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彼は、わたしを完全にモノ扱いしている。
わたしには、それが本当に心地いい。
以前、「
初めてのアナル」で『わたしは車か。』と書いたら、それを読んだのだろう、彼からのメールに、こんな事が書かれていた。
俺たちは、初心者ドライバーと新車だ。
この間、慣らし運転がやっと終わった。
これからは、レッドゾーンまで回せるな。
愉しみだ。わたしが新車…。
意外だった。
結婚していて歳をとっていて、スタイルも醜いわたしを、新車とは…。
わたしは一体、どんな車ですか?訊いてみた。
返事は、こうだった。
新車といっても、エンジンだけだ。
真空管のラジオがついた、
ヴィンテージ2シーターのアメ車だな。
この車、性能以上にやたらと加速したがる。
制動が弱いし、サスは硬くてギシギシいってる。
だから今、俺の癖を叩き込んでるところだ。
俺が欲しいのは、スピードだけじゃないからな。
この車で一番気に入ってるのは、ラジオだ。
感度もいいし、最高の音を出すから、
俺は気持ちよくドライブを続けられる。わたしは、声を上げて笑った。
なんて上手いこと表現するのだろう。
わたしは、早く徹底的に壊して欲しくて、ウズウズしている。
責め立てられる事を悦び、もっと、もっとと哀願する。
そのくせ身体は硬くて、彼に柔軟運動を心掛ける様に言われている。
スタイルは大柄で無骨で大雑把、燃費も悪い。
そして彼は、わたしの啼く声を、とても悦ぶ。
突き入れられて漏らす喘ぎ声も、打たれて上げる悲鳴も、お仕置きでの喚き声すらも…。
もうすぐ…彼に逢える。
彼は、どんな事をして、わたしをレッドゾーンに叩き込むのだろう…。
怖い。
愉しみ。
怖い。
嬉しい。
早く、逢いたい…。
9回目の逢瀬の朝…。
彼と逢う日は、いつもより早起きしなければならないのに、その日わたしは、仕事に行く時と同じ時間に目を覚ました。
慌てて支度を始める。
アナル調教は毎回する、と言われていたから、身体の準備に手は抜けない。
下剤を使ったあと、恐る恐る
フリーウォッシャーを使ってみる。
汚れがかなり薄くなるまで使い続けた結果、お風呂とトイレを何度も往復する羽目になる。
これからは、前夜の食事を早めに摂り、洗腸も夜のうちに済ませてしまおうと決意する。
わたしのスカート姿を見たい、という彼のために、初めて買ったワンピースを身にまとい、急いで彼にメールする。
ごめんなさい。
寝過ごしました。
これから向かいます。ガレージに飛び出した処で、彼から返事が来た。
今どこだ? まだ家です。ごめんなさい。 そのまま家に居ろ。
今日はやめだ。頭が、真っ白になった。
やっと逢える事になったのに…何故…。
どうして?震える手で、メールを打つ。
気が変わった。
何故変わったか、理由はわかるな?立ちすくんだ。
思考が凍結し、四肢から力が抜けていく。
また、怒らせてしまった…。
寝過ごしたからですね。
ごめんなさい。
先週は仕事が忙しかったから、
疲れが溜まっていたのです。
とにかく、向かいます。
お願い、逢ってください。キーを回してエンジンをかける時、『この車、キーのとここんなに重かったっけ…?』と、ぼんやり考えた。
一心に彼の住む街を目指しながら、『あと1時間以内』『あと30分以内』とメールを打ち続ける。
彼からの返答は、無い。
行けばきっと逢ってくれる筈…と考えながらも、つい先日知ったばかりの、彼の厳しさ激しさを思う。
もしかしたら、行きさえすれば…というわたしの心根を見透かして、本当に逢ってはくれないかも知れない。
そうなったら、どうしよう…。
息が苦しくなるほど彼を求めているのに、延期されてしまったら、それからの1週間は、普段の自分を装うことが出来なくなる…。
逢えたとしても、彼を怒らせたのなら当然、お仕置きは免れまい。
彼の事だ。
先日と同じお仕置きで来るとは考えにくい。
何か新しい加虐方法を考え付いている可能性も高い。
けれど、それでもいい。
彼に逢えないことに較べれば、苦痛や恐怖など、問題ではない…。
そんな事を考えながら、いつもの待ち合わせ場所から更に、彼の家に近い路地にまで車を進めた。
着きました。
○○まで来ています。
お願いします、逢ってください…。返事は、無い。
悄然と、降り始めた雨を見つめていた。
俺は、俺のルールに従わないものなら、
どんなに使い心地のいい女でも捨てるぞ。お仕置きの時に聞いた言葉が、脳裏に甦る。
メールが駄目なら、電話してみようか…。
連絡方法は、基本的にメールだ。
電話は使わない。こっちは、初めて逢う前に聞いた言葉。
以降、電話で連絡を取り合った事は、一度も無い。
これもおそらく、彼のルールなのだろう。
とすれば、電話などすれば、かえって怒らせるだけだ。
わたしは、どうすれば良いでしょうか。
お怒りを解きたいです…。もう一度、メールを送ってみる。
待ちながら、何度でもメールするしかない。
携帯が、メールを受信した。
このメス豚が…
待ってろ。ああ、良かった…。
今度は安堵で、四肢の力が抜けた。
やっと彼の姿が目に入った時は、涙が滲んだ。
彼は、わたしを見てニヤリと笑うと、車に乗り込んで来る。
こいつめ…。
寝過ごしただと? ごめんなさい…。 行くぞ。出せ。 はい…。その、既にスイッチの入った笑顔を見ながら、これはお仕置きだな…と、覚悟を決める。
何をされるだろうか。
耐えられるだろうか…。
それでも、あのまま放置され続けるよりは、ずっといい。
わたしは、いつものホテルに向かって、車を走らせ始めた。