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2008/05/08(木) 20:02:03
わたしの運転する車は、闇に沈む峠道を突き進む。
車中では彼が、相変わらずわたしの髪を弄んでいる。

  この辺、バイクだと真っ暗でな、
  俺一人で走ると、凄ぇ怖えんだ。


  確かに、街灯ひとつ無いねぇ…。
  わたしはこんな道を夜走るの、好きだけど。


  お前な、バイクは生身がむき出しだぞ。

この闇の中で、車のヘッドライトなしで、独りで外に佇むところを想像してみる。

  …それは…確かに、凄く怖いね…。

  だろう?

やがて、わたしも土地勘のある道に入る。
やはり街灯の無い、真っ暗闇の峠道だ。

  真っ暗だけど…今日は、もう…
  やめた方がいいよね…。


  ああ…すっかり遅くなったもんな…。

カーセックスをするならあの辺で…と密かに目星をつけていた場所を、横目で見ながら通過する。

わたしの住む町に入った際には、家の前をゆっくりと通り抜けながら、彼に教えた。

  なるほど…ここがお前の巣か。

  巣…って。

  ここに、バカ面した犬と猫、
  バカ三姉妹で暮らしてるんだな?


  バカ三姉妹…。

どんどん酷い言われ様になっていく。
そのまま、いつも彼に逢いに行く時のルートを使って、彼を送り届ける。

  お前…こんな道を毎回走ってるのか!

  そうだよ。

現地の人間しか通らない様な、車1台がやっとという道幅の峠道だ。
彼が『上手い訳だ…』と呟く。
なんでも、峠道で彼のバイクと同じペースで走れる車は、あまり居ないのだそうだ。
それがわたしの場合、きちんと着いていけるし、対向車との離合に手間取って離れた後も、すぐに彼に追い付ける。

  お陰で、俺の好きな様に走れて、楽しめたぞ。

今まで言われた『運転が上手い』という類の、どんな言葉よりも、嬉しい一言だった。
何においても自分のやる事に自信の持てないわたしが、運転だけは得意だ、と胸を張っても良いのだろうか、と思える言葉だった。



やがて、彼の住む街に入った。
いつもなら、彼もわたしも、仕事に備えてとっくに就寝している時間だ。
それでも、もうすぐ彼と別れるのだと思うと、睡魔よりも淋しさの方が勝ってしまう。

  駄目だ、やりてえ。
  そこを左だ。


突然、彼が言った。

  えっ?

  我慢出来ん。
  15分だけ、お前を使う。


わたしよりも、彼の方が朝は早い。
それが心配だったが、他ならぬ彼自身の命令なら、わたしに否はない。
寧ろ、睡魔をおしてでもわたしを欲して貰えた事が、とても嬉しかった。
人気の無い真っ暗な場所で車を停め、二人ともリアシートに移動する。

  脱げ。

そう言いながら、彼はズボンを脱ぎ捨てた。
わたしもジーパンを脱ぎながら、彼のペニスを口に含む。
今日こそ、口で逝って欲しい…。
そう思いながら、一心不乱にペニスを舐め上げ、舌を絡め、吸い、扱く。
もっと…もっと猛って…。
しかし、彼の両手はわたしの髪を掴み上げ、次の命令が下された。

  乗れ。挿れろ…。

時間をかけられぬ交わりは、わたしには快楽ばかりをもたらす。
それが欲しくもあり、自分だけが…と申し訳なくもある。
前と同じ様に、彼をわたしの深い部分に招き入れ、前と同じ様に、本能のままに動いて逝き狂う…。


彼が、わたしの中から抜いた感触で、我に返った。

  …15分のつもりだったのに、
  40分もやっちまったよ。
  さすがにこれ以上はマズいな。
  帰ろう。


  …はい。

また、彼に逝って貰えなかった…。
淋しさと、無念さと、申し訳なさに襲われた。


いつもの場所まで彼を送り届けると、彼が、自分の住むマンションを教えてくれた。
指を指して、どこの部屋かまで教えてくれる。
これでわたしたちは、双方互いにどこに住んでいるかを、確実に把握する間柄となった。

彼に別れを告げ、自宅に着いて携帯を見ると、別れた直後に送られたと思しきメールが入っていた。

  本当に楽しかった。
  いつか、お前とバイクで
  旅をしたいと思った。


彼だけの世界に、更に深く、誘ってくれている…。
嬉しさの余り、涙が出て来て、メールの文字が、じんわりと滲んだ。