ白になった。
やっと逢える事になったのに…何故…。
どうして?震える手で、メールを打つ。
気が変わった。
何故変わったか、理由はわかるな?立ちすくんだ。
思考が凍結し、四肢から力が抜けていく。
また、怒らせてしまった…。
寝過ごしたからですね。
ごめんなさい。
先週は仕事が忙しかったから、
疲れが溜まっていたのです。
とにかく、向かいます。
お願い、逢ってください。キーを回してエンジンをかける時、『この車、キーのとここんなに重かったっけ…?』と、ぼんやり考えた。
一心に彼の住む街を目指しながら、『あと1時間以内』『あと30分以内』とメールを打ち続ける。
彼からの返答は、無い。
行けばきっと逢ってくれる筈…と考えながらも、つい先日知ったばかりの、彼の厳しさ激しさを思う。
もしかしたら、行きさえすれば…というわたしの心根を見透かして、本当に逢ってはくれないかも知れない。
そうなったら、どうしよう…。
息が苦しくなるほど彼を求めているのに、延期されてしまったら、それからの1週間は、普段の自分を装うことが出来なくなる…。
逢えたとしても、彼を怒らせたのなら当然、お仕置きは免れまい。
彼の事だ。
先日と同じお仕置きで来るとは考えにくい。
何か新しい加虐方法を考え付いている可能性も高い。
けれど、それでもいい。
彼に逢えないことに較べれば、苦痛や恐怖など、問題ではない…。
そんな事を考えながら、いつもの待ち合わせ場所から更に、彼の家に近い路地にまで車を進めた。
着きました。
○○まで来ています。
お願いします、逢ってください…。返事は、無い。
悄然と、降り始めた雨を見つめていた。
俺は、俺のルールに従わないものなら、
どんなに使い心地のいい女でも捨てるぞ。お仕置きの時に聞いた言葉が、脳裏に甦る。
メールが駄目なら、電話してみようか…。
連絡方法は、基本的にメールだ。
電話は使わない。こっちは、初めて逢う前に聞いた言葉。
以降、電話で連絡を取り合った事は、一度も無い。
これもおそらく、彼のルールなのだろう。
とすれば、電話などすれば、かえって怒らせるだけだ。
わたしは、どうすれば良いでしょうか。
お怒りを解きたいです…。もう一度、メールを送ってみる。
待ちながら、何度でもメールするしかない。
携帯が、メールを受信した。
このメス豚が…
待ってろ。ああ、良かった…。
今度は安堵で、四肢の力が抜けた。
やっと彼の姿が目に入った時は、涙が滲んだ。
彼は、わたしを見てニヤリと笑うと、車に乗り込んで来る。
こいつめ…。
寝過ごしただと? ごめんなさい…。 行くぞ。出せ。 はい…。その、既にスイッチの入った笑顔を見ながら、これはお仕置きだな…と、覚悟を決める。
何をされるだろうか。
耐えられるだろうか…。
それでも、あのまま放置され続けるよりは、ずっといい。
わたしは、いつものホテルに向かって、車を走らせ始めた。