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統合

2008/12/29(月) 17:15:27
彼のペニスが、わたしの中に突き入れられる。
そこは、既に充分に潤い、彼をするりと受け入れた。
深く深く侵入されて、わたしの口から歓喜が零れる。
背中が反り返り、早くもピクピクと痙攣し始める。
そんなわたしを押さえ込み、力強い抽送が始まった。

真上から降り注ぐのは、感情の窺い知れない、鉱物的な光を湛えた瞳。
その冷たさが、わたしの官能に油を注ぎ、わたしは、より一層燃え上がる快楽に身を焦がす。
突かれながらも、唇が欲しくなる。
すると、それを読んだかの様に、彼がわたしに唇を重ねる。
舌を絡ませ合い、啄ばみ合い、互いの唾液に塗れた唇を離す。

彼が上体を起こし、Tシャツを脱いで、かなぐり捨てた。
かすかに汗ばんだ身体を、再びわたしの上に重ねる。
彼の、年齢を感じさせないすべすべとした肌に、わたしは両の掌を滑らせる。
滑らせた掌は、お尻で止まる。
もっと、強く…
もっと、深く…
求めるわたしの腰が、彼の抽送に合わせて突き上げられる。

わたしの身体の形を、彼が変える。
その度に、新しい快楽の波がわたしをさらっていく。

ふと、わたしの中で誰かが囁いた。
今、ここで、彼がわたしに鞭を使ったら…?
蝋燭の蝋が、乳房に垂らされたら…?
首を絞められて、窒息しかかったら…?
それは、どんな感じだろう?
苦痛?
快楽?
…きっと、両方。
欲しい…
今まで味わった事のない感覚が、欲しい…

冷たい声が、答える。
一体どこまで欲が深いの?
この上まだ、淫らで異常な刺激が欲しいというの?

顔に、ぽたぽたと彼の汗が落ちてきた。
拡散し、様々な声を響かせていたわたしの意識が、ふっと焦点を結ぶ。
彼の瞳は、相変わらず黒曜石の光を放っている。
唇の上に落ちた汗を、舌を出して舐め取る。

欲しい…もっと欲しい。
淫らだろうが、異常だろうが、誰に遠慮する必要があるのか。
誰に迷惑をかけるというのか。
彼は、わたしを、否定しない。
わたしの欲望を、受け入れてくれる。
自分の欲望を、わたしに叩き込んでくれる。
彼が、居れば…。

彼が体勢を変える。
今までとは違った刺激、違った快楽に、わたしは悲鳴を上げる。
気持ち、いい…!
身悶え、頭を左右に振りたくる。
手が、彼の身体の上を、ベッドのシーツの上を、滅茶苦茶に暴れまわる。

その時、とても不思議な感覚が、わたしを襲った。
わたしの意識の中で、ぼそぼそと囁いていたたくさんの声が、一斉に唱和するかの様に、ひとつの言葉を叫び始める。
気持ちいい…!
気持ち…いい…っ!
ピシッ…という音が、した。
それは、生まれて初めて聞く音だった。
物心ついてから、常に感じていた、ブレている自分…。
写りの悪いブラウン管テレビの、ゴーストの様だった自分…。
このゴーストが、あるべきところにぴったりと、音を立てて嵌った…。
そんな感覚だった。
やっと、わたしの意志が、ひとつに統合された…。
彼のもたらす、全ての快楽を味わい尽くしたい、という意思に。
生きている。
わたしは、こんなにも悦びながら、生きている。
涙が、溢れそうに、なった。




もう一人

2008/12/29(月) 21:47:42
低く呻き声を上げた彼が、ぐったりとわたしの上に覆い被さった。
わたしは、その背中を精一杯の力で、抱き締める。
荒い呼吸を整えながら、まだ凶暴な硬さを保ったままのペニスを、わたしの中から抜いてしまう。

  一発目から飛ばし過ぎだな。

彼が、苦笑交じりに呟く。
手を伸ばしてタオルを取り、互いの汗を拭き合う。

わたしは、さっき脳裏を過ぎった願望を、口にしてみた。

  ねえ…突かれてる時に、
  鞭とか蝋燭とか、欲しいな…。


  突いてる時にか。

彼は、ちょっと困惑した。

  突いてる時は、そっちに集中してえんだよな。

  …そっか。

何となく、予想出来た返答だった。
彼は、何かひとつの事をする時、それに全精力を注ぎ込みたいというタイプで、だから、行為をしながら撮影する…というような事すら、気が散ると言ってやりたがらない。

  それやろうと思ったら、もう一人要るな。

  え?

彼が、至極当たり前の事の様に言う。

  誰かにお前を突かせて、俺が鞭とかを使う。
  …いいなぁ、それ。
  別の男にやられて悶えてるお前も見たいしな。


ニヤリと、邪な笑みを浮かべる。

  お前、誰かそういう男、見付けて来いよ。

  わたしが他の男とやっても、平気?

  おう。
  寧ろ、やれと言いたい。
  そんなもん見せられたら、
  俺のチンポはきっとギンギンだぞ。


彼は、とても嬉しそうに言った。
わたしも、そんなわたしを彼がどんな表情で観てくれるのか、見てみたいと思う。

  でも、探せって言っても、
  どこで探せばいいのかな。
  …ハプ・バーとか?


  ああ、あれも一回行ってみてえんだけどな。

  Tさん、お酒飲めない癖に。

わたしは、かつては酒豪と呼ばれた事もあるが、彼は話を聞く限り、下戸と言ってもいい程、お酒には弱い様だった。
そのわたしも、元夫と別居し、睡眠薬を処方される様になって以来、晩酌の習慣は絶えて久しい。

  それより切実なのはだな…。

  お金が、無い。

  そこだ。

仰向けになった彼が、呟く様に言う。

  世の中広しと言えども、
  金が無いからSM出来ねえSMカップルなんて、
  俺らくらいのもんじゃねえ?


  ほんと、そうかもね。
  他の人のブログとか見てると、
  いろいろやってるけど、あれって結局
  お金あるから出来るんだなぁって思うもん。


  だよな。

暫しの沈黙の後、彼が、ぼそりと言った。

  お前も、金持ちのサディスト、探すか?

  嫌。

思ったよりも、強い言い方に、なってしまった。

  わたしは、Tさんに責められたいの。
  Tさんと一緒に、愉しみたいの。


それにわたしは、経済的に恵まれた生活も経験がある。
思えば、その生活を維持する為に、わたしはどれだけ、自分を殺し続けていた事だろう。
そして、その経済力を失った時、相手にはそれしか魅力が無かったと気付いた時の、何とも表現し難い空虚感。
更には、そんなものを相手の魅力に数え上げていた、自分に対する嫌悪感…。

それからすると、経済力には全く関係なく、精神的肉体的にわたしを満たしてくれる彼の存在は、どれほど大事である事か。
打算なく、純粋に彼だけを求める事が出来る今を、わたしがどれほど幸せに感じている事か。

  まあ、もう一人って話は、
  その内機会があればって事にしておこう。


  ああ。
  よし、風呂。


彼が勢いよく起き上がり、ベッドから降りた。

わたしは心の中で、先の言葉に補足を入れる。

  それに、この先、まだ叶えたい欲望があるって事は、
  それだけ日々の生活に対するモチベーションも
  上がるってものだし…ね。
  目標があるって、楽しいじゃないの。


そして、こんな考え方を教えてくれたのは、他ならぬ彼である事に気付いて、微笑んだ。