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終わる

2010/01/27(水) 22:05:42
今にして思えば、Sは、おそらく、現在の自分の事を、好きではないのだろうと感じる。

Sの話す内容は、昔の話ばかりだった。
学生時代の自分が、どれだけモテたか。
どういう風に、後輩をからかって遊んだか。
大学卒業後、すぐに就職した某大企業で、どんな事があったか。

その反面、現在の自分の事については、水を向けても話そうとしなかった。
よくよく思い出してみれば、わたしは、Sの本名さえも知らないのだ。
訊いた時に、「本名は俺のトラウマ」と言われ、それ以上訊けなかったからだ。

現在の自分を好きではないから、悩み事を持っていそうな人間に近付き、その相談を受け、「皆に相談される自分」「頼りにされている自分」を好きになろうとしていたのでは、ないだろうか。
そこには、相手の悩み事を解決する力になりたい、という意識は無い。
だから、相談の内容を詳しく記憶せず、聞き流してしまえる。
こういうタイプには、相談された事すら黙して語らずにいて欲しいなど、求める方が無茶だろう。
頼られている自分をアピールするな、と言っているに等しいのだから。

現在の自分の状態に満足していないから、自分より酷い境遇の存在を探し、「可哀想」と思う事で、自分の存在価値を高めていたのではないだろうか。
だから、悲惨なグロ動画を観ても「可哀想」という感想しかなく、その動画が撮られた背景などには無頓着でいられる。
周囲に何となく避けられ始めたゲーム仲間にも「俺しか相手する人間が居ないなんて、可哀想」と言いながら積極的に近付いたかと思うと、それで仕入れたその人物の言動を、面白おかしい笑い話にして吹聴できる。

そういう言動を咎めると、「俺って、ドSだからw」と返って来ていた。
ドSだから、自分の言葉で人を傷付け、人を振り回すのは当然…という事の様だった。

けれども…これは、「サディストだから」で済む問題だろうか…?


わたしは、比較対象が、Tさんしかいない。
そのTさんに関して言えば、こういうSの言動との類似性は、全く見られない。
わたしは、Tさんが、他者を貶すのを聞いた事がない。
これは、わたしにしてみれば、本当に驚くべき事なのだ。
と言うのは、彼が、作曲をする人だからだ。

わたしの周囲には、音楽活動をしている人も、何人かいる。
そして彼らはほぼ全員、他のジャンルの音楽や、最近流行っている音楽を、酷評する。
一般人に聞く耳がないから、こんな音楽が流行るのだ、と言い、売れる事だけを目的にすれば、こんな曲自分にでも簡単に作れる、と豪語する。
わたしの好む音楽を知ると、こんなくだらない音楽が好きなのか、と嘲笑する。

彼は、こういう事を、一切言わない。
不思議に思って訊いた事があるが、その返答は、こうだった。

  色んな音楽や色んなものに影響されながら、
  今流行の音楽も出来ている。
  だから、こういう音楽はしょうもない、などとは、
  俺には言えない。
  不要な音楽など、無いからだ。


彼にとって大事なのは、彼自身が満足出来る曲が、創れるかどうかという事の様だ。
そういう曲をライブなどで演奏して、感動した人が一人でもいれば、それは益々満足だしとても嬉しい…と言う。
そして、彼の音楽で感動する人は、一人や二人ではない。
彼の残虐性を知っているわたしなど、この人のどこからこんなメロディが生まれるのだろう…と不思議に思う程、そしてそんなわたしですら、聴いていて何故か思わず涙ぐんでしまう程、美しい旋律を創りだすのだ。

彼が、一番拘りをもっている分野ですら、こんな調子なのである。
他の事象に対しては、もっと寛大になる。

ほんとうに、彼は、何かを悪しざまに非難したり、貶めたりする事をしない。
たったひとつの例外は、わたし自身に対してである。
わたしに対してだけは、体型の事やものの考え方を、厳しく評価してくる。

彼は、わたしと初めて逢ったその日に、本名も職業も、全て教えてくれた。
彼と話していると、わたしは実によく笑うが、それは、何かを嘲った笑いではない。
彼の提供する話題は、本当に楽しくて笑ってしまう様な事ばかりなのだ。

