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すれ違う

2009/12/26(土) 02:35:10
Sと、もう一人のゲーム仲間とのミニオフ会の日。

現地の駐車場で待ち合わせる事になっていたが、Sは、寝坊したという理由で遅刻してきた。
Sは、もう一人を宿泊先からピックアップした後、わたしと合流する事になっていた。
そこは、わたしの家からも車で2時間ちょっとかかる様な場所だったから、わたしは、現地で独り、3時間程の待ちぼうけを食らった事になる。
けれどもその日は、初対面のゲーム仲間が、とても気さくな女の子だったので、合流した後は楽しい時間を過ごす事が出来た。
後日、彼女のSNSの日記で、わたしの事を「ゆったり話す、もの静かで落ち着いた人だった」と評価しているのを見て、初対面の人に、奇異な感じを与えずに済んだ様子に、安堵した。

  だから言っただろ。
  お前は、第一印象でいきなり
  嫌われる様な奴じゃないってさw


  うん…安心した…。

  ゲームの中でも、
  お前と同じパーティに入ったことのある奴で、
  お前を悪く言う奴はいないぜ。
  それどころか、慕われてるじゃん。
  自信持てって。


  うん…いいのかな…自信持って…。


また、Sからの突撃を受けた際に約束した、近所の人が庭木の剪定をしに来てくれる日には、わたしが庭に出て作業の様子を見ていると、隣近所の人も出て来て、声を掛けてきた。
皆、家にひきこもって姿を見せないわたしの事を、とても心配していた事を、知った。
それだけではなく、結果的に、この時の近所の人との会話から、わたしの次の就職先までも決まったのだ。
わたしの周囲で淀んでいたものが、Sの突然の来訪を機に、一挙に動き始めた印象が、あった。

  これも、Sさんのお陰だよ。
  あの時、外に出なければ、こうならなかったもん。


  やー、大した事はしてないっすよw


その一方で、Sとのメッセでの会話に、わたしは、不満の様なものを感じ始めていた。

共通の話題は、ゲームか、ゲームプレイヤー同士の恋愛沙汰話。
わたしは読書好きで、Sも好きだというから、面白かった小説などの会話をしようと考える。

  ○○(作家名)のなんか好きで、
  片っ端から読んでる最中。


  あー、俺も好き。

  ○○(小説名)が特に好きかな。

  あー、あれは良かったよな。
  俺も好きだ。


  あ、やっぱそう思う?
  どのシーンが好き?


  もう忘れたw

  え…?

とか

  ○○(作家名)はお勧めだぞ。

  あー、○○(小説名)しか読んでないな。

  えー、○○(作家名)なら○○(小説名)
  読まなきゃ駄目だろー!


  そうなの?
  じゃ、今度探してみる。
  どんな話?
  触りを教えて。


  忘れたw

  え…?

とかいう状態になり、会話にならない。
もしかして、わたしと会話するのは嫌なのだろうか…とも思って、Sがサインインしても、こちらから話しかけるのを遠慮していると、どうしたんだ、と、声を掛けてくる。
離婚の話、あれから旦那と話し合ったか?などとも訊かれる。
どういう話になったかを説明していると、Sからのレスポンスが途絶えるか、「へー」とか「ほー」とか「www」とか言う相槌だけになったりする。
あれ…?と思っていると

  やー、何かあっちこっちから
  話し掛けられて、大変www
  今、会話ウィンドウ5個開いてるwww


などと言われる。
離婚の話は、腰を据えて聞いて欲しいと思うから、わたしは、じゃあそっちを優先して、落ち着いて話せる様になったら呼んで、と、Sとの会話を放置して、他の事を始める。

  まだ居るか?

  …あ、うん。
  話してもいいの?


  ああ。
  話せば楽になるだろ。
  俺には、聞いてやるしか出来んけど。


  …楽になるって言うか…
  話しているうちに、
  私の気持ちが整理されて、
  本心が見えて来る感じがする。


  ん、話しな。

そこで、話し始めると、またレスポンスが悪くなる。

  どうかしたの?
  大丈夫?


