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記憶と事実
それなのに何故、母親は都度わたしに相談していたのか。
ここに、わたしがわたし自身をどうしても信じることが出来ない、大きな理由がある。
母親は、記憶を、自分の都合の良い様に改竄する癖があるのだ。
人間誰しも、強烈な印象を受けたことだけを鮮明に記憶していたり、ちょっとした記憶違いをしたりということは、あると思う。
だが、母親のそれは、尋常ではない。
父親との離婚について、わたしはあまり積極的に賛成はしなかった。
自分にも男が出来た途端にそれかよ…という気持ちもあったし、離婚した後、どうやって生活していく気だ…という心配もあったからだ。
けれども、思い通りに父親との離婚を果たした後、母親の中では、
『しのぶも大賛成してくれた』
という風に、記憶が改竄されていた。
ここまでなら、『好きにしろ』が『大賛成』に変換されているのか…という程度だった。
けれども、再婚についての記憶改竄は、凄まじかった。
どれだけ電話で言い争いをしたことだろう。
その男の何処が信用できないか、どれだけ説明したことだろう。
母親の中では、それらが全て、無かった事になっていた。
『しのぶも、いい人にめぐり合えて
良かったねって祝福してくれたじゃない』
この時は、言葉を失い…全身に、冷水を浴びせられた様に感じた。
父親との離婚に、大賛成してくれた。
男とのことを、祝福してくれた。
そういう風に記憶を書き換え、信じ込んでいるからこそ、毎度毎度電話口で号泣出来るのだ。
『あの時はこう言ってたのに、
どうして急にそんな事言うの?』
という訳である。
この時に、それまで『あの時あんたはこう言った』『あの時あんたはこうしていた』と言われていた事全て…果たして真実なのだろうか…そう考えて…わたしの背後は…今まで歩んで来た道は…突然真っ暗になったのだ。
わたし自身、物覚えの良い方ではない。
人と話していて、記憶に食い違いを感じる事や、思い出せない事が、たくさんある。
その度に、わたしも、記憶を自分の都合の良い様に捻じ曲げているのではないか…そう考えてしまう様になった。
何しろこの身体には、あの女の血が色濃く流れているのだ。
誰かと…元夫と、物事の事実関係について論じる時…わたしの記憶とは違うと思っても、わたしはそれを主張出来ない。
間違っているのは、わたしである可能性が高いからだ。
時々、メモや日記に記録が残っているけれど、それを事実と考える事が、怖い。
わたしの主観でしか記録されていないからだ。
元々得意とは言えなかった人付き合いも、益々出来なくなっていった。
今、こうして会話していることを、事実の通りに記憶することが出来るだろうか…そう思うと、恐ろしくなるのだ。
都合の良い様に改竄した記憶に基づく主張を、他人に押し付けることはしたくなかったから、ごく少人数とだけお付き合いをし、記憶を基に喋らなくてはならぬ状況…所謂茶飲み話を回避する様になった。
仕事に関することだけは正確に記憶しなくてはならないから、それに集中する為だった。
こんな状態に、注意欠陥障害が加わると、どんなことになるか…。
正確な記憶を残す為、メモを取る。
が、肝心な時にそのメモがどこにあるか見つけられない。
メモを取ったことすら忘れている時もある。
首尾よくメモを見る事が出来ても、今度はそこに書かれていることが正しいのかどうか…判断は出来ない。
そのくせ、自分の興味のあることに関してだけは異様な記憶力を見せるから、周囲はわたしが記憶力に自信が無いと言っても信じてはくれない。
怠惰、いい加減、不誠実…というレッテルだけが、増えていく…。
この頃から…親元を離れたことで安定していたわたしの精神状態は、再び崩壊し始めたのだと思う。
自分自身の記憶も…経験も…何一つ信じることが出来ない。
今ここでこうして書き記している過去の出来事。
これも、実はわたしが自分の妄想の中で作り上げた記憶なのかも知れない。
けれども彼は…Tさんは、存在している。
わたしの携帯に届くメールが…着信音に、わたしだけでなく職場の人も反応することが…彼の存在を、実証していると思う。
ブログに書く内容に、彼が異を唱えない限り、彼との経験や会話は、事実なのだと思う。
コメント
しのぶサンにとっては私なんかが想像出来ないくらい辛い事なんだと思います。
だから失礼だったらすいません。
興味のある事には記憶力がいいって素敵だと思いました。
それなら主様の事は記憶力がいいはずですよね?
しのぶサンもソコはご自身を信用してあげていいんじゃないですか?
短所はある意味長所だったり長所はある意味短所だったり
捉え方の問題でマイナスだけの事なんてないのかもしれないと思いました。
私があまり丈夫じゃないからご主人様のすべてを満足させてあげれない。でも、だからこその絆もあります。
しのぶサンのおかげで気付けました♪
ありがとうございます。
>マシェリさん
興味のあることには記憶力がいいって素敵…。
こんなこと、初めて言われました。
今までわたしが記憶力を発揮していたのは、好きな映画監督や小説家の作品が即座に出て来るとか…ゲームで、何処にどんな敵が居て倒し方はこうだとか…そんなことばかりで…。
そんなつまらないことを記憶するから、肝心なことを憶えられないのだ…とか、記憶した知識を仕事に繋げられないなら意味がない…とか…言われ続けてきていたのです。
本当に、捉え方の問題なのだと思いました。
何が現実で、何が妄想なのか…その境目を見失いかけていましたが、彼からのメールと、マシェリさんのお言葉で、正常機能を取り戻せました。
本当にありがとうございます。
こんなわたしの書き殴り文章で、マシェリさんも気付けたことがあったなら…こんなに嬉しいことは、ありません。
コメント、ありがとうございました。
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