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彼の後ろを、着いて走る。
バイクを駆りながら、彼が何かに気を取られて余所見をする。
何に興味を惹かれたのだろうかと、わたしも同じ処に視線を走らせる。
休憩や寄り道で停車した時に、『あの時あそこにあった、あれ…』とか、『あそこから見えた景色が…』などと会話をし、同じものを見ていた事を知る。
それについての感想などを語り合うのは、とても楽しかった。
その場で直ぐに話す事は出来なくても、その瞬間の感動は、きちんと共有している様に感じた。
所々で、彼がバイクを停車させる。
何かに興味を持ち、じっくりと眺める気になったのだ。
殆どの場合、その対象は、神社だった。
俺は、自分の走りたい様に走る。そう言っていた彼。
その言葉を証明するかの様に、だんだん道幅が狭くなり、車同士の離合が難しい程の道に入っていき、わたしと対向車が離合に手間取っていても、気にかける事なくさっさと行ってしまう。
それでも、停車する時は、ちゃんとわたしの車も後ろに停まれる場所に、停めてくれていた。
神社の境内に腕を組んで入り、看板を読んだり、聳え立つ巨木を並んで口を開けて見上げたりした。
神様の前じゃ、不謹慎な事は出来んな。そう言いながら笑って、神社にお参りする。
意外だったのは、彼がとても外交的だった事だ。
眺めているものが何か判らなくて、二人で『これ何だろう…』などと会話している時に、地元の方が通りかかると、躊躇うことなく『訊いてみようか』と、気軽に声をかけ、とても気さくに会話を始めるのだ。
これは、彼が独自の世界観…それも、加虐嗜好という世界を持つことを知るわたしからは、あまり想像の出来ていない姿だった。
お陰で、思いもよらない事を知ることが出来て、旅路はより楽しいものとなった。
そうして走る内、一度だけ彼が、かなり後ろを気にしていた事があった。
わたしは、ちゃんと彼の後ろに着いているし、特に変わったものも見当たらなかったし、一体何を見ているのだろう、と不思議だった。
あそこにはな、廃工場があったんだ。
去年ここを通った時、見つけた。
今回、更地になってたんで、残念でな。
あそこでお前をちょっと使おうと思ってたのに。 そ…そんな処、入れないでしょう? いや、去年は入れた。入ってみたからな。
あぁあ、どこでお前にぶち込もうかな…。走りながら、そんな事も考えていたのか…と、ちょっと可笑しくなる。
ま、いいや。
○号線あたりで出来るだろ。ああ、カーセックス再びなのね…と、決まり悪い感情を抱きつつ、○号線で邪魔の入らなさそうな処があったか、わたしも思わず思案してしまう。
バイクを停めて、彼が見入るものは、わたしが見たがるものと一致していた。
趣味が似ていると言って良いと思う程に。
彼には土地勘がある場所で停まり、
ここからの景色が、大好きでな。と見せてくれる時、彼の精神世界に触れさせてくれているのだ、と感じて、それもとても嬉しかった。
そうこうしながら進むうち、日が暮れて来た。
この方面に来ると、必ず彼が立ち寄るというドライブインのレストランが、思ったより早く閉店してしまった為、夕食は、その傍の「すき家」で摂ることにした。
わたし…キムチ食べたいな…。 出たな、この辛党。彼が、ぐっと身を乗り出して、低く囁く。
この後の事を考えろよ?ん?そして、ニヤリと笑った。
顔が熱くなる様な気がした。
結局、そういう意味では無難なものを注文し、腹拵えをした。
さあ、後は帰るだけだ。
これから通る道は、暗くなってから走るのは
緊張する道でな。
今日は、お前が居てくれるから心強い。 わたし、足手まといになってないか、
心配だったんだけど。 いや、全然。彼が、耳元で囁く。
適当な処で停まるぞ…いいな? わたしの車、で…? そうだ。前回のカーセックスの時に味わった快感を、思い出す。
わたしは、早くその場所に着いてくれないだろうか、と考え、一人赤面した。