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無題

2008/06/02(月) 14:44:24
幸せになる気が無いのなら、
やるべき事は、簡単だ。

彼に、一切、逢わなければ良い。

そうすればわたしは、
わたし自身の存在意義を見失う。

わたしの身体に感覚があることも、
喜怒哀楽の感情を持つことも、
きっと忘れてしまうだろう。
ちょうど1年前のわたしの様に。


けれどもわたしは、
彼に逢わずにはいられない。

彼と語らって、笑いたい。
彼に触れられて、感じたい。
彼に抱かれて、逝かされたい。

これは、わたし自身が
幸せな瞬間を求めているという事に
他ならない。


だから…。

わたしは、わたしを否定するわたしを、
この足で踏み越えなくてはならない。

踏み越えて、行きたい…。





微笑

2008/06/03(火) 00:09:27
わたしの持つ先天的な障害とは…注意欠陥障害だ。
この障害の詳しい内容については、ここでは省くとして…。

とりわけわたしが苦しめられている症状に、『集中力をコントロール出来ない』というのがある。
ものごとに中々集中出来ない反面、一旦集中したら、まさに文字通り、寝食を忘れて集中し続けてしまうのだ。

彼が、一泊ツーリングに出掛ける前日、わたしはこの状態になった。
掃除に夢中になり過ぎた挙句、寝るのを忘れたのである。
明け方になってそれに気付き…同時に疲労困憊している事にも気付き…ベッドに入って、そのまま彼からのメールにも気付かず、眠り続ける羽目になった。

夫との離婚の一因にもなった、この障害…。
のみならず今、彼との関係まで、壊れそうになっている…。

  わたしは普通じゃないから…。
  まともな脳を持っていないから…。
  いい薬があったけど、
  副作用で飲めなくなって…。


彼へのメールに、泣き言を送り続ける。
この時わたしは、『そういう事ならしょうがない』と許して欲しかったのだと思う。

  全部、病気の所為なのか?
  これ以上俺を失望させるなよ。
  お前はお前の出来る事に最善を尽くせ。
  それが、俺の望みだ。


彼からの返答を見た時、わたしもまた失望した。

わたしが出来る事に最善を尽くした結果…わたしは夫との生活を失ったのだから。
結局求められていたのは、先方の要望を満たす事だったのだから…。


  努力します。

そう返事を出し、その日のやり取りは、終わった。


『努力します』

一体何度、この言葉を使っただろうか。
勿論、言葉通り、努力する。
傍からそうは見えなくとも、わたしは力を振り絞って、努力している。
けれども、必ず言われるのだ。

『努力が足りない』
と。

相手の望む結果を見せることが、出来ないからだろう。

誰も、理解してくれない。
誰も、認めてくれない。
それは、わたしが、欠陥人間だから…。
こんなわたしに、存在価値などやはり無い…。

自己否定の迷路に、わたしは再び迷い込む…。


翌朝、彼からメールが来た。

  やっぱりバイクは最高だぞ。
  今日はこれから○○へ行く予定だ。



前日の激怒が嘘のような、屈託の無さだった。
文面から、彼が如何に楽しんでいるか、伝わって来た。
その明るさが、泥沼の中に沈んでいたわたしの気持ちをも、明るく照らし出した。
わたしは起き上がり、周囲を見回した。
今のわたしに出来る事…。
やろう。
とにかく、動こう。
動きながら、彼の帰りを待とう。

泣き続けて浮腫んでいたわたしの顔に、微笑みが浮かんだ。




始動音

2008/06/04(水) 12:51:17
夕方、彼から帰りのルートを知らせるメールが入った。

  わたしの家の傍を通りますね。
  逢っていただけませんか…?


逢って、伝えたかった。
わたしを1時間半も待ってくれた事が、どんなに嬉しかったか。
彼に不愉快な思いをさせてしまって、どれだけ申し訳なく思っているか。

  いいだろう。
  俺はこれから○○へ行く。
  お前も○○へ向かうといい。


返事が来る。
そこは、以前彼がアクシデントに見舞われた町だった。
あの時、彼が、暗くなってから走るのは緊張する、と言っていたポイントを思い出す。
あそこを伴走出来る様にしよう…。
慌しく出掛ける支度をし、車に飛び乗る。

自分を憐れんで泣きじゃくっていた、24時間前のわたしは、もう居ない。
身体を動かし、家の片付けをしているうちに、どこかへ消えてしまった。
今は、一刻も早く、彼に逢いたい。
そして少しでも長く、彼と共に居たい。
その想いだけを胸に、危険を感じぬ程度に速度を上げる。

すれ違いになっては大変と、途中の道の駅で待機する事にした。
その旨メールを送り、バイクの音に耳を澄ませながら、彼を待つ。

彼のバイクが見えた時、様々な想いが胸を満たした。

無事に帰って来てくれた…。
またこうして、彼に逢う事が出来た…。

  こいつ…。

ヘルメットを脱いだ彼が、微笑む。

  お帰りなさい。
  …ごめんなさい…。


それだけ言うのが、精一杯だった。
言葉の出ないわたしは、思わず彼に抱き付く。

  おいおい、俺のルール、
  忘れてねえか?
  公衆の面前ではイチャつかない、だ。


  誰も居ないもん。

田舎町の道の駅は、静寂と闇に満たされている。
けれどもしも誰か見ている人が居たら、40女が人目も憚らず、若い男に抱き付く様は、さぞかし見苦しい光景だったろう。
(彼は、30歳代後半だけれど、かなり若く見えるのだ。)
イチャつくなと言いながら、彼の手もわたしの背中に回る。

  やっぱりお前は温かいな。
  湯たんぽに最適だ。


わたしの全身に、幸福感が満ち溢れる。
あれだけ怒らせた彼の体温を、再び感じる事が出来た悦びを、しっかりと噛みしめる。

その後わたしたちは、わたしの町のドライブインに移動した。
バイクを降りた彼が、助手席に乗り込んで来て、撮ってきた写真を見せながら、お土産話を聞かせてくれる。

  両手を出せ。

言われた通りにしたわたしの掌に、彼が小石を載せ始めた。
ポケットから次々と、結構たくさん出て来る。

  何これ、綺麗…。

  ここの河原で拾って来た。
  いくつか好きなの、選んでいいぞ。
  やる。


  いくつ?

  2、3個…。4個…。
  …3個。3個だ。


答えが変わる彼の言葉で、その小石たちに対する彼の気持ちが解る。
これは、彼の宝物なのだ。
その中からまずわたしに選ばせて貰える事が、とても嬉しかった。
ぱっと見て気に入った小石をまずは何個か選別し、ひとつひとつ吟味しながら、候補を絞り込む。
色が綺麗で、表面がスベスベとした小石を3個、選び出した。

  これにする。
  ありがと。


失くしてしまわぬ様、いそいそとポーチに仕舞い込んだ。

  お前は、明日も仕事休みか?

  うん。

  それなら…俺がここから帰る時、
  いつも使うルートを教えてやろうか?