と訊くと、

  ごめw眠いwww

と返ってくる。
それじゃあまたの機会に…と、会話を終える…。

こんなすれ違いばかりが、続いていた。

それでもわたしが、Sとの接触を絶とうとしなかったのは、いつかセックスしたいとだけ考えていた訳では無い。

Sは、わたしの元夫と同い年だった。
しかも、会社を経営していた事がある、とも言っていた。
その会社は、将来性に影が差した時に、すぐに閉めたという話だった。
当時、元夫がわたしに申告していた離婚の理由は、会社の経営が上手くいかず、巨額の借金を背負う事になりそうだから、わたしに迷惑をかけない為に別れてほしい…というものだった。
わたしは、そんな理由では別れられない、借金は一緒に働いて返せばいい、と、突っぱねていた段階だった。
だから、わたしがSに相談する時は、ただ共感して欲しかった訳では無い。
話せば楽になる…という類の状態では無い。
似た経験をした男性の立場から、意見を聞きたいという気持ちが、大きかったのだ。

メッセンジャーでは、そんな機会には恵まれないに違いない。
そう判断した私は、Sに、直接会って話を聞いて欲しいと申し入れた。
結果、わたしとSの家の、中間地点にある街の駅で、Sの仕事が終わった後に落ち合い、一緒に夕食をとろうという事になった。

  いつか、お前を抱きたいと思う。

Sの言葉が、脳裏を過ぎる。
そのいつかは、もしかしたら、今夜かも知れない…。

夫の事を相談するというのに、こんな事を考えるわたしは、何とふしだらなのだろう。
そう思いながらも、何故か出掛ける直前に入浴する。
そんな自分を嘲笑しながら、身支度を整えて、待ち合わせの駅に向かって、車を走らせた。




車中再び

2009/12/26(土) 05:57:15
待ち合わせ場所の駅に着いた。
ここは、駅舎が大きなショッピングセンターに直結しており、併設されている映画館には、わたしも何度か来た事があった。
人の多い場所を忌避し続けていたわたしだったが、この時は、土地勘のある場所というのが、出掛けてくるのに躊躇しない理由となった。
無事にSと落ち合えた後、レストラン街で適当な店に入って、食事をする。
雑談に終始し、本題には入らなかった様な気がする。
食後にコーヒーでも…と思ったら、そのお店には、コーヒーが無かった。
コーヒーを飲める店に移動しよう、と、席を立つ。
会計伝票を、Sが素早く手にした。

  今日はわたしが誘ったんだから、
  わたしに払わせて…?


  いやー。駄目ーw

  そんな…それじゃせめて、割り勘にして…?

  駄目ー。
  いーじゃん、甘えとけってw


  んー…それじゃ、次のコーヒーは、
  わたしに払わせて。


  しょーがねえなぁw
  そんなに奢られんの嫌いかw


  そうじゃなくて…
  誘った方が出すのが当然と考えてるだけ。


  お前、ほんと、真面目だなw
  だから、色々煮詰まるんだぜ。
  もっと軽ぅーく考えろよ。


そんな問答をしながら、喫茶店に場所を移す。
けれど、そこもあまり落ち着ける雰囲気ではなく、本題を切り出す事は出来なかった。

結局、話し始めたのは、近くまで送っていくからと、Sを乗せた車の中でだった。
しかし、初めて走る道を運転しつつ、頭の中を整理しながら喋るのは、シングルタスクなわたしには難しく、話は途切れがちになる。
Sの案内で、車をひとけの無い路上に停める。

  ここなら、少しは落ち着けるだろ。
  話してみな。


  うん…ありがとう。それでね…

わたしは、本格的に話し始めた。
Sは、リクライニング・シートを倒して聞いている。
相槌が入るので、寝ているのではないと判る。
わたしも、シートを倒して少しリラックスし、話し続ける。

