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犬...(3)

2009/11/19(木) 01:57:54
他のところはどうか知らないが、わたしが通う動物病院では、患畜が点滴を受ける間は、飼い主がずっと傍に着いていなければならない。
動いて、針が抜けたり機械を倒したりしない様、見ているのだ。

犬の手術のしばらく後、彼と、会う約束があった。
犬は毎日、点滴と、心電図検査、血液検査を受けていたから、その日もわたしは、動物病院に行かなくてはならなかった。

  じゃ、俺も行く。

彼は、あっさりそう言った。

  え…だって、全部終わるのに
  2~3時間はかかりますよ?
  じーっと待ってないといけないですよ?


  構わん。
  (犬の名)を見舞ってやろう。


わたしにとっては、彼に会える上に犬の面倒も見られるのだから、とても嬉しい言葉だった。

  なんだこれ!
  すっげー馬鹿っぽいなぁ。


犬を見るなり、彼が言った。
手術の為、綺麗に剃毛された腹部と前足の状態が、とても間が抜けて見えたらしかった。
病院で待たされて、退屈のあまり不機嫌になったらどうしよう…という私の心配も、杞憂に終わった。
彼は終始機嫌が良く、楽しそうだった。


犬の回復は、とても順調だった。
動物病院のスタッフも驚く生命力を、見せてくれた。
心電図だけが、頻繁な不整脈を示していたけれども、これは先天性のものだから、ある程度以上には治りようが無い。

犬の回復を見守るわたしの中から、「この犬さえ居なければ…」という思考は、完全に、消え去った。
今後の生活がどうなるにしろ、最期の瞬間まで一緒にいよう…という決意を、固めたのだった。

元夫は、離婚の際に、言っていた。

  妻ならば、夫が引っ越すと言ったら
  犬を保健所に持って行ってでも
  着いてくるべきだったのに、
  お前と来たら、なんだ。

この時には、心底、ゾッとした。
元夫が突然、見知らぬ人に、変化した。
どちらかと言えば猫派なわたしに、自分は犬の方が好きだと言い続け、幼い頃に飼っていた犬が、どれだけ賢かったかを自慢していた人の口から出た言葉だとは、到底思えなかった。
この時にわたしは、この人と夫婦でいるのは、もう無理、嫌だ…と決意したのではなかっただろうか。

そう…わたしはあの時、夫と暮らす事よりも、犬や猫と暮らす事の方を、選択したのだ。
その結果が今の状態ならば、わたしは、自分の選択に責任を持たなくてはならない。
たとえこの選択が、一般的な常識からは、かけ離れたものだとしても。


この日の別れ際、彼に、封筒を渡された。
中には、現金が入っていた。
戸惑うわたしに、彼が言う。

  (犬の名)の手術代の足しにしな。

  えっ…
  で…でも…


「わぁありがとう」と受け取れる額ではなかった。

  だ…だって…
  どうしたのこのお金?


  バイトした。

  え…?

  ちょうど臨時のバイトがあったんでな。

  え…いつ?

わたしが、術後の犬の世話で、狂奔している最中だった。

  ええーっ!

いかに破格の優遇だったとは言え、それでも、この先やりくりどうしよう…と、胃痛を感じるだけの金額は、簡単に吹っ飛んでいた。

  い…いいの…?

  ああ。
  こいつの為に、やったんだしな。


思わず、彼に、しがみつく。

  ありがと…ホントに、ありがと…

  おう。
  それから、おい、(犬の名)!


彼は、犬に向かって、びしっと人差し指を突きつけた。
犬が、きょとん、と彼を見上げる。

  てめぇ、今度会う時までに、
  その腕の毛、生やしとけよ!
  わかったな!?


  ちょ…そんな無茶な!

久しぶりに、心から愉快で笑い転げてしまった。
けれどもわたしの視界は、涙で微かに滲んでいた。





コメント

おひさしぶりです。

色々大変なことがあったようですね。
しのぶさんにとって、彼の存在の大きさを
このブログを読むたびに感じます。

自分のことを理解してくれる人が少なくても、
離れていく人が多くても、
彼の存在があれば、これから先どんなことがあっても
乗り越えて行く強さを持てるんじゃないでしょうか。

広く浅く、薄っぺらな関係をたくさん持つよりも、
たった一人でも自分のことを受け入れて
叱ってくれる人がいることのほうが大事に思います。

色んなことがあっても、マイペースで生きてください。
肩の力を抜いて、しのぶさんらしく。

また遊びに来ます^^

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まゆさんへ

お久しぶりです。

そうですね…
わたしを理解しているのに
甘やかそうとはせず、
叱る人…なんですね…
叱られると、ハッとします。
なのに、同じ事を繰り返してばかりのわたし…
進歩がなくて…
少しでも進んでいければ良いのですけれど…

ぜひ、またいらしてくださいませ。
その時には、もう少し、読んで下さってる皆さんに
幸せな気持ちになっていただける様な状態に
なっていたいと思います。

鍵コメさんへ

もちろん、わたしはそのつもりでおります(笑)

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