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家......(2)

2008/07/19(土) 13:02:08
『離婚してくれ』

その言葉は、会社で仕事中だったわたしのデスクトップに、突然メッセンジャーを使って送られてきた。
唖然とした。

『どうして?』
『お前は、家庭というものを知らな過ぎる。
 主婦としても完全に失格だ。
 これ以上は我慢できない』

周囲の物音が、すぅっと遠くなり、消え去った。
顔を上げて、夫のデスクを見た。
夫は、目を上げなかった。
無表情で、自分のPCのモニターを見つめ続けていた。



わたしが注意欠陥障害だと判った時、わたしから夫に離婚を申し入れた。
脳の構造上の欠陥である以上、わたしの家事能力は、努力で改善できることではない。
夫の求める家庭を作ることは、わたしには出来ない。
その時、夫は言った。

『家事だけが妻の仕事じゃない。
 仕事で俺を支えてくれればいい』

わたしは、その言葉通り、夫の為に、仕事で貢献してきたつもりだった…。



『あの時、そう言ってくれたのに…』
そう送信した。
『限度というものがある。
 もう限界だ。』


『あんたって本当に嫌な子だね。
 そのうち(夫の名)さんにも嫌われるに決まってる』

母親の声が、雷鳴の様に轟いた。
わたしと電話で言い争いになる度に、彼女が呪文の様に繰り返していた言葉だった。
その通りに、なった…。

わたしの中で、何かが、粉々に砕け散った……。


『話し合いたい』
と申し入れても、夫の返答は
『もう決めた。
 話し合う事はない。
 忙しくてそんな時間もない』
だけ。

こんな状態で、それ以上仕事を頑張れる筈もない。
退社する準備を整えながら、表面上は何事もなかった様に振る舞い続ける。

もう少しの辛抱。
退社さえしてしまえば、自分の本心を隠さなくてもいい。
泣き叫びたいのを堪えて、ニコニコしていなくてもいい。
もう少し。
もう少し…。

『話し合えない?』
隙を見て、夫にメッセンジャーを送る。
『忙しい』
夫は、わたしを一瞥もしない。

わたしは会社を辞めた。
家で、呆然と暮らす日々が始まった。
ここ数年の忙しさで、家の中は既に、人間の居住空間とは思えぬ様相を呈していた。
そんな家の中で、ひたすら眠るだけの生活を送っていた。


暫くして、夫と、もう一人の役員が家にやって来た。
わたしが会社に残していた私物をダンボール箱に詰め、持って来たのだ。
ダンボール箱は、役員の手で玄関前に置かれた。
夫は、車から降りても来なかった。

家の中に、ダンボール箱を運んで、開けた。
わたしの私物が、徹底的と言える程、会社から排除されたのが判った。
馴染みのないものも、いくつか出て来た。
なんだろう、これ…?
眺めているうちに、気付いた。
夫の私物…しかも、壊れたものや、古過ぎるもの。
不用品。
ゴミ。

わたしは、泣いた。




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