彼と居られる時間が延びるのだ。
わたしに否と言える筈が無い。
今までわたしが使った事の無い道を、彼に着いて走っていく。
彼の住む街に着いたら、ラーメンを食べる事になった。

  どうだった、あのルート。

  距離的には、わたしの使ってるルートより長かった。
  走りやすさは段違いにいいけど、
  日中はあちこちポリさんが隠れていそうね。


  お前トバすからなぁ。
  あと、スタートダッシュする癖がある。
  だからあのルートの方が、燃費がいいぞきっと。


ラーメンを啜りながら、そんな会話をする。
彼がぐっと身体を寄せ、わたしの耳元に囁いた。

  ここのラーメン食った翌朝は、
  いつにも増してチンポがギンギンに勃つんだ。
  …残念だな、明日は逢えなくて。


鼻からラーメンを吹き出しそうになった。


ラーメン屋を出た後、彼が『じゃあな』とひと言、バイクの方に立ち去ろうとした。
わたしは、慌てて彼の腕を取る。

  なんだ?

  …もうちょっとだけ…お願い…。

翌日、彼は仕事で朝が早い。
それが判っていながら、我儘を抑えることが、出来なかった。

  …しょうがねえなぁ…。

苦笑する彼だが、その瞳はとても温かく和んでいた。
助手席に乗り込んできた彼にしがみつき、唇を貪る。

  ふふ…。
  お前、辛いヤツの味がする。


わたしだけがラーメンにたっぷり使った、唐辛子の事だ。

  Tさんも…ラーメン味だよ。

密やかにクスクスと笑い合いながら、唇を重ね続ける。
彼の舌が、侵入してきた。
わたしは、短い舌を一生懸命伸ばして、彼の舌に絡み付ける。
背中を這い回る彼の腕に、力がこもる。
『嬉しい』
『幸せ』
脳に浮かぶ思考は、それだけ。
このまま蕩けてしまいそう…。
その感覚に、身を委ね続けたいけれど、彼は明日、仕事がある…。
理性が戻って来た事を、少し恨めしく思いながら、唇を離した。

  今日も逢ってくれて、
  ほんとにありがと…。


  ん。

おやすみの挨拶を交わし、彼が車を降りる。
ドアを閉めようとして、ふと手を止めた。

  しのぶ。

  はい?

  病気に負けるなよ?

  …はい…!

バイクのテールランプが見えなくなるまで、その場で彼を見送る。
キーをひねる。
闇の中、愛車の始動音が、轟いた。



楽しむこと

2008/06/05(木) 00:45:52
3度目のお仕置きが行なわれた逢瀬は、連休最後の日だった。

その翌日仕事のない彼は、再びバイクで一泊ツーリングに飛び出してしまいそうな勢いだったのだが、連休中のせめて一日くらいは、朝から晩まで抱き合っていたいというわたしの願いを、叶えてくれたのだった。

  少しは片付いたか?

ホテルで寛いでいる時、問われて、答える。

  ほんのちょびっとだけね。

  どこを片付けた?

  居間に散らかってる本を書斎に運んで、
  雑誌やダンボールをまとめて縛って、
  テーブルで使ってたMacをPCデスクに移動したよ。


  ほほう…。
  綺麗になったか?


わたしは、大きく溜息をつく。

  全然…。
  本を書斎に運んだら、今度は本の整理だよ。
  本棚を買い足さないと、全部は入らないだろうな。
  PCデスクも、Macのとこ以外は凄いままだし、
  そろそろ庭も何とかしないと、
  またジャングルになっちゃう。
  もう大変だよ…。


  阿呆。

彼が、平手でわたしの頬をペチっと叩いた。

  『大変』じゃない、『楽しい』と言え。
  やる事が一杯あって、いいじゃないか。
  やる事があるのは、楽しいだろう?


  え…。

初めて言われる言葉だった。

片付けられなくて、散らかして、『もう大変…』と零した時、今までわたしに返ってきていた言葉は、『自業自得』とか『散らかすのが悪い』とか…そういう類のものばかりだった。
そしてその度に、『そう…自分が悪いのだ…』と、落ち込むのが常だったのだ。
けれども彼は…。
片付けを、楽しむ?
やる事があるのは、楽しい…?
わたしには、全く無い思考だった。


思えば…。


彼がわたしに、ダイエットを心掛ける様に言って以降も、一緒に食事をする機会が何度もあった。
けれども彼は、わたしの食べるものに文句を一切言わない。
例え…ラーメンにご飯もののついているセットという…ダイエットの天敵を欲しがろうが…非難めいた事は、ひと言も、言わない。
罪悪感を感じて、

  こういうのが一番太るんだけどね…。

と呟いても、

  食った分、運動すりゃ済む。

と言うだけなのだ。
彼はきっと、食事を楽しんでいる。
だから自分が食事を楽しむ為に、相伴しているわたしにも、好きなものを自由に選ばせ、楽しく食べさせている…。
そんな気がする。


  喜怒哀楽の感情を、一切取り繕うな。
  俺の前では、全てを素直に表現しろ。
  それが出来ん玩具なら、俺は要らんぞ。


彼に、厳命されていることだ。
この言葉を証明するかの様に、彼は、わたしの全ての感情の動きを面白がり、愉しむ。
どん底まで落ち込んでいる時も、悲しくてしょうがない時も…真面目に応対してくれたり、時には茶化してみたりしながら、わたしの吐き出す感情を、余す処なく堪能している様だ。

もしかして…彼の明るさがわたしに伝染するのは…どんな瞬間も、彼自身がとても愉しんでいるからではないのか…。

今後の自分の生き方に対する、ヒントを貰えた様な、気がした。





自己の好悪と幸せと

2008/06/06(金) 00:16:08
15回目の逢瀬の後…。

彼を、家の前まで送り届け、別れ際の口づけを交わした時、言った。

  今日は、バイク日和だったのに、
  わたしの為に時間を使ってくれて、
  どうもありがと。


  ほう…。

彼が、ちょっと驚いた様な顔をした。

  お前…そんな事が言える様になったか。

そして、ニヤリと笑った。
その表情に、既視感を覚える。
記憶の中を検索して、思い出した。
そう…あの時だ…わたしが、彼の横に座れなくなった時…。

その瞬間、わたしの中で、何かがストンと落ちた。
『腑に落ちる』とは良く言ったものだ、と思う程の、爽快感すら伴う感覚だった。

彼のこの満足そうな笑顔は、わたしの意識を変化せしめた、自分自身に対して向けられている。
『こいつをこういう風に仕込んだ俺、凄い!』という、己への賞賛なのだ。

あの時、わたしの心がざわめいたのは、彼の満足げな笑顔の中に、今までの経験で知っている色しか見出すことが出来なかったからだ。
『そうそう、お前はどうせその程度なんだから、分を弁えろよ』という、わたしを完全に見下している色…。

わたしは、彼の性処理玩具。
わたしに、人間としての尊厳など無い。
そう口では言いながら…ブログにもそう書き綴りながら…『見下されたのでは』と感じた途端に、何故わたしの胸中は、不穏にざわめいたのか…。

それに…彼の表情には、わたしを見下す者が必ず見せる傲慢さは、感じられなかった。
ならば、あの笑顔に感じた満足感は、一体何だったのだろう…?

あの時以降、時々思い返しては分析しようとしていたパズルのピースが、ストンと綺麗に収まるべき処へ収まった様な気がした。


16回目に逢った時、彼に訊ねた。

  この間の夜に、Tさんが笑ったのは…。
  もしかして、わたしにあんなこと言わせた俺、
  凄い!…とか思ってたから…?


