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変質者

2008/03/18(火) 00:15:42
小学校低学年の時だった。
わたしは、家の近所の道路で、同年代の少年たちと遊んでいた。
そこに通り掛かった労務者風の男。
異様な熱を持った視線を感じ、わたしはその男を見た。
男は、急に進路を変えると、わたしに真っ直ぐ近寄ってきた。
この人何か変…と身構えた時には、もう男は眼前に迫り、手を伸ばしてわたしの胸をべろりと撫でていた。
悲鳴を上げたわたしと、わたしに駆け寄る友人たち。
男は、歩調を変えずに立ち去りながら、首を捻じ曲げてわたしを見つめている。
わたしは、憎悪を込めて男を睨んだ。
男は、舌なめずりをして見せた。

一緒に遊んでいた少年たちの口から、その出来事が大人の知るところとなった。
母親は、ため息をついて言った。
『またなの?
 なんであんたばっかり
 こんな目に遭うんだろうねぇ…。』
その少し前にも、わたしは、性器を露出して見せる男に、付け回されたばかりだったのだ。
答えは簡単だ。
その地域には、わたしと同年代の少女が居なかった。
わたしの他は少年ばかりだったのだから、わたしの様な年齢層を狙う変質者が相手なら、自然わたしだけが標的になるのだ。

それから数日後。
やはり近所の少年たちと遊んでいたわたしは、その男が歩いてくるのを見つけた。
『あいつだ!』
わたしたちは、隠れた。
男が立ち去った後、少年たちが後を付けようと言い出した。
当時、わたしたちの一番お気に入りの遊びが、少年探偵団ごっこだった。
わたしたちは、物陰に隠れながら、男を尾行した。
男の家は、わたしの家からそう離れてはいなかった。
表札も出ていたが、習っていない字で読めなかったので、わたしはその文字を図形として脳裏に焼き付けた。
その日の出来事は、誰にも話さなかった。
ただ、憶えた字を何と読むのか、父親に訊いたのみだった。

それから暫くして、うちに警察官がやって来た。
わたしの胸を触った男について、詳しく訊きたいという事だった。
どうやら他所でも同じ様なことを繰り返している、常習者であったらしい。
『その人なら、何処に住んでいるか知ってます。』
得意になって、そう言った。
『へえ、そうなの? どうして?』
『尾行したんです。名前も判っています。』
『そうか…連れてってくれるかな?』
わたしは、警察官を見て興奮し、集まってきていた遊び仲間たちと共に、彼を案内した。
案内し終わった後、警察官は言った。
『どうもありがとう。助かったよ。
 でも、危ないから、もう二度と
 尾行なんかしちゃいけないよ。
 皆もだよ。』
わたしたち少年探偵団は、誇らしい気持ちと残念な気持ちを、同時に味わったのだった。

家に戻ると、母親が言った。
『普通、怖い目に遭わされた相手を尾行なんてするかねぇ。
 あんたがこんな目にばかり遭ってるのは、
 やっぱりあんたが色目を使ってるからなんだよ。』
『色目ってなに?』
『あんたがそういう事をされて、嬉しがってるって意味。』
母親は、汚いモノを見る様な目つきをして言い捨てた。
『嬉しくなんかないよ…。
 わたししか女の子がいないからだよきっと…』
『それにしたって、あんたそういう目に遭い過ぎる。
 要するにこれは、あんたに隙があるって事なの。』
『隙ってなに?』
『男を誘ってるっていう意味。』
わたしには、理解できない事ばかりを言われた。
ひとつだけ理解できたのは、変質者に遭ってしまうのは、どうやらわたしに非があるかららしい、という事だけだった。

その男の姿は、それ以降、見かけなくなった。