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抜歯

2008/12/31(水) 00:02:40
最近お世話になっている歯医者さんで、八重歯の抜歯を相談する。

そこは、異様に歯医者を怖がるわたしに対して、どういう治療をするのかとても丁寧に説明し、不安を減じようとしてくれる半面、患者の苦しみが歯医者の愉しみ…なんて言う、わたしにとっては余りに怖過ぎるブラックジョークを飛ばしてきたりもする、少しお茶目な先生が居る。
良心的で、腕も良く、歯に関する事なら、何でも気軽に相談できる。
それでも、まさか『フェラチオの邪魔になるんです』とは言えないので、体調が悪くなると根元が腫れて痛くなるから…というのを、理由にした。
丁度良い事に、疲労が溜まっていた為か、八重歯は根元の炎症を起こしてくれていた。

抜歯の日取りを決め、それまで服用する抗生物質を受け取る。
『前歯なんて、滅多に抜く機会ないですから、
 僕も楽しみですよ。ふふふ』
なんて、ぞぉっとする様な先生の冗談を背に、帰宅した。
とは言うものの、抜歯を決意出来たのは、口はともかく腕の良い歯医者に心当たりがあった事も、大きいだろう。
彼に、『抜く事にしました』とメールするが、それに関する反応は、やはり無い。
わたしを怖がらせ、緊張させる事が大好きな彼なのに、何故だろう…?
歯医者に関するトラウマの話をした事が無かったのは、抜歯が終わって落ち着くまで、思い出せなかった。

抜歯当日。
『いよいよですね。
 緊張してきましたか?ふふふ…』
歯医者さんは、妙にテンションが高い。
抜歯が大好きだ、と言っていたのは、もしかしたら、ブラックジョークでは無く本気だったのかも知れない。
麻酔を打たれている間は、緊張の余り、呼吸すら出来なかった。
効いてくるまで放置されるのも、無意味に甚振られている様な気がしてくる。

いよいよ診察台が倒され、器具が口の中に入れられた。
脂汗が、滲んで来る。
遠き日の、己の咆哮が、耳の底から蘇る。
メキメキメキ…という、身の毛がよだつ様な、異音が響く。
痛みこそ感じないが、口の中で、かなり強い力が作用している感触は、ある。
顎を揺さぶられたら、平静を装い続けられるだろうか…。
喉元までせり上がった悲鳴を必死で飲み込み、目を固く閉じた。
『はい、取れた』
え、もう!?
驚いて、目を見開いた。
恐怖に雁字搦めにされていたわたしでさえ、『早っ!』と思う程、鮮やかなお手並みだった。
『ほら』
ピンセットで摘んだ歯を、先生が見せてくれる。
磨き難い歯だっただけあり、煙草の脂が、とても汚い。
けれどもその形状は、どこにも損傷がなく、完全な歯の形をしており、思わず見入ってしまう程だった。
『持って帰る?』
『あ、はい』
当たり前の様に訊かれたから、こちらも当たり前の様に返事をした。
先生は、チャック付きのビニール袋に、ポトリと歯を落とした。

抗生物質と、頓服の鎮痛剤を受け取って、帰途につく。
リビングで寛ぎながら、ビニール袋に入れたまま、血に塗れた歯を眺める。
次に歯医者に行った時は、もう今まで程には緊張しない様な、そんな気がした。

  抜歯が終わりました。
  抜いた歯、貰ってきましたので、
  今度お逢いする時、ご覧に入れますね。


彼に、報告メールを打つ。
間髪入れずに、返事が来た。

  いらねえよ!
  こえーよ!


目を、瞬いた。
…そうか…無反応だったのは、怖かったからなのか…。
何が、怖かったのだろう?
歯医者?
抜歯?
それとも…わたし?
次に逢った時、ゆっくり訊こう。
立ち上がって、歯を洗いに行く。
歯根にこびりついた肉片が、中々取れない。
爪で、こそげ落とす。

この歯は、過去に囚われる余り、己を破壊する事しか考えられなかったわたしが…仕方がないから生きている、としか考えられなかったわたしが…生きる事愉しむ事に、積極的になれた、証だ。
早く…
早く、彼のを口でしたい。
気を散らさずに、思う存分…。
そう、思った。




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