彼の顔に、ゆっくり笑みが広がり、やがて『ククククク…』という様な声を上げて笑い始めた。
ふっと真顔に戻り、言う。

  お前…凄いな。
  よく解ってるじゃないか。


今度はわたしが笑顔になる番だ。

  やっぱりそうかぁ…。
  もしかしてTさん、自分の事好き?


  おう!

彼は、胸を張った。

  俺は自分が大好きだ。

  ひょっとして…ちょっとナル入ってたりしない?

  そう!
  俺はナルシストの完璧主義者だぞ。


  それじゃあ、言いつけ通りに
  わたしが卵を減らして、
  ちょっとイイ女になったり
  しちゃった日には、もう大変ね。
  『俺、さすが!俺、最高ぉーーっ!』って。


彼は、大笑いした。

  その通り!
  お前、だいぶ俺のこと解ってきた様だな。



初めて抱かれた時の事を、思い出した。
逝かされ続けてぐったりと寝そべるわたしの頬を撫でながら、彼は言っていた。

  幸せそうな…いい顔だ…。
  お前のその顔を見ていると、
  こんな顔をさせる事が出来たんだと思えて、
  俺の気持ちも満たされていく。


この頃から彼は、相手を満足させることで自らも満足するタイプであることが、はっきりしていたのだ。

それなのに、わたしが自分のことを憐れむばかりだった時には、彼の笑顔の意味を負の方向でしか受け止められなかった。
今、気の持ちようが変わった事で、わたしの視点も変わった。
だから、彼の一部を理解することが出来た…。

自分を大好きな彼が、自分自身を楽しませる為にやっている事が、わたしに影響を及ぼし、生命力を与えてくれている。

先日、コメントでも頂いた通り…。
自分自身を愛せない者は、周囲を幸せにする事も、出来ない…その事を、強く実感した。




完璧主義...(1)

2008/06/07(土) 12:06:17
『完璧に出来ないのは
 何もしていないのと同じ』

わたしは、そう言われながら育った。

「これを手伝ってくれたら、お小遣いをあげる。」
母親に言われて、小遣いを貰うという習慣のなかったわたしは、俄然張り切る。
しかし、どこかで必ず駄目出しをされ、実際に小遣いを手にすることは、無かった。
完璧に出来ていなかったからだ。
そしてそれは、何もしていないのと同じだからだ。

今なら、それが完璧に出来ているか否かは完全に母親の主観であり、やらせるだけやらされた挙句、主観的にそれを否定されるなんて、とても理不尽だと思う。
もしかしたら母親は、小遣いにホイホイ釣られるわたしを便利に使い、成功報酬を渡す気は全くなかったのかも知れない。
それなのに、今度こそは貰えるかも知れないから…と、母親の言いなりになり続けた当時のわたしは、何て愚鈍なのだろう。

そしてこの論法は、今でも色濃く、わたしに影響を与えている。
ただしわたしは、他人に対して完璧を求めることは、無い…無い筈だ。
何故なら、完璧に仕上げる事の難しさと、どの段階をもって『完璧に出来た』と判断するかには主観が入ることを、よく知っているからだ。
その代わりにわたしは、完璧でないと思うと、自分を責めてしまうのだ。
完璧に出来なくなった原因を、予見出来なかったわたしが悪いのだ、という風に。
そして、自己否定と自己嫌悪に囚われる…。


だから彼が、己を『完璧主義者だ』と評した時、完璧主義と自己否定が表裏一体となっていない彼に、とても不思議なものを感じた。

ベッドで、抱き合って寛いでいる時に、訊いてみた。

  Tさん、完璧主義者だって言ってたけど、
  完璧に出来なかった時は、どうするの?


  完璧に出来るまで、挑戦し続けるさ。

  でも、自分の力の及ばない処で
  どうしても完璧に出来ないことって
  あるでしょう?
  そういう時は、どう折り合いをつけるの?
  わたしは、そういう状況で完璧に出来ない時も、
  凄い自分を責めてしまうの。


  お前は何様だ?

頬に軽く、平手打ち。

  自分の力がどうしても及ばない処まで
  コントロールしようとするのは、
  ただのエゴだ。


  えっ?
  …だって、例えば仕事なんかだと、
  この人に頼んでしまった自分のミスだ、とか
  思ったりしないの?


  そいつが、俺の思う結果を出せなかった場合も
  ちゃんと予測しているからな。
  色んな結果を想定しておいて、
  どれかに当て嵌まったら、
  俺はそこに満足する。


また、わたしには無かった視点を提供された…。
わたしはそのまま、沈思黙考に突入する。
彼が、そんなわたしを、きらきら瞳を輝かせ、興味深げに観察している。
この時わたしは、彼のバイクがパンクした時のことを、思い出していた…。




完璧主義...(2)

2008/06/08(日) 00:07:38
連休中の一泊ツーリングで彼は、以前タイヤがパンクした町を再び訪れている。

その理由を、こう説明してくれた。

  あの旅は、俺の中で完結していない。
  あの時走る予定だった道を、
  修理したバイクで走って帰る。
  そこで初めて、俺はあの旅を
  完結させる事が出来るんだ。
  あの時バイクを預かってくれた
  ガソリンスタンドにも、
  改めて礼を言いたかったしな。


そして、一泊ツーリングを終えてラーメンを食べている時、彼は呟いていた。

  …うん。
  これで完璧…。



もしもわたしが彼の立場だったなら…。

ガソリンスタンドへのお礼は電話などで済ませ、何故、タイヤを完全に駄目にしてしまうまで異変に気付かなかったのだろう…とか、何故、あんな落石だらけの道に行ってしまったのだろう…などと後悔し続け、悲しい思い出として心に刻んでしまったことだろう。
せっかく途中まで楽しかったのに、自分の所為で台無しになってしまった…と思い、まだ完結していないなどとは、きっと考えもしないに違いない。


そして…気が付いた。

あの時、何故わたしが、自分の乗っていないバイクのパンクを、自分の所為かも知れないなどと考えたのか。
わたしが彼の立場なら、後ろに気を取られていたから落石を見落としたと考えるかも知れないから、そんな処に思いが至り、自責の念を感じたのではないか。

ガソリンスタンドで、彼のバイクをわたしの車に積むなど、どう考えても無理と半ば判っていながら、シートを動かしたりしていたのは何故か。
彼の傍で、彼のする事を見守ることしか出来ないのが、とても気詰まりだったからだ。
彼に、『こいつ、他人事だと思って、退屈そうにぼーっとしやがって』と思われるのが、嫌だったのだ。
これも…わたしが彼の立場なら、傍で見ている人に八つ当たりしたくなるから、思いが至ったのではないか。

自分の力の及ばない処にまで自責の念を覚えるのは…その裏の感情から、目を逸らしていたからだ、と言えるかも知れない。
つまり、完璧に出来なかったのは、それの所為と考えることだ。
他の何かの所為にして、責任転嫁したいという本音…。
けれど転嫁された側は、それをどれだけ腹立たしく理不尽に感じるかを知っているし、転嫁することを卑怯だとも考えているから…。
だから、自分の中に生じたそういう気持ちを、『わたしの責任なのだ』という形にすり替えているのだ。