彼は、自分を、愛している。
彼は、自分に、自信を持っている。
そして彼は、孤独になる事を、恐れていない。

Sとの一番の違いは、ここだと思う。
Sは、孤独を恐れているかの様に、誰かとの接触を常に求めていた様に思う。
そうやって、自分がいないと駄目だという人間を、捜し求めていたのだろう。
完全に自分に依存する人間が現れ、それが重荷になっても、最後まで背負い続ける覚悟は持てぬままに。

だからわたしが、Sと距離をとり始め、それでも普通に生活していける様になった事を、歓迎できなかったのだと思う。
心配している心配していると連絡を寄越し、わたしが、まだ誰かを頼らねばならない境遇である事を、思い出させていたのだろうと思う。
何とかして彼を貶め、自分こそがわたしにとって必要な人間である事を、アピールし続けていたのだと思う。

そして、そんな人間にわたしが散々振り回されてしまったのも、当然だ。
当時のわたし自身が、自分だけでは己の存在価値を見出せず、何の努力もしないままの自分をまるごと受け入れて貰える事だけを望む、甘えているだけの、だらしない存在だったのだから。


Sが、わたしにした事を、Sの面前に、突き付けてやる。

そんな意図で書き始めた一連のエントリーは、あの頃のわたしの醜さを、くっきりと浮き彫りにした。

そしてもうひとつ、大事な事をわたしに思い出させてくれた。
Sとの関わりは、わたし自身が望んで持ったのではないという事だ。
どうしてもそうせざるを得ない状態になり、渋々連絡先を教えた…と、言う事だ。


わたしは、わたしの意志を、もっと尊重してもいい。
わたしの直観力、行動力、判断能力を、もっと信頼してもいい。
そして、ろくでもない人間が周囲に現れ、それに振り回され、悩まされる様になったら、まずは己を省みる事。
そうなってしまった原因は、必ず、自分の方にある。

それをわたしに気付かせてくれた事のみを、Sには感謝しつつ、Sについての話を終わりたいと思う。



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書く

2010/01/23(土) 20:47:38
仕事を失う時期に、頼れるかも…と思っていた親戚から、とんでもない交換条件を出され、わたしは呆然とした。

この時に彼から言われた言葉を、何度も何度も咀嚼しながら、わたしは、わたしの「やりたい事」を考えた。
今、わたしが、一番優先したい事を、考えた。
書く事で、思考をまとめる。
思い付いたままを、書き殴る。
そうしてまとまったのが、犬の事だった。

この先、何があっても、誰に責められても、この犬と生きていくのを諦める訳にはいかない。
そう決心して、犬に関するエントリーを一気に書き上げた後、コメントが入っているのに気付いた。


  離職票を受け取ったら、すぐに職安に行け!
  保険証の手続きも、忘れるな!
  不動産屋に行って、次の家をすぐに探せ!
  犬はもう諦めろ!
  「やりたい事をやれ」なんて精神論は、
  何の役にも立たないんだよ。
  騙されてるんじゃねえ!



匿名だったが、Sからのコメントとしか思えなかった。


Sから「もう関わらない」というコメントが入った話を彼にしたら、彼が言った。

  ま、そうは言ってもSの事だ。
  多分、このブログはずっとチェックするだろうよ。


  えー…そうかなぁ。
  ま、見られてても、何も言って来なければ、
  わたしはもうそれでいいよ。
  それだけで充分。


そう返事していたのだったが…。

見ていただけではなく、まだわたしのご主人様気取りなのか…。
それどころか、いまだに彼の事を何とか貶めようと、必死らしい……。

即座にそのコメントを削除する。
「精神論」だと…?
わたしは以前、Sにはっきり言った筈だ。
メッセンジャーで話を聞くだけで、実際に会えば乳を揉む様な事しかしないSよりも、自分の欲望を剥き出しにし、わたしを徹底的に蹂躙する彼の方が、わたしにとっては誠実なのだと。

