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Sとの会話が減った理由には、その内容が結局、彼に対する罵倒になる…というのも、あった。
彼の性癖をどうこう言うのは、まだ我慢出来た。
彼が普通でないのは、彼自身も自覚している事実だったからだ。
一番我慢しかねたのは、金銭的な問題だった。
わたしがゲームに参加しなくなった以上、Sとの共通の話題は乏しくなる。
わたしの方から読書を話題にしてみても、
会話にならない有様だったし、Sから芸能人の話題を振られても、わたしにはテレビを観る習慣がないので、話が全然解らない。
近況を語ると、わたしの方はどうしても彼の話になってしまう。
そんな中、ある時Sから言われた言葉は、わたしの度肝を抜いた。
そんだけ頻繁に会ってると、
彼氏もホテル代大変だなwww
どんだけ金持ってんだ? え…割り勘だよ? はあ!?
割り勘って、ホテル代? うん。 何だそりゃ!?
ホテル代を女に出させるなんて、
どんだけ情けない男なんだよ!
やめとけよ、そんな男!!これにはわたしは、とても面食らった。
彼と初めて逢った時、わたしたちは、完全に時間を忘れて互いを貪り合った。
その結果、ホテルの料金は、言葉を失う様な金額になっていた。
彼は、何気ない様子で精算を済ませていたが、その後、彼から流れてくる空気の様なものに、わたしは、動揺や落胆の匂いを感じ取った。
だから、車に乗ってから、彼に半額を差し出した。
これ…もし良ければ、受け取ってくれる? え。いいのか? …うん。彼は、ほうっと息を吐き出して、言った。
ありがとう。
正直、凄く、助かる。この時、わたしは、彼に対してとても好感を持った。
自らの性癖を含め、わたしに対して、何ら取り繕う事なく、妙な見栄をはる事なく、自分の何もかもを曝け出している事が、解ったからだった。
それからは、二人で逢う時の会計は、割り勘が当然となっていたのだ。
バカ正直に、こんな事言うんじゃなかった…と後悔しながら、わたしはSに反論する。
だって…彼だって、そんなに
経済的に裕福な訳じゃないのに、
ホテル代は全部向こう持ちだなんて、
無理させる事は出来ないよ。 男ならな、そこは無理をしてこそ、
真の男なんだよっ!
その調子じゃお前、交通費も貰ってないだろ。 えええ?
そりゃ、わたしの車使ってるんだし、
それにわたしが逢いたくて行ってるんだから、
わたしが払って当然じゃないの。
交通費って、何それ。
何でそんなもの貰わないといけないの? はああ!?
やめとけやめとけそんな男。
そんな状態に甘んじてるなんて、男じゃねえ。
俺がお前と一緒の時、金使わせた事があるか?
交通費も出してやってるだろうが!!わたしは、絶句した。
Sは、それをわたしが不愉快に思っているだなんて、夢にも思っていないのだ。
もともとわたしが、相手の性別に関係なく、割り勘の方が気楽なタイプである事を、理解しようともしていないのだ。
…そんなの…わたしちっとも嬉しくない。
わたしは、割り勘が好きなんだよ。
奢られると、気が重いの。
気楽に誘えなくなるから。それに…
言い続けそうになった言葉を、わたしは飲み込む。
金銭的な負担を被る事だけで、俺は真の男だなどと嘯けるなんて、とても軽薄だ。
もっとも、そんな事でしか優越感を味わえないのなら、しょうがないけれど。
でも、それを、そうではない人間にまで押し付けて、他人を批判する材料にするな。
と。
この時の会話は、どういう風に終わったのか、記憶にない。
けれどもこの時から、Sとの会話が苦痛になり始めた事は、間違いないと思う。