  自分の力が及ばない処まで
  コントロールしようとするのは、
  ただのエゴだ。


彼の言葉を、思い返す。

そう…これは、紛れも無くエゴだ。
わたしの自己嫌悪と自己否定は、エゴをエゴと自覚しない為の…ある意味、自己防衛とも現実逃避とも言えるものだった。
本当のわたしは、凄まじいエゴイストなのだ。
自分の精神を崩壊させてしまう程の…。


今までのわたしなら、こんな事に今頃気付くなんて…と、嘆き悲しむところだ。
自分がエゴイストだったなんて…という処も、悲嘆の対象になるだろう。

けれども、今は違う。
今のわたしは、こういう風に考える。

これに気付けたのは…わたしが、現在の精神状態になったからだ、と。
つまり…彼。
彼が居てくれてこそ…。




無題

2008/06/09(月) 22:59:52
交互に襲ってくる
歓喜と、憂鬱。

彼と過ごした時が
幸せであればあるだけ
まるでその反動のように
わたしの上に影が落ちる。

光が強ければ、
影も濃い…ということだろうか…。




扉の向こう...(1)

2008/06/10(火) 20:54:47
  一万回、お前を突きたい。
  突きまくられて、
  感じまくって、
  お前がどう壊れるのかを見たい。


常々彼が口にするこの欲望を実証するかの如く、わたしを抱いている時の彼は、わたしから決して視線を外さない。
わたしの動作、わたしの表情、わたしの喘ぎ声や悲鳴を全て、何の感情も浮かばぬ瞳に観察者の冷徹な光のみを湛えて見据え、味わっている。


彼が、わたしの中を削り続ける時間は、逢瀬を重ねるごとに長くなっている。
わたしがいくらかの柔軟性を身につけた事で、わたしの関節から返ってくる反発が少なくなり、その分、体力を消耗せずに済んでいるからなのだそうだ。

彼の抽送は、わたしが失神しても止まらない。
突き入れる角度や深度、速度などを変化させ、わたしが覚醒する様に仕向ける。
『もう嫌』と言っても、『痛い』と言っても、彼の表情は全く変化せず、抽送をやめてくれる事もない。
やめるのは、彼がやめたくなった時だけ…。

そんな彼の腕の中でわたしは、悦楽と苦痛とを同時に味わいながら、逝き狂い、悶え狂っている…。




扉の向こう...(2)

2008/06/11(水) 00:55:17
つい先日の事。
いつもの様に、彼に突き上げられ続けていた時…今までとは全く違う感覚が、襲い掛かって来た。
身体の奥深い処から、とても激しくて熱くて勢いのあるものが爆発的に漲って、わたしを粉々に破裂させてしまいそうな…そんな感覚だった。
今までの達し方とは、全く質の違う逝き方をしそう…そう思った。

目の前に、扉が見えた。
扉は、向こう側からの凄まじい圧力に負けて、歪んでいた。
わたしが取っ手に手をかけたら、もの凄い勢いで開いた扉は、わたしをその中に引きずり込んでしまいそうだった。
そしておそらく、二度と戻っては来られない…。
今以上に…彼でなくては駄目な自分になってしまう。
彼だけを…まるで産まれてから一度も満腹になった事の無い子どもの様に、貪欲に貪欲に求める様になってしまう…。
そういう確信が、あった。

  やめて…お願い、やめて。

懇願したが、勿論聞き入れられる筈も無い。
扉から目を逸らす様に…彼から与えられる感覚を、自分の身体から切り離そうとする。
出来ない。
いや。
その先は、知りたくない。
やめて。
やめて。
お願い、やめて…。


彼が、わたしの中に放出した。
微かに呻きながら、長い時間をかけて、ドクンドクンと注ぎ込む。
今にも開きそうになっていた扉は、遠ざかっていった。
わたしは安堵し、彼の体重を受け止める…。


抱き合って寛いでいた時、彼が言った。

  お前が『やめて』って言った時、
  今までの言い方とは違っていたから、
  本当にやめた方がいいだろうかと一瞬思った。


  ああ…あの時ね…。

わたしは、見えたものの話をした。

  そんな事になってたか…。
  あの時、お前の膣内は
  とても活発に動いていた。
  チンポを、奥へ奥へと吸い込む様な…。
  お前が逝きっぱなしの時、よくそうなる。
  凄い気持ち良さだぞ。


自分の中がそんな事になっていたとは…。
あの葛藤の時で逝きっぱなしの状態だったとすれば、扉を開けていたら、わたしはどうなっていたのだろう…?
知りたい…と思うより先に、やはり恐怖心が先に立つ。

  次にその扉を見たら、必ず開けろ。
  お前が一体どうなるのか、見たい。


彼は、いつもの様に、興味で瞳を煌かせている。
わたしは、素直に了承することが、出来なかった…。




無題

2008/06/12(木) 01:12:42
彼によってもたらされる憂鬱と
それ以外の憂鬱は、
その質が全く異なる。

彼がわたしの精神を揺さぶるのは、
翻弄されるわたしを見たいから。
わたしに興味を持ってくれての精神攻撃。

それ以外のものがわたしの精神を揺さぶるのは、
わたしの意志と発言を捩じ伏せたいから。
わたしを完全に否定するための精神攻撃。

  最後ぐらい、爆発してみたらどうだ?

彼は、言う。

  感情には感情で返されます。
  大声で威圧されるのは…とても怖いのです。


色々な事を、思い出すから。

憎みたくはない。
例え憎まれていても。

綺麗事だろうか…?




無題

2008/06/13(金) 00:15:01
『憎みたくない』

そう考えてしまうという事即ち
憎みはじめているという証では
ないだろうか…?

憎みたくはない。
それは本心。
わたしにだって非はあるのだから。
でも…
喉元までせり上がって…
必死で飲み込む言葉。


『卑怯者。』




無題

2008/06/16(月) 14:17:28
不安。
疑心暗鬼。

何も信じられなくなっている自分に気付く。




信。

2008/06/19(木) 01:50:31
疑心暗鬼の泥沼でもがくわたしは、
その想いを正直に彼に、打ち明けた。

全てを無にする覚悟が、出来ていただろうか…?
出来たからこそ、行動できたと思ったけれど、
今にして思えば、『全てを無に』というのは
彼との関係ではなく…自分自身の事だったかも知れない。

彼は、突然の呼び出しに応じてくれた。
わたしの話を聞いても、怒らなかった。
夕闇に沈む海辺の公園で、
わたしの頬をペチペチと叩きながら、
色んな言葉を注いでくれた。

  他人の基準に自分を合わせようとするな。
  もっと自分の事を考えろ。
  そして、自分を信じろ。


『俺を信じろ』とは、言わなかった。
他人の基準に合わせるなと言うのだから、
彼の基準にも合わせるなと言う事か。
彼に依存させない為かも知れない。
『信じた方が悪い』というような、
後々の逃げ口上の為ではなく…
彼自身が本当に自分を
信じているのだという事が、伝わった。

長年連れ添っていた相手の本性に、気付いていなかった。
だから自分の判断など信じられないと思う。

でも本当に?
本当に気付いていなかったか?