メッセンジャーで他の子と談笑する片手間に、わたしの話に適当に相槌を打ち、わたしの中に巣食う真の闇が顔を見せれば、「それは俺のトラウマ」と言って逃げていくSよりも、面と向かってわたしの話を聞き、はっきりと言いたい事をズバズバ言い、その結果わたしが崩壊しても、壊れぶりとそこから立ち上がるまでを、実に愉しそうに見ている彼の方が、よほどわたしの為になっている。

怒りが、沸々と煮え滾る。

良いだろう。
そちらがそこまでして、彼を貶め、わたしに影響力を発揮したいと考えるのならば、最早わたしも容赦しない。
自分が、わたしに、何をしたのか、それに、直面させてやろうではないか。

そして……はっきりと言ってやろう。
お前には、「サディスト」を名乗る資格など無い、という事を。
ましてご主人様面など、思い違いも甚だしい。

「サディスト」とは、自己の価値観を周囲に押し付けて自由気儘に振舞って良い事の、免罪符では無い。


こうしてわたしは、長い長い罵詈雑言を、書き始めたのだった。








落ち着く

2010/01/23(土) 19:40:56
感情のコントロールが、出来なくなる。

引き篭もり生活から、脱却させてくれた人。
わたしの中の、被虐嗜好を引き出した人。
それがあったから、わたしはTさんに逢う事が、出来た。
それを、こんな風に、嫌悪し軽蔑するなんて、わたしはどこまで性格が悪いのだろう。

自己嫌悪に呪縛された結果が、実生活にも影響を及ぼす。
こんなわたしを、誰の目にも触れさせたくない。
職場の契約更新を、断る。
家を失う日程もはっきりとしてきたが、それももうどうでもいい。
わたしなんて、どうでもいい……。

その一方で、わたしの慰めになっていたのは、やはり、彼の存在だった。
どこまでも自分に正直な彼が、まだわたしを見限らないのは、彼にとってのわたしは、そんなに嫌な人間ではない、という事だ。
その一点のみが、わたしを支えていた。


このままわたしが沈黙していたら、その内にSからまた連絡があるだろう。
Sには、もう何を言っても無駄だという事は、よく判った。
何を言っても、自分の都合の良い様に解釈して「俺が一番お前の事を思っている」という立場を、押し付け続ける事だろう。
それだけは、願い下げだ……。

そう考えて、Sに感じていた不快感を文章化した。
すぐに、Sからの反応が、あった。

  ふむ。
  よほど腹に据えかねたと見える。
  もう関わりません。
  ごめんなさい。


このコメントが、私の崩壊を助長した
とことんまで、自分の非を認めるつもりは、無いらしい。
友達思いの自分に、勝手にわたしが怒り狂っているとでも、思っているらしい。
わたしの怒りの原因は、服用している薬の所為だとくらい、思っているらしい。

確かに、わたしの怒りの理由は、Sには理解出来ないだろう。

彼の玩具となったわたしに、

  お前、自尊心は何処にいったんだ?

と怒るS。
Sは、気付いていない。
元々低かったわたしの自尊心を、完膚無きまでに叩き潰したのは、S自身だという事に。

大体、精神を病んでいる人間を相手に、誰かの為に親身になっている自分を再確認しようなどとは、考えが甘過ぎる。
いざとなれば、すたこらさっさと逃げる癖に。
そして、逃げた結果起こった事を、さらに、善良な自分に酔う材料にしようなど、あまりにも浅まし過ぎる。

Sの、自殺した知り合いの事は、その時期になると必ず、Sの日記に登場する。
助けてあげられなかった自分、そしてその事を、いつまでも心の傷として抱えている自分を、アピールする。
これは一体、どういう神経の為せる業なのだろう?

わたしなら…親しい人間が自殺などしたら、口が裂けてもその事を周囲に口外する事は、出来ないと思う。
自分の所為で死なせてしまったと思うのなら、尚更だ。
だから、Sのやっている事が、全く理解出来ない。

そして、ここでわたしが、壊れた精神に導かれるまま、自殺などしてしまえば、Sの、傷付いている俺日記のネタを提供してしまうだけだろう。
それは、それだけは、避けなければならない。


そう考える事で、わたしは、徐々に落ち着きを取り戻していった。

そのままSからの連絡が途絶えれば、こうしてブログにSとの事を長々と暴露する事も、無かったと思う。






壊れる

2010/01/23(土) 04:32:59
メッセンジャーを立ち上げると、案の定、Sが居た。

  こんばんは。

  おー、さっきはどもw
  すっげー無愛想だから、
  電話番号間違えたかと思ったwww


  わたし、電話は嫌いだって
  言ってなかったっけ?


