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2008/05/06(火) 01:16:17
帰路について、いくらもいかぬうちに、不意に彼がバイクを停めた。
どうかしたの?
パンクした…。
え…?
タイヤのパンク…。
突発的な出来事に弱いわたしは、それだけで思考停止に陥った。
バイクは…スペアタイヤ無いから大変だよね…。
挙句、我ながら間の抜けたことを言ってしまう。
このまま進める訳もなく、一旦引き返してともかくガソリンスタンドに行くことにした。
しかし、スタンドの整備工場はもう閉まってしまっていて、対応できない。
空気を入れてくれるが、入れた端から抜けていく。
完全に駄目になっている…。
わたしは、自分の車にバイクが積めるかどうか思案していた。
シートの配置を変えてみたが、どう考えても無理だ…。
彼の方は、バイク屋に連絡を入れ、相談し始めた。
結局、バイク屋が現地まで引き取りに来てくれることになった。
しかし、2時間はかかってしまうという。
それでは、彼もわたしも、翌日の仕事にかなり差し支えてしまう。
スタンドが遅くまで開店しているので、鍵とバイクだけスタンドに預かってもらい、わたしたちは帰らせていただくことになった。
快く預かって貰え、とりあえずは安心して、わたしの車に乗り込む。
ああ…。
この俺が、バイクを置いて帰るだなんて…。
落ち込む気持ちは…愛車に名前を付けて可愛がっているわたしにも、よく解る。
どこでパンクしたんだろう…。
あそこじゃねえかな。
ああ、落石がゴロゴロしてたね。
あれは確かに、ちょっと嫌な石だった。
砕けると、細かく鋭くなっていて…。
避けて走ったんだが、
避けきれてなかったんだろうな。
わたしの脳裏で、過去の亡霊が喚き始める。
『お前の所為だ!』
わたしの母親は、何かと言うと、わたしの所為だと言ってわたしを罵った。
父親の機嫌が悪くなった時や、何か物事が上手くいかなかった時…。
わたしから見ると、明らかに母親自身の失敗である事ですら…わたしが居るから、自分がイラついて失敗してしまった…つまり、わたしの所為だというロジックらしかった。
そんな馬鹿な話があるか、と思っても、反論すればするだけ母親は激昂し、事態がより不愉快なものになる。
だからわたしは、反発を覚えていても、それを口には出さなくなった。
よくよく思い出すと、夫もよく物事をわたしの所為にしていた。
自分で運転していて、何かに車をぶつける。
これは、わたしが話しかけた所為。
どこかに出掛けて、大渋滞に巻き込まれる。
これは、わたしが出がけにモタモタした所為。
夫にまでそう責められると、わたしは本気でしゅんとなってしまって謝るのが常で、そのうち、何もかも自分の所為だと感じる様になってしまった。
冷静になって考えれば、完全な八つ当たりだと思いはするのだけれど…。
彼が、割れ口の鋭い落石を避けきる事が出来なかったのは、わたしが着いて行きたがった所為ではないだろうか…。
実際彼は、いつもと較べて調子が狂うと言っていた…。
…わたしの所為の様な気がする…。
ぽつりと漏らした。
何で?
答えた彼の驚いたような語調が、彼は、わたしの所為だとは微塵も考えていない事を教えてくれて、ほっとした。
何処かの駅で降ろしてくれれば、電車で帰る、と彼は言った。
その場所から彼の家まで行くには、一度わたしの家のすぐ横を通り過ぎてしまうからだった。
けれどもわたしは、本当なら、わたしの家の傍のドライブインで別れる筈だったのが、かなり長く一緒に居られる様になったことが嬉しくて、彼を家まで送ることにした。
正直、助かるよ。
この礼は、いずれたっぷりと…な。
運転するわたしの肩に、彼が手を置いて、髪をまさぐる。
肩や背中を撫でられ、わたしの背筋にぞくぞくと快感が走る…。
ちょっと…運転中は、駄目…。
あ。
この間○○(私の犬の名)が居た時、
ずっとこうやって撫でてたもんで、つい。
○○か。わたしは犬と同じかっ!
同じだ。
当たり前のように答えられた。