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彼と犬

2008/04/26(土) 19:45:40
待ち合わせ場所に到着した。
わたしは車外に出て、彼を待つ。
彼がやって来た。
わたしは、走りよって抱き付きたい衝動を抑えた。

  バカだな。
  俺の予定も確認せずに…。


開口一番、彼が言う。

  だって…逢いたかったんだもん…。

  こいつがお前の犬か。
  でかいな。
  はは、こっち見てる。


  車、どうしよう?
  ここに停めておくのはマズいよね?


  ああ、停められる場所がある。
  移動した方がいい。


そう言って彼は、助手席のドアを開けた。
そこには、犬が居座っている。

  ほらどけ。
  そこは俺の席だぞ。


彼の口調は、至って冷静だ。
犬は、ちょっと思案して、素直に助手席を彼に明け渡し、後ろに移動した。

よく、犬を見ると、声が1オクターブ高くなったり、真っ先に犬を構おうとしたりする人がいる。
飼い主から見ると、犬が好きなのだとよく解る態度ではあるが、犬にとってはあまりよろしくない。
自分に関心を持たれた事を察した犬が、必要以上にはしゃいで興奮し、手がつけられなくなる事があるからだ。
その点、彼の態度は、犬にとって非常に良かった。
犬が居る事に過剰に反応しないばかりか、犬の居場所を当たり前の様に奪う事で、犬に対する自分の優位性を示したのだ。
助手席に座った彼を、後ろから首を突き出して、遠慮がちに匂っている。

  ○○(犬の名)、この匂い、知ってるでしょ?
  ママからよく匂ってるでしょ?


  ○○って言うのか。
  おい、○○。


犬は、声を掛けた彼を見上げ、尻尾を元気に振って笑顔になる。
その友好的な様子を見て、わたしも安心する。

  あ、そこ。
  そこに停めろ。


  はい。

車を停めて、犬を降ろす。
散歩が出来ると悟った犬は、はしゃぎながら公園に入っていった。
彼が手を出したので、リードを手渡した。

  ん?
  これ、どういう仕組みだ?


伸縮性のリードの使い方を、彼に説明する。

このリードを着けられた犬は、ある程度自由に行動していい事を知っている。
どのくらいの距離、わたしから離れて良いかを把握しているし、いつも人気のない田舎道を散歩するわたしが、それほど厳しく犬を制御しない事も、知っている。
さっさと自分の行きたいところに向かおうとする。
そこで彼が、リードをロックした。
予想外の処で動きを封じられた犬は、後ろを振り返って彼がリードを持っている事に気付き、彼を窺う目つきになった。
行きたい場所に向かう前に、後ろをそっと振り返り、行っても良さそうかどうか、確認し始めた。
振り返る犬に、わたしが声を掛ける。

  ○ちゃん、真っ直ぐ。

  ○ちゃん、そっち違う、右に行って。
  そう、そっち。
  いいコね。


そうやってひとしきり公園の中を散歩した後、わたしたちはベンチに座った。
犬も、わたしたちの傍で地面に座る。

  ○ちゃん。

わたしの真似をした彼が、犬を愛称で呼ぶ。
犬は、彼を上目で見上げた。
その態度には、誰だかは判らないけれど、この人の言う事は聞かないといけないらしい、と言う、少し卑屈な様子が見受けられた。
今まで、わたしの友人たちと接してきた時とは、明らかに違う。
やたらはしゃいで、やんちゃしようとする様子は、全く見せない。
飼い主のわたしよりも優位に立つ人物である事を、犬は、短い時間ですっかり把握したのだ。
わたしと居る時よりも数段行儀のいい犬を見て、わたしは驚いていた。

彼は、本物の牝犬も、あっと言う間に手懐けてしまった。