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瓦解

2009/12/19(土) 01:31:54
その時から、夜毎メッセンジャーで会話する日々が始まった。

同じパーティで知り合った人たちと会話する傍ら、Sが私に個人的なメッセージを飛ばして来る。
わたしが、自身の被虐嗜好を意識した、最初の会話も、そんな中で交わされた。

わたしにとって、このパーティメンバーとの会話は、正直なところ、そんなに楽しいものでは無かった。
共通の話題はゲームの話しか無く、それが尽きれば、大人数が好き勝手な事を発言する、単なるじゃれ合いになる。
現実世界においても、大勢でわいわいと過ごすのがあまり好きではないわたしにとって、そうなった時間は、その殆どが苦痛なものでしかなかった。
どうせ会話するのなら、脊髄反射の応酬の様な冗談の飛ばし合いではなく、もっとゆっくり何かについて話す事の方を、わたしは好んだ。
だから、只賑やかなだけの状態になると、わたしは遠慮なく会話から退席してしまう。

  あっちはもういい。疲れた。

そう言って、Sとの会話だけを続行する。

  何だお前、付き合い悪いな。

  うーん…
  ああいうノリには、着いていけない。


  相変わらず真面目な奴だな。
  こういう軽い会話を楽しめる様にならにゃw


Sは、近々催されるこのゲームのオフ会に、わたしを誘い出そうとしていた。

  この地区の連中も、みんなこいつらみたいな
  気楽に付き合える奴らだから、お前も来い。


夫からの離婚を言い出されて以降、病院に行く時以外で日のあるうちに外出する事など、絶えて久しいわたしには、到底応じられる話ではなかった。

  それは無理だな…。
  遠慮しておく。


  なんで?何が問題だ?
  楽しいぜ。


  仕事が、忙しいと思う。

  自営で、割と時間の自由が
  利くって言ってたじゃん。
  1日くらい、どうにか出来るだろ。


ゲーム内で申告していた偽りのプロフィールだった。
問い詰められて、オフ会参加を断る理由を出せなくなったわたしは、ついにSに打ち明けた。

  実は…働いてるってのは、嘘。
  ちょっと体調を崩して、今は無職なんだ。


  え。どこが悪いんだ?

  ちょっと、精神的に、ね。

ここで、馬鹿正直に答えたわたしは、きっと、誰かに自分の事を話してしまいたかったのだと思う。
誰かに、聞いて欲しかったのだと思う。

  ウツか。

  ん、まあそれもなんだけど、
  直接的には、注意欠陥障害ってヤツでね。
  知ってる?


  ああ。それ、俺も。

意外な返事が、あった。

  えっ?

  集中力がコントロール出来なくて、
  片付けられないってヤツだろ。
  俺もそうだよ。


  ええーっほんとに!?

  マジマジ。
  これ、中々周囲に理解されなくて、
  ツラいよなあwww
  ま、俺はウツにはかからずに
  上手く折り合ってるけどさw


わたしが、この言葉をあっさり信じたのは、彼のゲーム中や会話中の態度で、思い当たるふしが見受けられたからだった。
そうであるなら説明がつく…と思ったのだ。

初めて、わたしの辛さを理解してくれる人に会えた…。
そう思った途端、わたしは、パソコンの前で、溢れる涙を止める事が出来なくなった。

  そうなの…。
  なかなか理解して貰えない。
  だもんで夫に離婚言い渡されちゃってさ。
  ショックで引き篭もりになってるのw


  あらー、そうだったんか…
  まあ俺も別居中なんだけどなw


他人の前では、この人何だかおかしい…と思われたくない。
精一杯取り繕って、何ともない顔を、していたい。
でも、それではあまりにも辛い。
誰かに理解して欲しい。
でも、誰も理解出来る訳がない…。

そういうわたしの中の終着点の無い感情を、やっとの思いで堰き止めていたものが、一気に瓦解した瞬間だった。
この時わたしは、Sの前で完全に、自分を曝け出してしまったのだった…。