気付いていた。
自分には被害が及ばないから、
見て見ぬフリをしていただけ。
その矛先が自分を向いた時の事を、
想像出来ていなかっただけ…。


話が一段落した後、言った。

  今日は…ごめんなさい。

  違う。

彼がわたしの頬を叩く。

  俺の視点から言うな。
  お前基準で考えろと言ってる。


どういう意味か…咄嗟には解らない。
少し考えて、言い直す。

  今日は、どうもありがとう。

  そうだ。
  それでいい。


彼の微笑みは、やはりわたしを
心底リラックスさせるものだった。




とある離婚

2008/06/20(金) 00:21:39
両親が離婚したのは、わたしが結婚した後のことだった。


父親に女がいる事には、わたしも高校時代から気付いていた。

『どんなに酷い父親でも、
 あなたたちの結婚に影響する。
 だからお母さん我慢するね。』

母親の口癖だった。
それが、未婚の妹たちを残したまま、突然離婚したいと言い出した。
母親の相談を電話で受けた時、彼女の話題によく登場する様になっていた男の存在が、無視出来ないと感じた。

離婚そのものには反対しない。
けれども、その男との再婚を考えて離婚したいと言っているなら、賛成出来ないと言った。
堅気の男ではなかった。
ヤクザ崩れの上、不安定な職に就いていた。

母親は、その男とはそんな関係ではない、と言い張った。
そして今まで父親に受けた仕打ちの数々を論った。

『離婚出来ないなら、死にたい』

そう言って泣き喚く母親に閉口し、『好きにしろ』と突き放した。

両親は、離婚した。
父親は家を出て行き、わたしと殆ど歳が違わぬ女と、すぐに再婚した。
母親の男も、程なくわたしの実家に転がり込んで、母親と暮らし始めた。


離婚からきっかり半年後。
案の定、母親が再婚すると言い出した。
わたしは強く反対した。
男の目当ては、母親が住んでいる住居。
そう確信していた。

『あんたって子は、母親が幸せになろうと
 しているのを、邪魔するの』

電話口で母親は、赤ん坊の様に号泣した。

その男は、今に仕事に行かなくなる。
目当ては、住居だ。
そうはっきり言った。

『彼の事まで愚弄するの』
『私に不幸になれと言うのね』
『昔からあんたはそうだった。
 私の幸せは、全部あんたが潰してきた』
『はっきり死ねと言いなさい。
 死んで欲しいんでしょ?』

連日、深夜に電話をかけてきては泣き叫ぶ。
何を言っても、無駄だった。
疲れ果てて、『好きにすればいい』と言った。
母親は、再婚した。


やがて母親は、住居の名義を男に変えると言い出した。
今度こそわたしは、必死で反対した。

『また私の幸せの邪魔をするんだ』

母親が泣き喚く。
最早この人とは、意思の疎通が出来ないと諦めた。
当然、母親を説得する事は出来なかった。

わたしの実家は、まだ住宅ローンを払っている状態だった。
慰謝料の一部として、住宅ローンはそのまま父親が払い続ける事になっていたが、これには『母親が再婚しないなら』という条件が、ついていた。
名義を男にした上でローンだけを父親に払わせようと画策したが、当然父親は支払いを打ち切り、母親はその行動を不服として調停に持ち込み、惨敗した。
住居のローンは、母親が支払う事となった。

調停終了からいくらもしないうち、男が出て行き、母親は再び離婚した。
案の定、仕事に行かなくなり、そればかりか暴力まで振るう様になったそうである。
住居を手に入れられぬどころか借金まで背負った母親には、用が無くなったのだろう。


調停の結果をわたしに連絡してきた父親は、電話口で快哉を叫んだ。

『どこまでも馬鹿な女だ。
 お陰でこれ以上金を使わずに済んだ。
 礼を言いたいくらいだよ』

『良かったね』と応じた。
確かに、とことん馬鹿な女だ。
言動も常軌を逸している。
でもそれが、わたしの母親だ。
そして、母親の境遇を嘲笑しているこの男が、わたしの父親なのだった。




記憶と事実

2008/06/20(金) 12:13:51
わたしに相談した処で、結局反対される事になる。
それなのに何故、母親は都度わたしに相談していたのか。

ここに、わたしがわたし自身をどうしても信じることが出来ない、大きな理由がある。


母親は、記憶を、自分の都合の良い様に改竄する癖があるのだ。

人間誰しも、強烈な印象を受けたことだけを鮮明に記憶していたり、ちょっとした記憶違いをしたりということは、あると思う。
だが、母親のそれは、尋常ではない。

父親との離婚について、わたしはあまり積極的に賛成はしなかった。
自分にも男が出来た途端にそれかよ…という気持ちもあったし、離婚した後、どうやって生活していく気だ…という心配もあったからだ。
けれども、思い通りに父親との離婚を果たした後、母親の中では、

『しのぶも大賛成してくれた』

という風に、記憶が改竄されていた。
ここまでなら、『好きにしろ』が『大賛成』に変換されているのか…という程度だった。

けれども、再婚についての記憶改竄は、凄まじかった。
どれだけ電話で言い争いをしたことだろう。
その男の何処が信用できないか、どれだけ説明したことだろう。
母親の中では、それらが全て、無かった事になっていた。

『しのぶも、いい人にめぐり合えて
 良かったねって祝福してくれたじゃない』

この時は、言葉を失い…全身に、冷水を浴びせられた様に感じた。


父親との離婚に、大賛成してくれた。
男とのことを、祝福してくれた。
そういう風に記憶を書き換え、信じ込んでいるからこそ、毎度毎度電話口で号泣出来るのだ。

『あの時はこう言ってたのに、
 どうして急にそんな事言うの?』

という訳である。

この時に、それまで『あの時あんたはこう言った』『あの時あんたはこうしていた』と言われていた事全て…果たして真実なのだろうか…そう考えて…わたしの背後は…今まで歩んで来た道は…突然真っ暗になったのだ。


わたし自身、物覚えの良い方ではない。
人と話していて、記憶に食い違いを感じる事や、思い出せない事が、たくさんある。
その度に、わたしも、記憶を自分の都合の良い様に捻じ曲げているのではないか…そう考えてしまう様になった。
何しろこの身体には、あの女の血が色濃く流れているのだ。


誰かと…元夫と、物事の事実関係について論じる時…わたしの記憶とは違うと思っても、わたしはそれを主張出来ない。
間違っているのは、わたしである可能性が高いからだ。
時々、メモや日記に記録が残っているけれど、それを事実と考える事が、怖い。
わたしの主観でしか記録されていないからだ。
元々得意とは言えなかった人付き合いも、益々出来なくなっていった。
今、こうして会話していることを、事実の通りに記憶することが出来るだろうか…そう思うと、恐ろしくなるのだ。
都合の良い様に改竄した記憶に基づく主張を、他人に押し付けることはしたくなかったから、ごく少人数とだけお付き合いをし、記憶を基に喋らなくてはならぬ状況…所謂茶飲み話を回避する様になった。
仕事に関することだけは正確に記憶しなくてはならないから、それに集中する為だった。