  そだっけ?

  うん、だから、電話はしないで欲しい。
  ほんと苦手なの。


  そかそかwww
  起こしちまってごめんな。
  寝るんじゃなかったのか?


  いや、洗濯物干さないといけなかったし、
  もうちょっとなら大丈夫。


そこでわたしは、洗濯物を干しに行く。
手を動かしながら、どういう風に話を切り出せば良いだろうか…と、考えた。
数分後、PCの前に戻る。

  そういやさ、AとBが別れたぞwww

  あれ?いなくなった?www

  ああ、洗濯物か。

会話を再開した時、Sが、わたしとの会話の内容を殆ど覚えていない事が判り、この人にとって、他人の相談に乗るという行為の意味は何なんだろう…と、考えてしまう。

  あの二人、別れたの?
  Aさんから?
  Bくんから?


  Aから言い出したらしいw

  そっか、それは良かった。
  じゃ、Aさんは元気なんだね?


  おー、元気元気w
  Bの事、色々と言ってたぞwww


わたしが心配したのは、Aさんが落ち込んでいないか…という事で、Bには、ゲーム中やメッセでの会話であまりいい印象を持っていなかったので、 Bの話はどうでも良かった。

  Bの奴、別れ話が終わった直後に、
  最後にもう一発ヤらせてって
  言ったらしいwwwww


ああ…そうだ。
わたしは、Sとの会話で、頻繁に他者の陰口が出てくるのにもウンザリしていたんだった…と、思い出す。

  ふうん。
  わたしは、Aさんが元気なんだったらそれでいい。
  しかしSさんも、相変わらずの事情通ね。
  Aさんの相談に乗ってあげてたの?


  そうw
  Bの方は、もう俺の顔も見たくないって
  怒り狂ってるらしいwww


  …なんで?

  俺が散々説教してやったからだろw

わたしは、眉を顰めた。

  …Aさんに話を聞いて、その内容で、Bに説教した訳?
  そりゃBも怒るでしょ。
  何でお前が出て来るんだってなモンだよ。


  だってお前、友達がひどい目に
  遭わされてんのに、黙ってらんねーよ。


糸口が、見付かった様な気がした。

  それって、Aさんに、言ってやってくれって
  頼まれたの?


  いや?
  俺の個人的判断。


  …Sさんさ…。
  なんで、Sさんには関係ない所で
  揉めている人の間に、わざわざ入っていくの…?
  わたしは、それがいつも不思議でならなかった。
  その結果、揉め事が大きくなった事も、
  一度や二度で、済まないじゃないの。


  そりゃお前、友達なら当然だろ?
  黙って見てらんねーよ。
  それに、俺に頼って来る連中も居るしさ。


  頼られるのは、口出しをするからでしょ。
  味方して貰えると思えば、そりゃ頼るでしょうよ。
  わたしが思うのはね。
  Sさんは、人の相談に乗ってやってる自分、
  揉め事の仲介に尽力する自分が、
  好きなだけなんじゃないかと。
  だから、わたしの相談してた事は、
  全然覚えてないんだよ。
  その立場に酔ってるだけだから、
  内容なんてどうでもいいんだよね。


  …ふむ。
  そういう面は、あるかも知れんね。


  そういうの、もうやめた方がいいと思う。
  自分の再確認の為に、他人の事を利用するのは、
  その人にとても失礼だと思うんだけど。


  …ふむ。
  やっぱりお前と話すと、考えさせられるよ。


…本当に、考えてるの?
そう言いそうになる。
「叱ってくれるのはお前だけ」「考えさせられる」。
そう言っていた件で、その後、言動を改めてくれた事は、ひとつも無いではないか。
わたしにはそれが、親友ゴッコを楽しんでいるようにしか、感じられない。
わたしの抱く不快感を、軽減しようとは、してくれないのだ…。

