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彼の縄張り

2008/04/27(日) 06:49:14
公園での散歩の後、まずは彼の買い物を先に済ませる事にした。
ホームセンターに行き、目的のものを買って車に積む。
案外大きいものだったので、犬の居場所が制限され、窮屈そうだ。
彼の家に、一旦荷物を置きに戻ることにした。
それほど重くはないから一人で運べると言い、彼は車を降りて行った。
わたしと犬は、車内で彼を待つ。
暫くすると、戻って来た彼が、何だか楽しそうに笑っている。
おもむろにカメラを取り出し、わたしたちを撮った。

  車に戻ったら、そっくりのバカ面した牝犬が2匹、
  俺をこれまたそっくりの顔で見ていて、笑ったぞ。


犬と2人して、『彼が来た!』という喜びの表情をしていたのだろう。

  さて、これからどうする?

  そうだな。
  …茶でも飲みに行くか?


  あ、そうね。
  わたしご飯食べてない。
  おなかすいた。


  それなら、カレーの美味い店行くか?

  うん!カレー大好き。

  よし、それじゃ○○ドライブウェイに行け。

  はい。

そこは、わたしのブログの話をしたドライブウェイだった。
わたしと彼の関係が、大きく変化したあの日の道…。
タイトなコーナーの続く道を、山頂に向かって進む。
彼が、クスクス笑う。

  ○○(犬)が、カーブの度によたよたするのが笑える。

犬は、運転席と助手席の間に立っていた。
足を踏ん張っているが、カーブの度に身体を振られてよたよたしている。
その頭の上には、彼の手がある。

  ○ちゃん、お前、酔わないのか?

  車酔いする犬もいるけど、
  うちの犬は大丈夫だよ。
  小さい頃から、わたしのドライブに
  付き合ってるから慣れてる。


  こんな道ばっか走られてるのか。

  山の中に住んでるからね。

  確かにお前、こういう道慣れてるな。
  俺のツレの誰よりも、運転上手いぞ。


  ほんと?

車の運転は、わたしが人に褒められる数少ないもののひとつだ。
わたしをとことんバカ扱いしていた夫ですら、車の運転だけは褒めてくれていた。

山頂付近に着いた。
彼が指示する道を進み、1軒のレトロな雰囲気の店の傍に、車を停める。
日陰になっているし、犬も車の中で快適に待てるだろう。
窓を少しだけ開けておいて、わたしたちは車を降りた。

店に入ると、その奇抜なインテリアに驚かされた。
処狭しと並べられた、さまざまな置物や玩具…。
マスターと思しき人が、申し訳なさそうに、カレーは売り切れてしまったことを告げる。

  どうする?

  Tさんは、おなかすいてないの?

  小腹が減ったって程度かな。

  わたしだけ食べるのも、何か悪いな…。

  でもお前、何も食ってないんだろ?
  気にしなくてもいいぞ。


結局、ドライカレーを1つだけ頼み、彼と半分こすることにした。
普通、1つのメニューを半分にするというと、嫌がるお店が多いが、このお店は快く承諾し、食器も2人分用意してくれる。
1人前のドライカレーは、中々のボリュームだった。
何となく、2人で食べるということで、少し大目にしてくれたのでは、という気がする。
取り皿まで用意してくれた。

  美味しい…!

  結構辛いな。
  俺はこれくらいが限界だが、
  お前は平気なんじゃないか?


わたしが辛党な事を、彼はきちんと憶えていてくれている。
わたしの方は、いつそんな話をしたのか憶えていないというのに。
彼が、わたしをちゃんと見ていてくれてる…と感じる瞬間だ。

  うん、もう少し辛くても平気かな。

分け合ったドライカレーを美味しく平らげ、食後のコーヒーが出て来た。
店内に、わたしたち以外の客は居ない。
彼とマスターが、おしゃべりを始めた。
その内容を聞いていると、どうやらこのお店は、彼が仕事で関わった事のあるお店らしい。
マスターと彼とは、数年ぶりに再会したという様子で、懐かしげに話を弾ませている。

彼が、自分のテリトリーに連れて来てくれた…。
しかも、ひとつの料理を半分ずつだなんて…これは、2人の関係が親密な事を、お店に知らしめる行為。
わたしと違い、彼は独身だ。
その辺の制約が無いとは言え、仕事で関わった店にわたしを連れて来てくれたなんて…とても嬉しかった。

  お前のこと、ほったらかしだな。

彼がふとわたしを見て笑う。

  わたしは平気。

マスターが遠慮がちに言う。

  彼女には、詰まらない話でしょうね…。

  いいえ、仰りたい事、よく解りますよ。

  こんな話が理解出来たら、変わり者ですよ。

  大丈夫、この人も変わってるんですよ。
  変態ですから。


彼の言葉に、わたしはコーヒーカップを落としそうになる。
そりゃわたしは、鞭で打たれたり蝋を垂らされたりして濡らしている変態だけれど…彼のそういう物の言い方は、料理を半分こしたことより更に明白に、彼とわたしがただならぬ関係だと、マスターに説明しているに等しい。
照れ臭い様な、嬉しい様な、なんとも複雑な心境になった。
彼とマスターは、話を続ける。
どうやら、彼の新しい仕事に繋がる話である様だ。
以前の彼の仕事に、マスターが満足したことが察せられる。
そうでなければ、数年ぶりだというのに彼の事を憶えてはいないだろうし、こうして新しい計画を話したりもしないだろう。
普通の良識ある大人の仮面を被って暮らしている、と、彼は言う。
けれども、中身と余りにも乖離している仮面なら、その歪さは必ず表面に出て来て、他者に薄気味悪さを感じさせる筈だ。
彼は、そうではない。
良識ある大人の部分も、きちんと確立させている人なのだ…。
それを垣間見る事の出来る、静かで、穏やかで、幸せな時間だった。

他の客が入って来たのを潮に、わたしたちは店を出た。
犬は、車の中で大人しく待っていた。

  さて、どこに行こうか…。

彼が、ちょっと思案する。

  お前、○○空港行った事あるか?

  ない。

  んじゃ、行ってみようか。
  海に向かえ。


  はい。

お茶を飲んで、空港で飛行機の離発着を眺める…。
まるで普通のカップルのデートの様。
よく考えれば、陽光の下で彼の姿をこんなに長く見ているのも、初めての経験だ。
セックス抜きのデートでも、彼と一緒に居るのはこんなにも楽しい。
彼も、楽しんでくれているといいけれど…。
わたしは、浮き立つ様な喜びと、不安な気持ちを胸に、車を動かし始めた。




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