こんな状態に、注意欠陥障害が加わると、どんなことになるか…。
正確な記憶を残す為、メモを取る。
が、肝心な時にそのメモがどこにあるか見つけられない。
メモを取ったことすら忘れている時もある。
首尾よくメモを見る事が出来ても、今度はそこに書かれていることが正しいのかどうか…判断は出来ない。
そのくせ、自分の興味のあることに関してだけは異様な記憶力を見せるから、周囲はわたしが記憶力に自信が無いと言っても信じてはくれない。
怠惰、いい加減、不誠実…というレッテルだけが、増えていく…。


この頃から…親元を離れたことで安定していたわたしの精神状態は、再び崩壊し始めたのだと思う。


自分自身の記憶も…経験も…何一つ信じることが出来ない。
今ここでこうして書き記している過去の出来事。
これも、実はわたしが自分の妄想の中で作り上げた記憶なのかも知れない。

けれども彼は…Tさんは、存在している。
わたしの携帯に届くメールが…着信音に、わたしだけでなく職場の人も反応することが…彼の存在を、実証していると思う。
ブログに書く内容に、彼が異を唱えない限り、彼との経験や会話は、事実なのだと思う。





無題

2008/06/21(土) 01:06:54
  俺はリアルだ。
  現実だよ。



彼からメールがあった。

彼は、現実。
わたしの妄想の産物ではない。

逢いたい。
触れて、彼を確かめたい。




憎悪...(1)

2008/06/21(土) 11:38:36
母親から、父親と離婚したいと相談を受けていた時。
わたしは、父親に対するあまりに酷い罵詈雑言に逆上し、怒鳴り散らしたことがある。

『あんな人でもわたしの父親だ。
 それをちっとは考えてモノを言えよ。
 それにあんただって、
 あーだこーだ言いながら、
 これだけガキ作って産んでるだろうが』

その途端、母親は泣き出した。

『あれはレイプだったの…』
『はあ?』
『あんたたちは、あの男にレイプされて出来たんだよ。
 私は嫌がったのに、あの男が無理やり…』

たちまち号泣し始める、わたしを産んだ女。

わたしは、絶句した。


そう言えば『レイプ&マリッジ』って映画、あったっけ。
リンダ・ハミルトンは好きだし、観ようと思ってたけど、結局観てないなぁ…。
まだレンタル出来るのかなぁ…。


わたしの脳裏を過ぎった思考。
他人事のようなこの反応は…わたしが、大きな衝撃を受けたことを意味する。

『…わたしたち全員、レイプされて出来た訳?』
『そうなのよ…酷かったのよ…』
『流産も経験してるって言ってたよね。
 それもレイプの結果ですかい?』
『そうなの…』


両親は…わたしを愛していないのではないか。
そんな想いを抱いたことは、何度もあった。
その疑問に対する回答を、やっと得られた様な気がした。

『産んでもらえた事に感謝しなさい』

幼い頃から、よく言われていた。
思春期に差し掛かった頃に言われた時は、
『勝手にヤって勝手に産んどいて、
 何抜かしてやがる』
と反発を覚えていたものだ。
あれは、そういう意味だったのかと、納得した。


五体満足に産んでもらえた。
身体だけは頑丈で、大きな病気ひとつせず育ってきた。
これだけでも、両親には感謝しなくてはならないことだ。

教育も、受けさせてもらえた。
県外の私大にまで、行かせてもらえた。
これは、大いに感謝しなくてはならないことだ。

それが、望まない妊娠だったのに産んでもらえたとなれば…どれだけ感謝しても感謝し足りない程だ。
産まれて良かったと思わねばならない。
生きてて良かったと思わねばならない。

老成したわたしが、わたし自身にそう諭している。

『こいつらぶっ殺す。
 ぶっ殺してやる』
凶暴で残虐なわたしが、血を吐きながら絶叫している。

『レイプで産まれた子どもなら
 気分次第で殴られてても
 しょうがないよね』
諦念しか持たぬわたしが、そう呟いている。

わたしは、多重人格ではない。
ほら、こうして、どんな人格がわたしの中にいるか、きちんと把握できている。
でもこれは単に、このわたしがマスター人格だからってだけだったりして。
自分が分裂してることだけ知らないマスター人格なの。
そんなケース、あるのかな。


脳の中を騒然とさせたまま、わたしは静かに、母親の吐き続ける父親への恨み言を聞いている。

『けれどこれは、決して本人にだけは
 言ってはならない言葉だった』
わたしの中で、意見が一致する。
老成したわたしですら、そう判断する。


自分の思い通りに事を成す為なら、
手段を選ばず、感情の赴くままに、
何でも言うし何でもする。

そういう人物に対して、それまでなら『もううんざり…』程度だったのが、凄まじい憎悪を感じる様になったのは、この頃からだったと思う。




憎悪...(2)

2008/06/21(土) 17:22:26
『これからは、女友達として付き合おうね』

わたしが成人した際に、母親が言った言葉だ。

わたしももう子どもではない。
幼い頃に何をされたかなんて事をいつまでも引き摺って、母親を斜め上から見下ろす様な態度は改めるべきだろう。
そう思って、了承した。

母親も、決して幸せに育ってきた訳ではない。
戦後の混乱期に父親を亡くし、威圧的かつ独善的な兄を父親代わりとして育ち、義父に性的虐待を受け、兄弟姉妹の中で一番成績が悪く、そのエキセントリックさ故に家族の中で孤立していた人だ。
そんな生い立ちを聞きながら、わたしの方もぽつぽつと、親元を離れてから経験した事を語るようになった。


わたしの結婚が決まった際の結納の席で、母親は突然言った。

『ああ良かった。
 しのぶの旦那になる人が○○(元夫の名)さんで。
 この子ったら、今までのボーイフレンドは
 どれもこれも不細工なのばっかりで、
 どんな子どもが産まれるんだろうって
 心配していたんですよ』

場が、凍り付いた。

『ちょっと…やめてよ』

小声で止めようとしたが、彼女は止まらない。

『あら、本当の事言って何が悪いの?
 ○○くんは、こーんな顔してたし、
 ○○くんはチンチクリンで、
 ○○くんなんか、なよっとしてたじゃない。
 あと、誰がいたかしら…ほら、えーとあの…』
『もうやめて』

彼女が名を出した中には、男女の付き合いだった人も居たし、単にちょっと親しい男友達程度の人も居た。

『何慌ててるの、変な子ねぇ』

静まり返った席上に、母親の楽しげな笑い声だけが響いた。
彼女に過去の交友関係を打ち明けた事を、わたしは激しく後悔した。

元夫とその両親が帰った後、わたしは母親のこの言動を非難した。

『悪気はなかったのよぉ』

コロコロと笑う母親。

『じゃあ、どんなつもりであんな話したの』
『どんなつもりって、思った通りを言っただけよ』
『言っていい事と悪い事の区別もつかないの。
 その場に相応しい話題かどうかも考えられないの』
『悪気はなかったって言ってるでしょッ!
 そんなに慌てるって事は、
 あの子たち全員とあんた寝ていたんだねッ?』