もう駄目だ。
この人には、わたしの言葉が通じない…。

そう思いながら、他愛も無い会話を続ける。
そんな中で、Sから投げられた言葉に、わたしは愕然とした。

  お前さー。
  彼氏と付き合う様になって、
  どんどん自分の事を他人の事みたいに
  話す様になってってるぞ。
  大丈夫かよ?
  何か、おかしいぞ。


他人事の様に…。
これは、わたしの感情の振幅が限界を越えて、これ以上感情を動かすまいとしている時の、独特の状態だ。
わたしは、Sとの会話で、そこまでする様になってしまっていたのか…。
Sのこの言葉でわたしは、自分がSに対して完全に心を閉ざした事に、気付かされた。

  おかしくない。大丈夫。
  心配しないで。
  わたしの事はもう、心配しないで。
  なんとか上手くやっていくから。


  そんな訳いくかよ。
  友達の様子が何かおかしいのに、
  黙って放っとくなんて、出来ねえよ。


そんな格好いい事言っても、わたしが死にたいなどと言い出したら、とっととケツまくって逃げるくせに…。
苦笑しながら、会話を続ける。

  その「友達」ってのも、何かね…。
  Sさんって、二言目には、友達だからって言うじゃない。
  今までの、わたしの周囲では、「友達だから」とか
  言う奴ほど、信用ならない奴は居なかったから、
  やたら友達友達言われると、どうも胡散臭いのよね。


  だってお前…。

それに答えたSの言葉は、とても衝撃的だった。

  お前は友達なんだって言い聞かせないと、
  俺は、お前を、抱いちまってた…。


絶句した後、わたしは、爆笑した。

駄目だ、この人。
何を言っても、行き着く所は自己陶酔だ。
もう、付き合っていられない。
自分を愛し、自分に酔う為に、わたしを利用されるなんて、冗談じゃない。

嫌いになりたくなかったのに。
軽蔑したくなかったのに。

Sを嫌悪し、そしてそんな自分を、憎悪する…。

そうしてわたしは、またしても己のコントロールを失い、崩壊し始めた……。







疎んじる

2010/01/23(土) 02:36:27
平穏な日々が、戻って来た。
…とは言っても、いつかは必ず、元夫の連帯保証人としての責任を果たさなくてはならない日が来るのだから、それはさながら、台風の目の中の晴れ間程度のものではあったけれども。

だが、Sからの連絡が、絶える事は無かった。
携帯メールが、届く。

  またメッセに上がらなくなったなwww
  元気してんのかよ?
  心配してるぞ


そのタイミングたるや、ある意味、絶妙だった。
ふと、今後の生活の事を考えて憂鬱になり、気持ちを切り替えて立ち上がるのに苦労している……そんな時に限って、Sからのメールが来るのだ。

まるで、衰弱している動物から立ち上る死の臭いを嗅ぎ付けて、死肉を食む為に舞い降り、息絶えるのを待っているハゲワシの様だ…。

そんな事を考えては、打ち消す。

Sのお陰で、わたしは外に出られる様になったのに、こんな風に考えてしまうわたしは、何て恩知らずで、冷酷な人間なんだろう。
Sが信用出来なくなったのだって、結局はわたしの、見る目が無かっただけの事ではないか。
それを、Sに責任転嫁して疎んじるなんて…わたしは、なんて卑怯なんだろう……。

沈み込んでいた気持ちに、自己嫌悪が拍車をかける。

Sは、恩人なんだ。
恩人だと、思わなければならない。
そういう気持ちが、わたしに返信を打たせる。

  元気だよ。

送信し終わって、溜め息をつく。


ある日、床に就いていた深夜に、携帯がメールを着信した。
わたしの携帯メールアドレスは、数人しか知らない。
着信音で、彼からのメールでないのは判ったから、妹に何かあったのだろうか?と、寝惚けながらもメールを確認する。
Sからだった。

