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瞳の色

2008/07/03(木) 23:55:45
ホテルに入り、先ずはシャワーを浴びた。
彼は、わたしに逢う前に入浴を済ませていたので、ソファで寛ぎながら待っていた。

備え付けのローブを羽織って浴室を出、彼の足の間に座る。
膝立ちになって、抱き付いた。
彼の腕もわたしの背中に回り、強く抱き寄せられる。
彼の口から、深い吐息が流れた。

  やっぱりホテルが一番落ち着くな。
  何でかな…?


官能の滲み出た低い声で、彼が囁く。

  二人きりで…
  人目を憚らずに済むからじゃない…?


わたしの囁きも、甘く湿った掠れ声だった。

  そうか…。

彼の掌が、わたしの背中をゆっくりと撫で回す。
二人の呼吸が、大きく、深くなってゆく。
呼気に色が着いていたなら、わたしの吐息は桃色に、彼の吐息は初夏の緑色に染まっていくのが見えた事だろう。
混ざり合って、溶け合って、確かな生命力へと変化してゆく…。

ぴちゃ、ぴちゃ、と、微かな音を立てながら、口づけを繰り返す。
互いの瞳に浮かぶものを確認しながら、唇を重ね、舌を絡み合わせては離し、見つめ合ってまた唇を重ねる。
以前の彼は、口づけの時にこんな瞳をしていただろうか。
もっと感情の窺い知れぬ…酷薄な光を放っていた様な気がする。


少し前に、一緒に食事をしていた時の会話を思い出した。

  しかしお前、本当に変わったな。
  初めて会った頃は、凍えた目つきだったが、
  最近は、力を感じる様になった。


  Tさんだって…変わったよ。

  俺が?
  どういう風に?


  最近、Tさんの表情、柔らかくなった。

  そりゃあ…最初の頃は、
  やっぱり緊張していたからな。


出逢って、半年。
お互い、警戒心めいた緊張感は、感じなくなったという事か。

それにしても…。
この瞳の色は、性処理玩具をみやる目つきではない。
己の欲望のままに、暴虐の限りを尽くそうとしている目つきではない…。
そう、感じる。

柔らかく穏やかな表情。
暖かさの溢れる視線。
彼は、何も言わない。
けれどもその瞳を見ていれば、彼が今この瞬間、わたしの事だけを見つめ、惜しみなく与え、わたしの感じる悦び全てを共有しようとしている事が、解った…。