逆ギレされて、わたしは言葉を失った。


結婚式の当日。
花嫁の控え室で、母親が突然言った。

『これであんたが処女だったら、
 めでたさもひとしおだったのにねぇ…』

わたしは素早く周囲を見回し、その場に家族と式場従業員しか居ない事を確認した。

『そんな事…こんな席で言わないでよ』
『あら、本当の事を言って何が悪いの?
 あんたが結婚まできちんと
 純潔を守らなかったのが悪いのよ』

この時も、母親の身の上話に同情して、自分の異性関係まで打ち明けてしまったことを、わたしは凄まじく後悔した。


結婚後暫くしてからの事。
元夫の実家から、連絡が来た。
わたしの喫煙習慣を知った義父からの、怒りの電話だった。

わたしの母親が元夫の実家に電話をし、

『○○(夫の名)さんの子どもは
 まともに産まれないかも知れません。
 しのぶは煙草を吸いますからね。
 そんな風に育てていないのに
 ごめんなさいねぇ』

と言って来たというのだ。

その場はじきに禁煙するという事で事態を収め、わたしは母親に抗議の電話をした。
母親の返答は、予想通りだった。

『あら、本当の事を言って何が悪いの?
 あんたが煙草を吸うのが悪いんでしょ?』


母親のロジックは、明解だ。

本当の事ならば、誰に、何を言っても良い。
それによって不利益を蒙るのは、
そういう事をしている本人が悪いのであって、
自分は何も悪くない。

悪気が無いなら、何をしても良い。
それによって不利益を蒙る人物が居ても、
こちらに悪気が無かった以上、
自分は非難されるべきではない。

と、こういう事なのだ。


わたしは、母親のこれらの所業を見ながら、どう考えてもわたしの結婚を台無しにしようとしている様な気がしてならなかった。
心の奥底で…娘の結婚生活を幸せにしてなるものか…自分が得られなかったものを与えてなるものか…と考えているのではないかと思った。
それに、本当に悪気が全くないままこういう言動を繰り返すのであれば、そちらの方がよっぽどたちが悪い。
自分の言動が巻き起こす結果を想像する事なく、誰に迷惑をかけようが反省の欠片もなく、思うがままに行動し続ける上に、こちらは彼女の言動を全く予測出来ないのである。


この一件以降わたしは、誰に話されても全く問題のない様な、当たり障りのないことしか、母親には話さなくなった。
母親にとってわたしは、女友達だったかも知れないが、わたしにとって母親は、一番恐ろしい敵だった。
それが、とても哀しかった。




憎悪...(3)

2008/06/22(日) 03:03:48
母親が再婚した後の事。

電話でいきなり、男との性生活の話をされた。
わたしは、暫し絶句した後、声を絞り出した。

『そういう話は、聞きたくないんだけど』

母親は、笑った。

『いいじゃなぁい。
 こんな話出来る友達、
 あんたしか居ないんだもぉん。
 それにさ、あんたの方が経験豊富でしょ。
 色々教えてよぉ』

『ぶっ殺す…』
わたしの中で、血の臭気が立ち上る様な声がした。
わたしの無言を承諾と取ったか、母親は男とのセックスがどんなに素晴らしいか、喋り始めていた。
話す内容の時系列から、やはり離婚前から関係があった事が判る。

『これがイクって事なのかなぁって思った』
『えっ、そうなの?』

思わず反応してしまった。

『その口ぶりじゃあ、あんたとっくに
 イクって感覚、知ってたんだね。
 ねぇねぇ、誰との時にイッたのぉ?』
『…旦那だよ』

嘘だったが、ここでわたしの過去の性体験を、披露する気はなかった。

『お父さんは最悪だったよぉ。
 どこも気持ち良くならないの。
 自分だけささっと済ませて
 すぅぐ寝ちゃってたしね』
『…レイプされたんじゃなかったのかよ』
『あら、いやぁねぇ。
 そうじゃない時もあったのよぉ。』

孕んだ時だけ、たまたまレイプだったという訳か。
なるほど、なるほど。
もの凄い命中率だな。

『今思えば、お父さん下手だったんだね。
 ○○さん(父親の女)も、若いのに可哀想よねぇ。
 ところであんた、やっぱり○○さん(元夫)が
 一番上手なの?一番いい?』
『…他の奴の事なんざ、もう忘れたよ』

錆び付いた金属が軋む様な音が、頭の中に響き渡る。
これが…わたしの初潮を、忌まわしいものの様に扱った人物か。
これが、わたしが鏡を覗き込む度に吹っ飛んで来て、色気づくなと怒り狂っていた人物か。
これが…これが、わたしの母親なのか…。

『あらそうなの?
 私の場合はね、○○さんはとっても
 優しいやり方する人でね』
『え、ちょっと待て』

聞き捨てならぬ事を聞いた。

『○○さんて、あの○○さんのこと?』

それは、わたしの大学時代、母親が仕事の関係で親しくしていた人物の名だった。

『そうよ』
『…○○さんと寝てたの?あの頃に?』
『だってぇ。淋しかったんだもぉん。
 お父さんとはもうしてなかったし、
 私だって女なのよぉ?』

視界が、すうぅっと暗くなった。
怒りで目が眩むって、これかぁ、と思った。

『離婚の時…親父は散々浮気したけど、
 自分はそういう事一切してないって言ってたよね?』
『あれはまぁ、嘘も方便ってね』
『それに、さっきから聞いてりゃ○○(男)とも、
 離婚するまえからヤってるんじゃん』
『…えへへぇ、まぁね』

『ぶっ殺してやるッ』
迸りそうになる言葉を、奥歯で噛み殺す。
怒鳴りそうになるのを、必死で堪える。

『それじゃ、親父にだけ非があるっつって
 慰謝料取るの、随分と卑怯なんじゃないか?
 あんた結局、男が出来たから
 別れたくなってるんじゃん。
 離婚条件を、見直すべきだよ』

その途端、母親の声のトーンが変わった。

『親のやる事に、子どもが余計な口出しなさんな』

キレた音は、本当に『ぶちっ』と聞こえた。

『何だそれ。
 散々女友達扱いして好きな事喋っといて、
 都合が悪くなりゃ子どものくせにってか』

何か反論していたが、それはもう憶えていない。

『もうこれ以上あんたとは話したくない』

そう言って、電話を切った。

トイレに駆け込み、嘔吐する。
嘔吐の合間に、声が漏れる。
わたしは、泣いていた。


母親に、殺意に近い程の憎悪を抱いていて…もうこの感情をどうする事も出来ないと、はっきり認識したのは、この時だった。




憎悪...(4)

2008/06/22(日) 03:46:27
憎悪している事を自覚した時から、わたしと母親の電話は、口論になる事が多くなった。
そうなった時の母親の決め台詞は、

『あんたみたいに嫌な性格の子、
 絶対○○さん(元夫)にも嫌われるからね』

だった。


そして今。

母親に言われた通り、わたしも離婚することになった。

おまけに、離婚成立前に、夫以外の男性に身体を完全に支配されるなど…。
あれだけ憎み、軽蔑してきた女と、全く同じ道を歩んでいる。


夫は、わたしが嫌いになったのではないと言う。
友人としては最高だが、妻としては最低だから別れると言う。
あの女の様に、配偶者に憎まれている訳では、ない。
そこが違う、と、自分を弁護する。

彼に身を委ねたのも、離婚が確実となった後のこと。
離婚に応じるしかないと覚悟した時、誰かに、壊れてしまうくらい抱かれたいと切望した結果、己の中の被虐嗜好を自覚し…加虐者を求めたのだ。
そこが違う、と、自分を欺く。

