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2008/05/02(金) 23:42:18
この日の朝は、快晴だった。
彼からはメールで、予定通りバイクに乗り、わたしの地元近くまで行く、とあった。
大まかな待ち合わせ場所だけを決め、そろそろ彼が着くかという頃合を見計らって、そこに行く。
○○ダムの○○に居ます。
その駐車場に屯しているバイクの中に、彼が居ない事を確認した後、メールを打った。
俺はもう○○ダムに着いてる。
何処に居るか…判るな?
彼からの返信があった。
驚いたわたしは、もう一度バイク乗りを確認するが、彼の姿は見えない。
わたしが来て以降、入ってくるバイクの中にも、彼は居なかった。
出入り口がひとつしかないから、この場所で待つ事にしたのだ。
見落としはない筈。
という事は、この駐車場には来ていないということだ。
彼が、好みそうな場所…。
ダムが見渡せる場所だ。
車を動かし、そこに移動した。
案の定そこには、彼の住む街のナンバープレートを着けたバイクが1台、停まっていた。
車を降りて、ダムに向かって歩く。
一人、ダムの上で、濁流を見下ろしている人物が居た。
遠過ぎて判別はつかないが…。
わたしは、歩きながらメールを打つ。
多分、あなたを見付けました。
その人物は、ポケットを探る様子をして携帯らしきものを取り出し、こちらを見た。
わたしは、歩みを速くした。
間違いない。
彼だ。
よく判ったな。
何となく、ここかなっていう気がした。
お前は何処にいたんだ?
あそこ。
わたしは、見晴らしの良いダムの上から、そこを指差す。
ここ、こんな風になってたんだね。
毎日通ってる場所なのに、知らなかったよ。
お前の職場は、ここからすぐか?
うん、近い。
行ってみてえな。
誰か居るか?
いや、今日は誰も居ない筈だよ。
わたしは、来た道を振り返って、ハザードランプを出して停まっている自分の車を見やる。
あそこ、多分長い間停めてられない。
そうだな。移動するか。
お前の職場まで先導しろ。
誰かの後ろを着いていくのは好みじゃないが、しょうがない。
わたしは頷いて、そっと彼の腕に自分の腕を絡めた。
おいおい、地元だろう?
誰かに見られたら、困るんじゃないのか?
平気…。
わたしと彼との出逢いは、夫から離婚を言い出された後…。
夫婦の関係が、完全に壊れた後だ。
だからわたしは、今後双方に別の相手が出来ても、また、居た事が判明しても、それを離婚の理由に加えたり、それで離婚の条件を変えたりしないことを、夫に約束させている。
それはわたしにも言える事で、離婚を言い出した理由が例え夫の浮気でも、わたしはそれを追及できないということでもある…。
車に乗り込み、彼のバイクを先導する。
バイクを見た時から、スピードを出す事に重きをおいたマシンではない事には、気付いていた。
引き離し過ぎてしまわぬ様、注意しながら、彼を職場に案内した。
職場の通り向かいに、小さな公園がある。
そこに車を停めて、外に出る。
あそこがお前の職場か…。
うん。
公園を見渡し、東屋を見つけた彼が、そこに歩を進める。
ベンチに座り、ひと息ついた。
ふと彼が、わたしの手を取って、爪先に目を留める。
…桜色だな。
わたしは、ピンク色のマニキュアを施していた。
以前のわたしなら、使うことのない色だった。
けれどもこの日、彼と逢う約束をし、わたしの職場を見たがっていた彼の事を想った時、職場から毎日、公園の桜を見ながら、この花を彼と見られたら…と考えていた事を思い出し、この色を選んだのだ。
それを、的確に『桜色』と彼が表現したことが、嬉しかった。
感性を、共有している様な気がした。
Tさんとお花見できなかったから。
だから、ね。
そうか。
彼が、鞄から紙袋を取り出した。
中身を口に運び、わたしにも袋を差し出す。
小さな鯛焼きだった。
鯛焼き…。
俺の好物だ。
すごい久しぶりに食べる気がする…。
わたしも鯛焼きを口に運び、鞄から緑茶のペットボトルを出す。
彼と一緒に、分け合って飲んだ。
わたしの職場は、閑静な農村にあり、周囲には広大な田圃が広がっている。
空高く、雲雀の囀りが聞こえてくる。
長閑で、静かだ。
この中で、ずっと彼と一緒に居たい…。
そう思ったが、叶う訳もない願いだった。
彼が鞄から地図を取り出す。
今日は、このルートを走ろうと思ってる。
お前がメット持ってるんだったら、
後ろに乗っけてやろうと思ってたんだが…。
持ってない…。
それに…タンデムなんて、
20年ぶりくらいだし、怖いよ…。
お前、これからどうする?
Tさんの後ろ走って、着いてっていい?
ああ。
だが言っておくが、俺は自分の好きな様に走るぞ。
好きな道に行って、好きな処で停まる。
それでも良ければ、着いて来い。
うん!
こうして、12回目の逢瀬は、バイクと車に分かれて走る、ツーリングともドライブともつかぬ、ちょっと不思議なものとなったのだった。