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わたしの所為

2009/11/18(水) 03:53:38
元夫の残した地雷が、半分炸裂する。

わたしは今、家を失おうとしている。
次に住める家は、まだ見つからない。

揺れ動く生活の基盤。
これを上手く乗り切りつつ、仕事は続けるつもりだった。
なのに、わたしの精神力は、そこまで回復していなかった。
仕事に差し障りが出てしまうくらい、精神状態が悪化した。
その結果、契約期間は更新される事なく終了し、わたしは近々無職になる。

こんな事態に備えて、相談していた親戚は、

  僕は、100%、キミの味方なんだから、
  何も心配しなくていいから。
  何とかしてあげられるから。

と断言していたのに、いざその時が来たら、
相談に乗ってやる代わりに、わたしの母親と和解せよ、と
交換条件を出して来た。
現状、「和解=母親との同居」となる可能性が非常に高いため、
その条件は断るしかなかった。

八方塞がり…。

彼に、メールで泣き付く。

  俺に聞かれてもわからん。
  自分自身で解決するんだな。
  お前のこれまでの生き方が、
  この結果を呼んだんだ。
  責任持ってケリつけろ。


彼の返答は、そっけない。

この事態が、わたしの責任…?

元夫に言いくるめられて離婚後も連帯保証人を降りなかった事…
元夫の会社の借金と家のローンは、元夫の自己破産によって、
わたしが債務者となっている事…
家が競売にかけられる事…
このところ不安定だった精神状態を、更に乱される事態があった事…

これら全てが、わたしの責任…?

  家事もろくに出来ない様な、
  お前みたいな女は、ここまでされて当然なの。
  こうなったのは自業自得、全部お前の責任なの。
  後は自己破産するなり自殺するなり
  好きにやれば?
  ほな、さいなら。

そう言い棄てて、行方をくらませた元夫…。

これも全てが…わたしの責任だと…彼ですら、そう思うのだろうか…。

絶望する。

  ああ、はっきり言ってやる。
  こうなったのは、母親、元夫、病気、薬、
  腕の故障の所為じゃねえ。
  全てはお前が招いた事だ。
  お前は、いつも何かのせいにしている。


そんな事は無い…!
無いと思う…!

悪いのは、母親を憎むしか出来ない自分だと思い、
悪いのは、ここまで元夫に憎まれる自分だと思い、
病気になった自分、薬に頼らざるを得ない自分、
腕を故障する様な仕事の仕方をした自分…
自分ばかりを責めてきた…!

そう、思う。

  これは、お前が生まれ変わるチャンスだ。

  こうなったのは、お前が、自分に正直に
  生きてこなかった所為だろ?

  やりたくない事は、やらんでいいんだよ!


そうは言われても、わたしには、
どうすれば良いのかが解らない…。

自分に正直に生きる…というのが、
わたしには、解らない…。

  じゃ、やっぱりお前のせいじゃん。
  同情して欲しいんなら、他を当たんな。
  俺は、寝る。


メールが、途絶えた。

彼の前でだけは、自分に正直に振舞う事の出来るわたし。
彼の居ないところでも、自分に正直に…?
やりたくない事は、やらずに…?

わたしは
その方法を
考える………。







犬...(1)

2009/11/18(水) 17:35:58
次に引っ越す家を探すに当たり、何よりも障害となったのは、大型犬の存在だった。

周囲の人は皆、里子に出すべきだとアドバイスをくれる。当然だ。
けれども、わたしには、どうしてもその決心をする事が、出来ない。

前の仕事を辞めた後、生ける屍の様になっていたわたし。
犬と猫が居なければ、わたしはここを乗り越える事は、出来なかった。
あの時期、わたしに微笑を浮かべさせてくれていたのは、犬と、猫だった…。

猫も、犬も、もう年寄りだ。
最期は、わたしが看取ってやりたい。
その思いが、強い。
それがわたしの、義務だと思う。


そんなある日、犬の食欲が、激しく減退している事に、気付いた。
普段は、意地汚いといってもいいほど、食欲旺盛な犬だ。
絶対に、おかしい。
何かの病気に罹っている。

脳裏で、何かが、囁く。

  このまま、気付かないフリしていれば…
  このコは死んで、家は見つかるよ…
  猫だけなら、何とかなりそうじゃない…?

  もうそろそろ、突然死んでもおかしくない
  年齢なんだし。この犬もさ…

  犬より、自分のこと考えなくちゃ…

囁き声は、日毎に大きくなる。

  あの時わたしを助けてくれたのに
  あれだけわたしを励ましてくれてたのに
  見殺しにするんだ…?

  見殺しに、するんだ…?

  最低。
  最低。

わたしを非難する声も、聞こえる。

  でも…どうするの…?
  どうするのが一番いいの…?