男が出来たから離婚したくなった母親と。
離婚に弾みをつける為に男を欲したわたしと。
あの女をここまで軽蔑出来る程の差があるだろうか。
無いだろう。
同類だ。
結局、あの女とわたしは、同類なのだ。

憎悪の矛先は、そのままわたしの方を向く。
彼と過ごす時間が、幸せであればあるだけ…。
彼に魅了され、支配されればされるだけ…。
わたしは、そんなわたしを赦す事が、出来なくなっていく……。





2008/06/22(日) 17:19:33
わたしは、子どもを、産まなかった。

わたしに子どもが産まれた時、
あの女と同じことを絶対に
しないという保障は、
ない。

わたしの子どもは、
気分次第で殴る父親に
悩まされることだけは、
ない。

その代わり、あの女よりも
凶暴で冷酷で狡猾な母親に
より一層苦しめられることになる。

夫が子どもを慈しめば慈しむ程
わたしは自分の子どもを
疎んじる様になるだろう。

わたしが欲して欲してやまなかったものを
当たり前の様に享受する己の子どもを、
妬み、嫉み、憎んだ挙句、
破壊したくなるだろう。

だからわたしは、子どもを産まなかった。

わたしはわたしのこの判断を、
後悔はしていない。

けれども…子を産む気もないのに
普通に結婚して幸せになりたいなどと
望んだことは、わたしの罪。

だから…。
周囲に何を言われても、
わたしに夫を非難する権利は、無いのです。

耐えなければならない。
耐えなければならない。




無題

2008/06/22(日) 17:23:53
出来ることなら

何の疑問も問題意識も持たず
当たり前の様に子を産んで育める
生物として一番正しい使命を果たせる

そんな女でありたかった。




無題

2008/06/22(日) 17:50:00
違う。

今のわたしは、
彼に支配され、
彼に責められ、
彼に貫かれ、
彼に逝かされ、
彼に狂わされる事を
何よりも一番欲している。

そして
安心してそれに没頭できる様、
基盤を求めて夫から搾取しようと
必死になっている。

醜い。
あまりにも醜い。
自覚なくやっているあの女よりも数段醜い。



無題

2008/06/23(月) 11:12:32
  それで?
  お前は向こうの言いなりか?
  何故、自分で専門家に相談しない?
  かっこわるい。



彼から…言葉の平手打ち。




2008/06/23(月) 17:51:22
かつてわたしは、牙を持っていた。

心の奥底に隠し持ち、
必要とあらば躊躇なく牙を揮い、
わたしが守らなくてはならない人を守る為、
敵を容赦なく血祭りに上げてきた。

しかしその牙は、元夫とその取り巻きによって
へし折られた。
その時元夫から浴びせられた言葉は、
わたしの心の傷を抉って曝け出し、
わたしの腰椎を打ち砕く程の威力があった。
わたしは倒れ臥し、動けなくなった。

最近ようやく腰骨が回復し、
そろりそろりと歩き出したわたしに、
元夫が更なる追い討ちをかけてくる。
心の傷だけがいつまでも塞がらず、
ダラダラと血を流し続ける。

これは、罰だ。
罰なのだ。
だから耐えねば。
耐えねばならない。

そう思っていた。


  本能に従え。
  内なる声のままに動け。


彼からのメール。

  考えて答えが出るものなんざ偽者だ。
  本能だ。
  本能の声を聞け。


わたしはいつも、考えて考えて、考え抜いて答えを出す。
本能の声を、ただのエゴだと断じて、捻じ伏せて封じ込める。

わたしの本能は、叫んでいる。
彼の傍で、生きていきたい。
彼の傍で。
彼の傍で。
その為には…

心の奥底に、再び牙が生えているのを感じる。

けれども…

  本能に従えば…わたしは
  凄まじく凶暴で冷酷になります。
  それが…怖い。


わたしの牙は、破壊力がある。
それをわたしは、よく知っている。
自分のことだけを守る為に、
この牙を行使したことは、
まだ無い。
そうする自分の姿は、
母親に瓜二つなのに違いない。
そう思うからだ。

  ありのままが凶暴で冷酷、
  いいじゃないか。
  生まれ変われ。
  新しいお前になるんだ。


新しい、わたし。
自分の為だけに、牙を剥いて闘う、わたし…。




2008/06/24(火) 09:55:37
本能の声…。

わたしの心の奥深くから、
血を吐く様な声が聞こえる。
呪詛の様に、念仏の様に、
暗く、低く、響き続ける声がある。

それは究極のエゴイズム。
耳を傾ける訳にはいかない。
その声を聞いてはいけない。
断じて、誘惑されては、いけない…。

そうしてわたしは、
本能の声を無視する癖がついた。


今回、彼に言われて、もう一度
本能の声に耳を澄ませてみた。


『彼の傍で、生きていたい』


生きていたい…?

そんな声を聞いたのは……初めてだった。




ひたすら

2008/06/27(金) 13:40:54
彼に、逢いたい。

ただただ ひたすら
彼に、逢いたい…。




2008/06/30(月) 22:19:42
逢いたい…。

逢う事さえ出来れば、
それだけで満足…と思っていたのに、
逢えば無性に抱かれたくなる。

数時間しか逢えぬ逢瀬。
食事をしながら語り合い、
充実した時を過ごす。

けれども別れの時間が近付き、
彼を家まで送り届ける途中、
彼が欲しくて欲しくて
堪らなくなる。

  ああ…ぶち込みてえなぁ…

彼の呟きが、彼も同じ気持ちであるのを
教えてくれる。

  何でいつも、別れ際になると
  ヤリたくなってくるんだろうな。


彼が、笑う。
ホテルで逢って、散々抱き合った後ですら、
別れ際には再び、互いの身体を求めてしまう。
身体を重ねていない時は、尚更だ。

彼の家の傍で車を停め、
口づけを交わす。
彼の手が、襟元からわたしの
服の中に滑り込み、乳房を掴む。

  っあ…

甘い吐息が漏れる。
身体を一層彼に密着させる。
彼の手が、わたしの手を己の股間に導く。
そこが、硬く硬くいきり勃っているのが、
わたしの掌に伝わってくる。
わたしの中の牝犬が、目を覚ます。
すぐにでもそれを取り出して、
口一杯に頬張りたい。
彼自身を、たっぷりと味わいたい…。

わたしの乳首を摘んでいた彼の手が、
名残惜しそうに引き抜かれる。
わたしも、理性を駆使して、
彼の股間から手を離す。
ここでセックスに縺れ込んでしまったら、
彼の翌日の仕事に障る…。

  今度は、たっぷりと時間取って、
  お前を突きまくってやるからな…。


彼が、囁く。
わたしは微笑んで、頷く。

車を降りて、家に向かう彼の背中を、
見えなくなるまで見送った。


あの時、わたしの中で目覚めた淫乱な牝犬は、
未だにわたしの体内で、欲望の焔に姿を変えて
燃え続けている。

次に彼に逢った時、この感情がどういう風に解放されるのか…。
今度のわたしは、その瞬間を心待ちにしながら、
やはり彼に、焦がれ続ける…。