混濁していた頭の中が、整然としてくる。
元夫に対して蟠っていた感情が、輪郭を持ち始める。
わたしが、元夫に対して抱いていたのは、強烈な怒りの感情だった。

元夫の会社の経営が傾いた原因は、まだわたしが在籍していた頃に、このままではいけないと指摘していた箇所ばかりだった。
指摘する度に、「お前にはどうせ解らんのだから、黙って俺の言う事を聞いておけ」と言われ、悔しい思いをしていた。
そして、何よりも…。
元夫の経営していた会社は、そもそも、わたしが立ち上げた会社だった。
元夫も、ブレインとして参加してはいたけれども、それでも、わたしが創った、わたしの会社だと、わたしは考えていた。
わたしが創り、必死に育て、ようやく会社組織として軌道に乗り始めた時、代表取締役を元夫に明け渡したのは、わたしの意志ではあった。
代表者として人前に露出する事が増え、それはわたしにとって苦痛になっていたからだった。
元夫は、わたしの経営理念に、賛同してくれていると思っていた。
まさか「お前のやってたのは会社ごっこ。口を出すな。」と嘲笑され、全く違う経営方針の会社にされるとは、夢にも思わなかった。
その結果、どうだろう。
見事に会社が破綻しているではないか。
せめて、わたしが問題に気付いた時点で、なんらかの対策をしていてくれれば…と、悔しくて悔しくて、しょうがなかった。

その感情に気付いた時、わたしは、涙を流していた。

  悔しい…すっごい、悔しい…。

すすり泣くわたしに、Sが言う。

  そりゃ悔しいよなぁ、うん…。

この時、はっきり解った。
わたしの中には、借金を抱えながら元夫とやり直す気持ちなど、無かった。
夫婦なら、そうすべきだとは思う。
けれどもわたしは、夫として以前に、会社経営者として既に、元夫を軽蔑していた。
そんな気持ちを無視したまま、夫婦生活の維持など、最早到底不可能だ。

離婚を、受け入れよう。
そう、決意した。

その時、暗闇の中、Sの手が伸びて来た。
乳房を掴まれる。
わたしの呼吸が、嗚咽が、止まる。
Sの指が動いて、乳房を揉みしだく。
以前とは違い、その手には力が感じられた。
そうっと漏らしたわたしの溜め息は、Sの耳に官能的に響いたと思う。
Sは、わたしの着ていたカットソーを捲り上げ、その下に手を差し込んだ。
直後、「あ」と声を上げて、手を引っ込める。
おそらく、素肌が触れると思っていたのだろう。
しかしわたしは、下にキャミソールを着ていた。
予想に反した布の手触りに、意表を突かれたと同時に、理性も復活したのに違いない。
がたん、と音を立てて、助手席のシートが起き上がった。

  帰るわ。

  え…。

わたしも、シートを起こす。

  ここで、いいの?

  ああ、もう歩いてすぐだから。

  そう…あの…今日は、どうもありがと。

  いやいや。
  んじゃ、またな。
  気を付けて帰れよ。


Sは、素早く車を降りて、歩き出した。
わたしは、涙を拭いながら、後姿を眺める。
Sの背中から、その心情を、読み取ろうとする。
疲労している様にも、満足している様にも見えた。
Sの姿が完全に見えなくなるのを待たず、わたしは、車のエンジンを始動させた。





育ち始める

2009/12/26(土) 09:03:34
  この間は、仕事の後に、遅くまで
  どうもありがとうね。


メッセンジャーで、Sに話し掛ける。

  あー、いやいやw
  泣いたらすっきりしたんじゃね?


  んー…すっきりしたというか…
  自分の中に、こんな感情があったのかって
  気付く事が出来たし、今後の方針も決まった。


  そかそか、そんなら良かったw

あの時、去っていくSの背中に見えたのは…疲労と、満足感だったと思う。
それを確認してみようという気になる。

  Sさんてさ…据え膳状態のわたしを前に、
  誘惑に負けない俺って理性的!
  ストイック!…って、悦に入ってたり、しない?


