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家......(3)

2008/07/19(土) 16:17:35
散らかり果てた家の中で、ひたすら眠り続けた。
時々、以前から参加していたネットゲームに参戦して、現実を忘れ、ゲームの世界に没頭する。
ゲームが終わると、再び眠り続ける。


たまに、夫から携帯にメールが入る。

『いつまで遊んでいるつもりですか。
 そろそろ次の仕事を見つけて、
 自立してくれませんか。
 それまで離婚は待ってあげますから』

夫は、わたしが完全に壊れてしまったのが、判っていないのだろうか…?
それとも、そんな事はどうでも良く、ともかくわたしと縁を切る事しか考えていないのだろうか…?

数ヶ月ぶりに夫から電話があった時、わたしは、声を出そうとしても出ない事に気が付いた。
無理に出そうとすると、悲鳴の様な絶叫が迸りそうになる。
そんな声を出してしまったら、自分が益々取り返しのつかない事になりそうだった。
必死で絶叫を飲み込むと、声も出ない。

『いい加減にしてくれ』

無言のわたしに、夫はうんざりした声で言うと、電話を切った。

メールで夫に、声が出せないと知らせたが、夫からは『早く治して自立しろ』と返事が来ただけだった。


随分長い間、わたしの本能の奥底で呪詛の様に呟かれていた言葉が、日に日に大きくなっていく。
その為に一番、確実な方法は…?
全てが終わった後、誰にも迷惑をかけない方法は…?
ネットで情報を探し求め…結果、誰一人として迷惑をかけない、などという方法は、無い事を知る。
けれども、もうこれ以上、存在しているのは嫌だ…。

家の中のものが、次々に壊れ始めた。
お風呂が。
トイレが。
電化製品が…。
けれどもわたしは、壊れたそれらを眺めているだけだった。
修理しようという意思も、何とかしなければという意思も、湧いて来なかった。

こんな状態の中、今にして思えば幸いだった事は、食事は最低限、摂っていた事だろう。
時々参加していたネットゲームでの思考力を確保する為、参戦している間は、コンビニで調達してきた食料を口にしていたのだ。
もしもこの時、ゲームに参加していなかったら、わたしは食事すら摂らなくなっていたに違いない。
実際、参戦していない時は、食べていなかったのだから。

また、コンビニに行くことで、声が完全に出ない訳ではない事にも気付いた。
『いいえ』『○番ワンカートン』
このふた言だけだったが、店員相手に喋る事は出来ていたのだ。


自分の存在を、消したい。
でも出来ない。
誰かに必ず迷惑をかけてしまうから。
でも、もう存在していたくない…。


そんな思考の堂々巡りの中、死体サイトやグロ動画サイトを巡り、そうなった自分を想像する。
自己の存在さえ消せてしまえば、後の自分がどうなろうが、知った事ではない。
むしろ、静かに腐敗していく死体を、タイムラプスビデオで撮った動画には、とても魅了された。
何をやらせても駄目な子で、夫からも見放される様なわたしは、こうして虫たちの栄養源になった方がずっと有意義だ、と…。
腐っていくのだ。
この家と共に。

それは、とても甘美な結末に思えた。

その一方で…近所の人の事を、思う。
すぐ傍の家でそんな死体が発見されたら、普通の神経の人ならどれだけ不愉快な事だろう。
また、そうなる前に自分に出来る事はなかっただろうか…などと考え、苦しむ人も居るだろう。
やはり、実行なんか出来ない…。


そんな事ばかりを考えながら、声を出さずに涙を流す毎日を、過ごしていた……。




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