  誕生日、おめでとう。
  たまには、こっちの仲間の事も思い出せよw


「はぁ?」と、声が出る。
いつだったか、メッセで話した事を、思い出す。


  友達は、大事だからな。
  俺は、日付が変わったらすぐに、
  誕生日メールを出す様にしてる。
  だから俺の友達は、
  俺からのおめでとうメッセージを、
  誕生日の一番始めに受け取れるって訳だw



ああ…そんな事言ってたっけ…。
一瞬感じた苛立ちで目が冴えてしまったので、妹からのメール着信音も、普通のメールとは違うメロディを割り当てた。
彼と妹以外のメールは、着信音を出さない様にも設定する。
おめでとうメールへの返信はしないまま、もう一度横になる。

…もう、関わらないで欲しい。
関わればきっと、わたしは益々、Sに嫌悪を感じてしまう。
そしてそれは、すぐに転じて自己嫌悪となり、わたしに更なる追い討ちをかける。
このまま、わたしから一切連絡しなくなれば、その内にきっとフェイドアウトしていくだろう…。
そう考えながら、目を閉じた。



それから再び平穏な日々に戻り、季節も移り変わった頃、わたしは、加入しているSNSに、簡単な日記をアップした。
このSNSは、元々は仕事の為に使っていたもので、フレンドは、昔の仕事仲間や実生活での友人ばかり、日記はフレンドにしか読めない設定にしてある。
たまに更新して、フレンドたちに近況を知らせるのに、利用していた。
日記を登録してPCの電源を落とし、寝る前に洗濯物を干さなくちゃ…と立ち上がった時、携帯電話の着信音が、鳴り響いた。

わたしは、飛び上がった。
深夜にかかって来る電話には、悪い知らせを連想させられてしまう。
慌てて電話を取り上げ、発信者を見ると、Sだった。
まずは、相手が妹や友人ではなかった事に、安心する。
深夜に急に、電話しなくてはならない様な出来事が、起こった訳ではないという事だ。
けれども…なんでこんな時間に、突然Sから電話がかかって来るのだろう…?

はっと気付く。
SNSだ…。
フレンドの中には、Sも居た。
わたしの日記が更新されたのを見て、すぐにかけて来たのだ…。

わたしが、大の電話嫌いだという話は、していなかっただろうか…?
それなのに、メールに返信しなければ、今度は電話をかけて来るという訳か…。
出たくない…。
暫く、携帯を握り締めたまま、着信音が途絶えるのを待つ。
けれども、着信音は、一向に鳴り止まない。
仕方なく、通話ボタンを押した。

  ……もしもし。

  なんだよお前ー。
  えらい不機嫌な声だなー。


  ……寝てた。

そんなに嫌そうな声になってしまったか…と、咄嗟に言い繕ってしまう。

  あーそうだったか、ごめんごめん。
  日記が上がったの、さっきだったから、
  まだ起きてると思って電話したんだ。


  …ふうん。

  何だよお前ー。
  全然音沙汰なくなるしよー。
  俺、すげー心配してたんだぞー?
  たまには連絡して来いよー。


  …ごめん。

  誕生日メール送ったのに、
  返事もねーしさー。
  どんだけ心配してたと思うんだよー。


  ……ごめん。

  …あー、まあ寝てたとこ、
  起こしちまって悪かったわ。
  じゃあ、また連絡するから。


  ……。

  もう寝な。ゆっくり休めよな。
  そんじゃな。おやすみ。


  ……おやすみ。

終話ボタンを押す。
溜め息をつく。

いくら日記がアップされたからと言って…こんな深夜に電話してくるなんて、非常識だとは思わないんだろうか?
それにどうして…突然電話されたにも関わらず…わたしの方が、謝らなくてはならないのだろう…?
心配だ心配だと連呼するけれども…わたしが本当に壊れかけていた時に、さっさと逃げた事は、忘れられない。
その結果が、彼、Tさんとの出逢いに結びついたとしても。
今後、ずっとこの調子で、メールでレスがないなら電話で…なんて方法に変わられても、困る。
どうやら、ひっそりとフェイドアウトはさせてくれない様だから、はっきりもう関わって欲しくないという事を、言うべきだろう。

考えて、そう決意したわたしは、PCの電源を、ONにした。