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2010/01/23(土) 02:36:27
平穏な日々が、戻って来た。
…とは言っても、いつかは必ず、元夫の連帯保証人としての責任を果たさなくてはならない日が来るのだから、それはさながら、台風の目の中の晴れ間程度のものではあったけれども。
だが、Sからの連絡が、絶える事は無かった。
携帯メールが、届く。
またメッセに上がらなくなったなwww
元気してんのかよ?
心配してるぞ
そのタイミングたるや、ある意味、絶妙だった。
ふと、今後の生活の事を考えて憂鬱になり、気持ちを切り替えて立ち上がるのに苦労している……そんな時に限って、Sからのメールが来るのだ。
まるで、衰弱している動物から立ち上る死の臭いを嗅ぎ付けて、死肉を食む為に舞い降り、息絶えるのを待っているハゲワシの様だ…。
そんな事を考えては、打ち消す。
Sのお陰で、わたしは外に出られる様になったのに、こんな風に考えてしまうわたしは、何て恩知らずで、冷酷な人間なんだろう。
Sが信用出来なくなったのだって、結局はわたしの、見る目が無かっただけの事ではないか。
それを、Sに責任転嫁して疎んじるなんて…わたしは、なんて卑怯なんだろう……。
沈み込んでいた気持ちに、自己嫌悪が拍車をかける。
Sは、恩人なんだ。
恩人だと、思わなければならない。
そういう気持ちが、わたしに返信を打たせる。
元気だよ。
送信し終わって、溜め息をつく。
ある日、床に就いていた深夜に、携帯がメールを着信した。
わたしの携帯メールアドレスは、数人しか知らない。
着信音で、彼からのメールでないのは判ったから、妹に何かあったのだろうか?と、寝惚けながらもメールを確認する。
Sからだった。
誕生日、おめでとう。
たまには、こっちの仲間の事も思い出せよw
「はぁ?」と、声が出る。
いつだったか、メッセで話した事を、思い出す。
友達は、大事だからな。
俺は、日付が変わったらすぐに、
誕生日メールを出す様にしてる。
だから俺の友達は、
俺からのおめでとうメッセージを、
誕生日の一番始めに受け取れるって訳だw
ああ…そんな事言ってたっけ…。
一瞬感じた苛立ちで目が冴えてしまったので、妹からのメール着信音も、普通のメールとは違うメロディを割り当てた。
彼と妹以外のメールは、着信音を出さない様にも設定する。
おめでとうメールへの返信はしないまま、もう一度横になる。
…もう、関わらないで欲しい。
関わればきっと、わたしは益々、Sに嫌悪を感じてしまう。
そしてそれは、すぐに転じて自己嫌悪となり、わたしに更なる追い討ちをかける。
このまま、わたしから一切連絡しなくなれば、その内にきっとフェイドアウトしていくだろう…。
そう考えながら、目を閉じた。
それから再び平穏な日々に戻り、季節も移り変わった頃、わたしは、加入しているSNSに、簡単な日記をアップした。
このSNSは、元々は仕事の為に使っていたもので、フレンドは、昔の仕事仲間や実生活での友人ばかり、日記はフレンドにしか読めない設定にしてある。
たまに更新して、フレンドたちに近況を知らせるのに、利用していた。
日記を登録してPCの電源を落とし、寝る前に洗濯物を干さなくちゃ…と立ち上がった時、携帯電話の着信音が、鳴り響いた。
わたしは、飛び上がった。
深夜にかかって来る電話には、悪い知らせを連想させられてしまう。
慌てて電話を取り上げ、発信者を見ると、Sだった。
まずは、相手が妹や友人ではなかった事に、安心する。
深夜に急に、電話しなくてはならない様な出来事が、起こった訳ではないという事だ。
けれども…なんでこんな時間に、突然Sから電話がかかって来るのだろう…?
はっと気付く。
SNSだ…。
フレンドの中には、Sも居た。
わたしの日記が更新されたのを見て、すぐにかけて来たのだ…。
わたしが、大の電話嫌いだという話は、していなかっただろうか…?
それなのに、メールに返信しなければ、今度は電話をかけて来るという訳か…。
出たくない…。
暫く、携帯を握り締めたまま、着信音が途絶えるのを待つ。
けれども、着信音は、一向に鳴り止まない。
仕方なく、通話ボタンを押した。
……もしもし。
なんだよお前ー。
えらい不機嫌な声だなー。
……寝てた。
そんなに嫌そうな声になってしまったか…と、咄嗟に言い繕ってしまう。
あーそうだったか、ごめんごめん。
日記が上がったの、さっきだったから、
まだ起きてると思って電話したんだ。
…ふうん。
何だよお前ー。
全然音沙汰なくなるしよー。
俺、すげー心配してたんだぞー?
たまには連絡して来いよー。
…ごめん。
誕生日メール送ったのに、
返事もねーしさー。
どんだけ心配してたと思うんだよー。
……ごめん。
…あー、まあ寝てたとこ、
起こしちまって悪かったわ。
じゃあ、また連絡するから。
……。
もう寝な。ゆっくり休めよな。
そんじゃな。おやすみ。
……おやすみ。
終話ボタンを押す。
溜め息をつく。
いくら日記がアップされたからと言って…こんな深夜に電話してくるなんて、非常識だとは思わないんだろうか?
それにどうして…突然電話されたにも関わらず…わたしの方が、謝らなくてはならないのだろう…?
心配だ心配だと連呼するけれども…わたしが本当に壊れかけていた時に、さっさと逃げた事は、忘れられない。
その結果が、彼、Tさんとの出逢いに結びついたとしても。
今後、ずっとこの調子で、メールでレスがないなら電話で…なんて方法に変わられても、困る。
どうやら、ひっそりとフェイドアウトはさせてくれない様だから、はっきりもう関わって欲しくないという事を、言うべきだろう。
考えて、そう決意したわたしは、PCの電源を、ONにした。
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