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蝋燭責め

2008/04/05(土) 19:40:28
最初の一滴が、ぽたりと乳房に落ちた。

  あ…っ!

それは、熱さというより痛みだった。
刃物が刺さったような、鋭い痛みだった。
熱さに備えていたわたしの身体は、予想外の刺激を受けて、混乱した。
ぽたっ、ぽたっと、彼が蝋を落とす。
痛い。
逃げようにも、腕は縛られて背中の下、腰の部分に彼が馬乗りになっているので、どこにも身体を逃がせない。
それでもわたしは、精一杯身悶えながら悲鳴を上げた。
悲鳴に呼応する様に、彼の蝋燭を持つ手がわたしに近付いている気がした。

蝋の滴下が止まった。
ぜいぜいと息を弾ませながら、彼を見上げる。
彼は、見た事のない表情をしていた。
相変わらず瞳には、何の感情も浮かんでいない。
と言うより…恍惚とした光だけがそこにあり、焦点は結んでいない。
完全に、陶酔している表情だった。

蝋の落ちたわたしの乳房を、彼が空いている方の手で撫でる。
蝋と肌の手触りの差を味わっているかのような手の動き。
とても優しい手つきだった。
その時、ふと思った。
今のわたしは、キャンバスだ。
彼は、蝋を絵筆に、わたしに色を刻んでいる。
自己の精神世界を、わたしという肉のキャンバスに、あらゆる形で顕在化させようとしている。
彼にとって加虐行為は、一種の創作活動なのだ…。

蝋燭を持った彼の手が近付く。
溜まった蝋が、つつーっと流された。
肌をナイフで切り裂かれるような痛み。
喉が張り裂けそうな悲鳴が出た。
冷静なわたしが、頭の中で『モスラの声みたい…』と、苦笑している。
痛い。
けれど、何故か幸せだった。
彼の素材になっている自分を、とても幸せだと感じた…。

ふっと勢いよく、彼が蝋燭を吹き消した。
満面の笑みが、じわじわと湧き上がってくる。
瞳に溢れ出す喜色。

  いいな…いいな、これ。
  すげー気に入った!


  蝋燭…?

  うん。愉しかった…。
  お前から、仕置きの時に聞いた周波数の音が出た…。


  周波数て…。

わたしは笑う。
彼は、わたしをラジオに準えるのが、とても気に入ったらしい。

  蝋燭があれば、仕置きの時にしか
  聞けない音楽が聞けるんだ。
  面白い。


  ビデオに撮ってくれなかったね…。

その日わたしは、ビデオカメラを持って行っていた。
これで、責められる自分を撮って欲しかったのだ。
何故、以前からそうして欲しかったのか、やっと判った。
どこかでわたしは、彼の責めを、創作活動だと認識していたのだろう。
だから、その作品である自分を見たくて、しょうがなかったのだ。

  ああ、夢中になって忘れてた。
  それに、三脚がないと片手が塞がる。
  存分に愉しめない。


  三脚、あるけど忘れちゃったの。
  次は持ってくるから、撮ってね。


  うん。

彼はわたしの腰から降りて、縄を解いてくれた。
わたしは、身体の上に残った蝋に、そっと指を這わせる。
赤というより、オレンジ色に見える気がした。
もう少し、どす黒い赤の方が、好きだと思った。
そう…静脈血の様な。

蝋を、剥がしてみる。
そんなわたしの胸元を見つめる彼の瞳に、また陶然とした色が戻っていた。

  俺が見た動画では…蝋を剥がしても、
  蝋を落とした痕が、真っ赤に残ってた…。


  それは、色が白くて肌の弱い人だと
  そうなるかも知れないね。
  わたしは、色黒だし肌も丈夫だから…
  このくらいなら、どうもならないみたい。


  俺が見たのは、白人女性だったよ。
  それで、男の方が、棘のついたグローブで
  蝋を落とした肌をガーッと擦るんだ。


彼は一体、どこでそんなマニアックな動画を見つけるのだろう。

  凄く、綺麗だった…。

わたしは、最早痕も残っていない己の頑丈な肌を、恨めしく思った。
彼の美意識を、精神世界を、もっとわたしで表現して欲しい。
そしてそれを記録して、わたしにも見せて欲しい…。

近い処から垂らされる蝋に、悲鳴を上げながら『低温蝋燭って、何処がだ!』と、心の中で罵声をあげたわたしだったが、彼がこんなに悦んでくれるのなら、痛い思いをする事など、なんでもない。
彼の悦びは、わたしの悦び…。

  ところでさ…いきなり乳に垂らすんじゃなくて、
  最初はお尻とか背中で、様子を見ようとは
  思わなかったの?


  そんなトコ…俺が全然面白くない。

きっぱり言い切った彼の、真面目な表情が何だか可笑しくて、わたしは声を立てて笑った。




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