  あー、そういう部分はあるねw

なるほど、それが、背中に滲んでいた満足感の正体か…と、わたしは納得する。

  …乳、また揉んだね…

  wwwww
  まー、あんま気にすんなw


  ひどいよなぁ。
  女にも性欲ある事、知らないの?


  ばーか。
  他の男の事で泣いてる女なんか抱けるか。


(そういう台詞は、指一本触れなかった時に吐けよ)という心の声を、無視する。
(わたしの話を聞きながら、あんたは、いつわたしの乳を揉むかって事しか考えてなかったのか?)という声も聞こえたが、これも、無視する。

この時のわたしは、おそらく吊り橋効果に嵌っていたのだと思う。
メッセでも、実際に会った時でも、わたしは極度の緊張状態にあった。
だから、その時目の前に居た異性に、恋愛感情を持ってしまった。
また、Sとの会話がきっかけでわたしは、自分の中で眠っていた、被虐嗜好を自覚する事にもなっている。
更に、Sは、わたしの障害の苦しさを、身を持って知っている。
わたしの最良の理解者になる筈だ…という妄信が、心の中で呟く声を、片っ端から掻き消していた。

Sのレスポンスが、悪くなる。

  ああ…また複数ウィンドウ?

  そうwww
  もー皆なんで俺と話したがるのwww


  それだけ頼りにされてるって事じゃない?

これは、おそらくSがそう言われたいんじゃないかと思って言った言葉だった。

  そんな出来た人間じゃないんだけどなwww

あ、正解だったかな…と、考える。

ゲーム仲間と賑やかにメッセで盛り上がっている最中、Sが、「しのぶは俺の奴隷だもんな」とか「ほほう、俺にそんな口利いていいのかな?(ニヤリ)」とか発言する事も、増えてきていた。
皆の前でのわたしは、女だというカミングアウトはしていたものの、折に触れてそれを疑問視される状態だった。
つまり、偽りのわたしを、演じ続けていた訳だ。
だから、こういう発言をされると、内心穏やかではない。
素早くSへの会話ウィンドウを立ち上げて、抗議する。

  ちょっと、やめてよ。
  思わせぶりな事言わないで。


  やーい、焦ってやんのwww
  本当のお前の姿を、皆にバラしてやりたいwww


  マジで、やめて。

  バラす訳ねーだろwww
  マジになるなってw
  こういう軽いやり取り、
  お前も身に着けんと、
  今後も辛いだけだぞw


わたしが不快感を表明すると、Sはそれを、わたしの真面目さの所為にする。
そして、自分の様に軽いノリにならないとウツは治らない、と諭す。
軽くいなせるのであれば、わたしは最初からウツになどならなかったのだ。
そう反論しても、「ま、俺との付き合いで、この軽ぅーいノリを覚えていきなw」と言われてお仕舞いだった。

そして、わたしが言いたかった事の本質は、そこでは無い。

皆の前で、俺だけが知っている事があるんだぞ、と仄めかさんばかりの言動を、やめて欲しかった。
他の人に、この人にはどうやら、あまり大っぴらに言えない事情があるらしいと、気付かれてしまうからだ。

白鳥が湖に浮かぶ姿は、とても優美に見えるが、水面下では必死で足を動かしているという。
わたしは、自分が白鳥だと認識されたら、水面下で足掻く足など絶対に見られたくはない、見られたら白鳥やめる…とまで考える人間なのだろう。

それを伝えたいと思っても、「まーた糞真面目に考え込んでやがるw」とあしらわれるのが落ちで、Sには結局理解して貰えなかった様である。

こういう事を繰り返す度に、Sにわたしの全てを曝け出したのは、大失敗だったのでは…という思いが、常に心の奥底で根を張る様になっていった。