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彼。

2008/03/14(金) 21:04:39
後ろから激しく責め立てられ…何度も達して、動けなくなったわたし。
それを、ベッドに横たえて休ませ、水を飲ませた後、仰向けになり、天井を見つめながら、彼が口を開いた。

  俺のことを優しいと思ってるんなら…。
  それは、俺をちゃんと見ていないって事だ。
  俺の優しさは…俺のこの欲望を、誰にも悟られまいと
  隠してきた結果、俺が纏っている鎧の様なものだ。
  お前は、その鎧しか見ていないんだ。


何も、言うことが出来なかった。

  こっちは初心者だぞ。
  何十年も封印していた欲望を一気に解放して…
  途中で制御する事が出来なくなったら、
  …どうするんだ…?


この時の彼の瞳は、黒い大河の濁流を覗き込んでいる様だった。
彼のこんな暗い眼を初めて見た、と思った。

イマラチオの時、彼の手の方に力を感じた理由を、理解した。
あの時感じた力は、抽送を補助するものではなかった。
わたしの自由を、封じ込める為のものでもなかった。
あれは、欲望が暴発しそうになるのを、必死で抑制していたが故の力。
彼の、強靭な意志力の顕在…。

自分がサディストであると自覚した時から…彼は、自分自身の欲望と、壮絶な闘いを続けてきたのだろう。
独りきりで。
その上で、あれだけの鎧を構築出来るとは…彼の、並ならぬ精神力を思い知らされる…。

わたしも、彼とは分野が違うけれども、誰にも理解してもらえない苦悩を抱えている。
人と違うということがどれだけ孤独かは、身に沁みてよく知っているつもりだ。
けれどもわたしは、とても脆い。
そう思っている人は少ないけれど…強い女だと言われてばかりだけれど…その実、蝶や蛾の腹部の様に脆くて、ちょっとした打撃で、すぐにぐちゃりと潰れてしまう。

この時、わたしの胸中に込み上げてきた想いを、どう表現すれば良いのだろうか。
彼への共感、愛しさ、敬意…。
どれをとっても、当て嵌まらない様な気がする。
未だに言語化出来ぬものを、その時のわたしが伝達できる訳もない。
けれども何とか伝えたい…。
そういう時、わたしは、身体で表現しようとするのだ。
獣のように。

身体を起こして彼に覆い被さり、その唇を貪った。
彼が、応える。
やがて彼の方がわたしの上へと位置を変え、中に入ってくる。
先ほどとは打って変わって、わたしの感触を、隅々まで味わおうとするかの様な、穏やかだけれども力強い抽送…。
思わず、口を突いて言葉が出た。

  T…Tさん…。

  ん…?

  Tさんを、好きに、なってもいい…?

わたしが好きになる人は…夫も、Sさんも、そのうちわたしを持て余す事になる様だから…。
それが彼にも、判った筈だから…。

  俺は、彼女とか、そういう女には欲情しない。
  こうしてお前を突かなくなる。
  それでも、いいのか?


  違う…。
  彼女なんかじゃなくていい…。
  玩具のままでいいの…。
  ただ、わたしがあなたを、好きでいていいか…。
  好きでいさせて欲しいの…。


彼は、それには答えず、優しく微笑しただけだった。

いかに本性を隠す為とは言え、中身とあまりにも乖離している鎧なら、気味の悪い歪さがどこかに必ず見える筈。
けれども彼は、そうではない。
こちらまで優しい気持ちになれる優しさ。
一緒に居て愉快な気持ちになれる明るさ。
これらを、暗い黒い衝動や残酷さと共に、表裏一体で併せ持つ。

それが、彼。
わたしの全てを、支配しつつある人。



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