葛藤の中で、それでも何にも気付いていないフリをして過ごしていたある日。
とうとう、目に見える症状が、出た。
病名に思い当たると同時に、すぐに手術しなければ、犬は間違いなく命を落とすと判った。

明らかに犬の死を望んでいたくせに、それがいよいよ現実味を帯びた途端、わたしは激しく狼狽した。
彼に、メールする。

  (犬の名)が、死にそうです。

  まじか。
  病院に連れて行かんのか。


  だって…次に住む家も見つからないし…
  それにこれ、絶対に手術になります。
  お金がどれだけ飛ぶ事か…


  どのくらいかかるんだ?

わたしは、それまで動物と暮らしてきた経験から、推測される金額を伝える。

  そんなにするのか…

ぐったりと横たわる犬の傍で、檻の中の白熊の様に、ウロウロする。
しゃがみこんで、犬を、そっと撫でる。

  (犬の名)…

低く、呼びかける。
犬は、頭を上げて、カラカラに乾いた鼻をわたしに押し付け、力なく掌を舐める。
どうすればいい?
わたしはどうするべきなのだ?

決まっているだろう…?

心の進路が、一方向に収束し始めた時、彼から、メールが入る。

  病院に連れて行くだけでも、駄目か?
  獣医に事情を正直に説明するってのは?
  後で後悔しない方法を、考えるべきじゃないか?


まさに…わたしが出そうとしていた結論そのものだった。
行動に起こそうとしていたわたしの背を、トンと前に突き飛ばす言葉だった。

  行って、相談してみます。

わたしは勢いよく立ち上がり、動物病院に行く支度をし始めた。






犬...(2)

2009/11/18(水) 22:02:37
動物病院では案の定、わたしが察知した通りの病名を、告げられた。
わたしも、自分の事情を、簡潔に説明する。
そして、手術費用などを、分割払いにして貰えないかとお願いした。

  そういう事だったんだ…。
  ここ数年、しのぶさんを見てて、
  どうも様子がヘンだなと思ってた。
  挙句に全然来なくなったから、
  とても心配してたんだよ。

よく考えれば、この病院とも、もう20年近い付き合いなのだった。

病院から出された提案は、費用を安く抑える代わりに、一括で支払う事。
その代わり、治療等は必要最小限になってしまうから、あとは犬自身の体力に賭ける形になる…と、言う事だった。
金額を聞けば、それが破格の待遇なのは理解できた。
他の患者さんには、口が裂けても言えないほど優遇された金額だった。
涙を堪えながら、「ありがとうございます。お願いします」と頭を下げた。

彼に、状況を報告する。

  よかったじゃないか。
  あとは、(犬の名)の生命力を
  信じるだけだな。


  はい…
  Tさんが、わたしの決断を
  絶妙のタイミングで
  促して下さいました。
  ありがとうございました。
  (犬の名)は、先天的に心臓が悪いので、
  全身麻酔そのものから危険なんですが、
  あとわたしに出来るのは、祈る事だけです…


  ま、大丈夫なんじゃねえの?
  そんなニオイがするぜ。


彼の、こういう言い方は、決してその場限りの気休めではない。
不思議な程に、勘が働く様なのだ。
そして今のところ、彼が感じた「ニオイ」は、外れた事が無い。
だからわたしは、少し安心する事が、出来た。


翌日の手術そのものは、無事に終わった。
手術室から入院室に移された犬の濡れた体を、タオルとドライヤーを使って乾かす。
そうしながら、犬の名を何度も何度も呼びかける。
ここでこのまま目覚めない可能性も高かったから、必死だった。

犬は、意識を取り戻した。
そして、10年一緒に暮らしてきて、今まで一度も聞いた事がない悲痛な鳴き声を、上げた。
痛いのだ。
涙が、溢れる。

  ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。

何度も何度も謝りながら、撫で続けた。

  血糖値を上げなきゃならないから、
  大好物を食べさせてあげて。
  欲しがるだけあげていい。

獣医さんに言われる。
用意してきたバナナの皮を剥き、いつもの大きさに折って口に運ぶ。
犬は、バナナを口に含むが、すぐにコロリと出してしまう。

  先生…食べません…。

  大き過ぎ。
  もっともっと小さくしてあげて。

咀嚼する体力すら無いのだ、と気付いて、愕然とする。
親指の爪くらいの大きさに千切って、口に入れてやると、犬はそれを、ようやくという感じで、飲み込んだ。
時間をかけゆっくりとではあるが、犬はバナナを食べ切り、嘔吐もしなかった。
彼に、無事に手術が終わり、意識も取り戻して、落ち着いた事を報告する。

  そうか!
  よかった。


彼もとても気にしていた事が、普段にはない返信の早さに表れていた。

犬を入院させ、帰途に着く。
涙が、再び溢れて来た。
わたしは、生き物の、生き延びようとする本能の凄まじさに、圧倒されていた。