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彼の来訪......(4)

2008/09/06(土) 11:29:01
わたしは、彼の前の床に座った。
ホテルでのいつもの状態だ。
彼は薄く微笑み、靴を履いたままの足をわたしの肩に乗せた。

  なんとも言えん表情だな。
  俺が何を考えているか…
  不安で、怯えてて、悲しそうで…。
  …いい顔だ。


黙って、彼を見上げる。
どういう判決を下されるのだろう?
彼の瞳の中の感情を読み取ろうとして、目をこらす。
少なくとも、こんな汚濁の中で生活しているわたしを蔑む光は、浮かんでいないと感じた。
それだけでもわたしは、少し安心する事が出来た。

けれども彼は、表面上は何事もなかった様に振舞いながら、心の中ではお仕置きする事を決定していたりする人だ。
そういう風に見えるからと言って、本当にそう感じているとは限らないのだ…。

彼は、視線を室内に走らせ、何事かを思案している。
判決は中々下らない。
わたしは、段々焦れてきた。

  …それで…判決は…?

遠慮がちに、催促する。

  判決か…?

彼は、足を下ろすと身体を起こし、ぐっとわたしの方に乗り出した。
緊張が、わたしの身体を走り抜ける。

  ………。

  ………。

  ……すっげぇ、楽しい。

  …へ?

予想もしなかった返答だった。
彼は、ニヤーっと笑う。

  この家、俺が好きにしていいんだろ?
  別荘に改造してやる。
  すっげぇ楽しみだ。


わたしは、唖然とする。

  ガキの頃作った秘密基地を思い出すなぁ。
  よし、さっそく始めるぞ。
  まずは、俺が取り敢えず寛げる場所を作る。


彼が勢い良く立ち上がる。
状況がよく飲み込めないまま、わたしもつられて立ち上がる。

  ここいらの本を入れるから、
  箱か袋を用意しろ。
  それから、デカいゴミ袋と雑巾だ。


  あの…それは…。
  わたしは…棄てられないって事…?


  ああ。

  …凄い汚してるって、思わなかった…?

  んー…まぁ想定の範囲内だな。

  …わたしの事、嫌いになってないの…?

  いいや?

別荘にすると言うからには、今後もわたしと関わり続ける気だということだ。
つまり彼は、わたしのこの家を見ても、軽蔑したり嫌悪したりせず…それどころか、一緒に掃除をしようと言ってくれているのだ。
しかも、とても楽しそうに。

ようやく、状況が飲み込めた。

彼は、わたしを、拒絶しなかった。
非難すら、しなかった。
わたしは、彼にしっかりと抱き付いた。

  おいおい。
  行動開始だっつってるだろうが。


彼が、笑う。
何も言うことが、出来なかった。
ただ、抱き締めた腕に、力を込めた。