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彼の来訪......(3)

2008/09/05(金) 14:35:53
玄関に入った彼は、物珍しげに周囲を見渡した。

  かなり動物臭いと思うよ。
  すごく埃っぽいし…。


ぐだぐだ言い訳を続けるわたしには、全く反応しない。

  本当は…注意欠陥障害で動物飼うなんて、
  無謀なんだと思うけど…掃除出来ない癖に…
  毛だらけで凄くて…でも…生き物大好きだから…


  このまま上がっていいか。

わたしの言葉を遮った彼が、軽く片足を上げた。
土足のまま上がろうと言うのだ。
そして、普通の神経の人になら、そう言われても文句は言えない程の状態。
それが、わたしの暮らす家だった。

  …うん。

彼は、靴箱の上に置いてあったマグライトを手に取り、眺める。

  そ…それは夜に犬の散歩をするのに使うの。
  この辺、街灯がなくて真っ暗になるから…


  それ何だ?

  バ…バリケン。
  バリケンネルっていうの。
  犬を隔離する時に使うの。
  本当は玄関なんかに置きたくないけど、
  重くて一人では動かせなくて…。


彼は、マグライトを点灯させると、洋画に出てくる闇夜の警察官の様に、肩の辺りに掲げて周囲を照らした。

  …何してんの?

  探検だからな。

  ………。

ゴッ…ゴッ…という靴音をゆっくり響かせながら、彼は家の中に歩を進める。

  あっ、(犬の名)。
  檻に入れられてる…。


  留守にする時、短い時間なら檻に入れるの。
  自由にさせとくと色々悪戯されるから。
  出してやっていい?


  ああ。

犬は、彼の事を憶えていたらしく、檻から飛び出すと彼に駆け寄り、全身で再会の歓びを表現する。

  よしよし(犬の名)。
  後で遊んでやるからな。
  今はおとなしく待ってろ。
  お…猫も出て来た。


その言葉に、わたしは驚いた。
かつて、この家にまだ訪問者が出入りしていた頃、この猫は、来客がある度に二階に隠れ、決して姿を見せなかったものだ。
それが、興味津々といった表情で彼を見つめている上、怯えも警戒もせず、機嫌もかなり良い様子だった。

  …Tさん、凄い…。
  このコが初対面の人に
  こんなに友好的なの、初めてだよ…。


  ほほう、そうか。


それ以降、彼が向かう所全てに、わたしと犬と猫が着いて回る事となった。
彼が目を留めるものに、わたしが様々の言い訳をする。
時折、彼が『あれは何だ』と訊く。
わたしが、説明と言い訳をする。
彼は、衣装箪笥の引き出しまでチェックする。

  ちょっと!
  そんなトコまで…
  ドラクエじゃないんだから…


押さえようとするわたしの手を、彼が振り払う。

  全部見せろと言っている。

  でも…

  うるせえ。
  黙ってろ。


長い時間をかけ、彼はわたしの家を隅々まで見て回った。
その間、一言も感想めいた事は口にしなかった。
やがて彼は居間に移動し、かろうじて人一人座れるスペースを保持していたソファに、どっかりと腰をおろした。