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憎悪...(3)

2008/06/22(日) 03:03:48
母親が再婚した後の事。

電話でいきなり、男との性生活の話をされた。
わたしは、暫し絶句した後、声を絞り出した。

『そういう話は、聞きたくないんだけど』

母親は、笑った。

『いいじゃなぁい。
 こんな話出来る友達、
 あんたしか居ないんだもぉん。
 それにさ、あんたの方が経験豊富でしょ。
 色々教えてよぉ』

『ぶっ殺す…』
わたしの中で、血の臭気が立ち上る様な声がした。
わたしの無言を承諾と取ったか、母親は男とのセックスがどんなに素晴らしいか、喋り始めていた。
話す内容の時系列から、やはり離婚前から関係があった事が判る。

『これがイクって事なのかなぁって思った』
『えっ、そうなの?』

思わず反応してしまった。

『その口ぶりじゃあ、あんたとっくに
 イクって感覚、知ってたんだね。
 ねぇねぇ、誰との時にイッたのぉ?』
『…旦那だよ』

嘘だったが、ここでわたしの過去の性体験を、披露する気はなかった。

『お父さんは最悪だったよぉ。
 どこも気持ち良くならないの。
 自分だけささっと済ませて
 すぅぐ寝ちゃってたしね』
『…レイプされたんじゃなかったのかよ』
『あら、いやぁねぇ。
 そうじゃない時もあったのよぉ。』

孕んだ時だけ、たまたまレイプだったという訳か。
なるほど、なるほど。
もの凄い命中率だな。

『今思えば、お父さん下手だったんだね。
 ○○さん(父親の女)も、若いのに可哀想よねぇ。
 ところであんた、やっぱり○○さん(元夫)が
 一番上手なの?一番いい?』
『…他の奴の事なんざ、もう忘れたよ』

錆び付いた金属が軋む様な音が、頭の中に響き渡る。
これが…わたしの初潮を、忌まわしいものの様に扱った人物か。
これが、わたしが鏡を覗き込む度に吹っ飛んで来て、色気づくなと怒り狂っていた人物か。
これが…これが、わたしの母親なのか…。

『あらそうなの?
 私の場合はね、○○さんはとっても
 優しいやり方する人でね』
『え、ちょっと待て』

聞き捨てならぬ事を聞いた。

『○○さんて、あの○○さんのこと?』

それは、わたしの大学時代、母親が仕事の関係で親しくしていた人物の名だった。

『そうよ』
『…○○さんと寝てたの?あの頃に?』
『だってぇ。淋しかったんだもぉん。
 お父さんとはもうしてなかったし、
 私だって女なのよぉ?』

視界が、すうぅっと暗くなった。
怒りで目が眩むって、これかぁ、と思った。

『離婚の時…親父は散々浮気したけど、
 自分はそういう事一切してないって言ってたよね?』
『あれはまぁ、嘘も方便ってね』
『それに、さっきから聞いてりゃ○○(男)とも、
 離婚するまえからヤってるんじゃん』
『…えへへぇ、まぁね』

『ぶっ殺してやるッ』
迸りそうになる言葉を、奥歯で噛み殺す。
怒鳴りそうになるのを、必死で堪える。

『それじゃ、親父にだけ非があるっつって
 慰謝料取るの、随分と卑怯なんじゃないか?
 あんた結局、男が出来たから
 別れたくなってるんじゃん。
 離婚条件を、見直すべきだよ』

その途端、母親の声のトーンが変わった。

『親のやる事に、子どもが余計な口出しなさんな』

キレた音は、本当に『ぶちっ』と聞こえた。

『何だそれ。
 散々女友達扱いして好きな事喋っといて、
 都合が悪くなりゃ子どものくせにってか』

何か反論していたが、それはもう憶えていない。

『もうこれ以上あんたとは話したくない』

そう言って、電話を切った。

トイレに駆け込み、嘔吐する。
嘔吐の合間に、声が漏れる。
わたしは、泣いていた。


母親に、殺意に近い程の憎悪を抱いていて…もうこの感情をどうする事も出来ないと、はっきり認識したのは、この時だった。




憎悪...(4)

2008/06/22(日) 03:46:27
憎悪している事を自覚した時から、わたしと母親の電話は、口論になる事が多くなった。
そうなった時の母親の決め台詞は、

『あんたみたいに嫌な性格の子、
 絶対○○さん(元夫)にも嫌われるからね』

だった。


そして今。

母親に言われた通り、わたしも離婚することになった。

おまけに、離婚成立前に、夫以外の男性に身体を完全に支配されるなど…。
あれだけ憎み、軽蔑してきた女と、全く同じ道を歩んでいる。


夫は、わたしが嫌いになったのではないと言う。
友人としては最高だが、妻としては最低だから別れると言う。
あの女の様に、配偶者に憎まれている訳では、ない。
そこが違う、と、自分を弁護する。

彼に身を委ねたのも、離婚が確実となった後のこと。
離婚に応じるしかないと覚悟した時、誰かに、壊れてしまうくらい抱かれたいと切望した結果、己の中の被虐嗜好を自覚し…加虐者を求めたのだ。
そこが違う、と、自分を欺く。

男が出来たから離婚したくなった母親と。
離婚に弾みをつける為に男を欲したわたしと。
あの女をここまで軽蔑出来る程の差があるだろうか。
無いだろう。
同類だ。
結局、あの女とわたしは、同類なのだ。

憎悪の矛先は、そのままわたしの方を向く。
彼と過ごす時間が、幸せであればあるだけ…。
彼に魅了され、支配されればされるだけ…。
わたしは、そんなわたしを赦す事が、出来なくなっていく……。





2008/06/22(日) 17:19:33
わたしは、子どもを、産まなかった。

わたしに子どもが産まれた時、
あの女と同じことを絶対に
しないという保障は、
ない。

わたしの子どもは、
気分次第で殴る父親に
悩まされることだけは、
ない。

その代わり、あの女よりも
凶暴で冷酷で狡猾な母親に
より一層苦しめられることになる。

夫が子どもを慈しめば慈しむ程
わたしは自分の子どもを
疎んじる様になるだろう。

わたしが欲して欲してやまなかったものを
当たり前の様に享受する己の子どもを、
妬み、嫉み、憎んだ挙句、
破壊したくなるだろう。

だからわたしは、子どもを産まなかった。

わたしはわたしのこの判断を、
後悔はしていない。

けれども…子を産む気もないのに
普通に結婚して幸せになりたいなどと
望んだことは、わたしの罪。

だから…。
周囲に何を言われても、
わたしに夫を非難する権利は、無いのです。

耐えなければならない。
耐えなければならない。




無題

2008/06/22(日) 17:23:53
出来ることなら

何の疑問も問題意識も持たず
当たり前の様に子を産んで育める
生物として一番正しい使命を果たせる

そんな女でありたかった。




無題

2008/06/22(日) 17:50:00
違う。

今のわたしは、
彼に支配され、
彼に責められ、
彼に貫かれ、
彼に逝かされ、
彼に狂わされる事を
何よりも一番欲している。

そして
安心してそれに没頭できる様、
基盤を求めて夫から搾取しようと
必死になっている。

醜い。
あまりにも醜い。
自覚なくやっているあの女よりも数段醜い。