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この日も、新しいアイテムが加わった。
ボールギャグだ。
ボールを銜えた時、長時間これを着けられたら、さぞかし顎が疲れるだろうな、などと考えた。
どうだ?後頭部のベルトを締め終わった彼が、目をキラキラさせて、わたしの顔を覗き込む。
(顎が痛くなりそう) 何言ってるか判らん。 (だから、顎がね…)一生懸命、喋ろうとしながら、身振り手振りも加えて、顎が痛くなりそうだ、と伝えようとする。
彼は、笑い転げながら、そんなわたしを見ている。
それでも何とか、言わんとしたことは通じた様だ。
そうかぁ。
じゃ、こうしたらどうだ?彼は、ボールをわたしの口の中にぐいっと押し込んだ。
顎が更に押し広げられた。
(痛い、痛いよ) どこが痛い? (顎とね…)ベルト部分が、唇を挟み込むような感触があり、そこがチリチリと痛む。
それを伝えようとするが、勿論、まともな言葉にはならない。
(唇が挟まったような感じでね…) だから何言ってるか判らん。
面白いな、これ。彼は、随分とボールギャグが気に入った様だ。
わたしは、舌でボールを押し出し、唇の痛みだけでも何とかしようとした。
それに気付いた彼が、ボールを押し戻す。
わたしは、顔を顰めて痛がっている事をアピールする。
(痛いってば) ちゃんと喋れよ。 (無理言わないでよぉ)彼は益々、笑い転げる。
ひとしきり、そんな事を繰り返して遊んでいた。
お前から言葉を奪えるという訳だな。
面白い。次回たっぷり使ってやろう。
さて…それじゃ風呂に入るか。彼が、わたしの後ろに回り、ボールギャグを外した。
わたしの口元から、涎が糸を引いて流れ落ち、胸元に垂れた。
あ…涎が…。 え、どこ?彼は、バッとわたしの前に回った。
胸元を濡らす涎の痕に気付く。
しまった…。
お前が涎垂らすとこ見逃した…。 …なんでそんなとこ見たいの…。 くそ、油断した…。彼は、決定的瞬間が見られなかったことを、心底悔しがっている様子だった。
そんなに残念がらなくても…と思うと可笑しくなってきて、わたしは自然に笑顔になった。
…まあいい。
今度はこれ着けさせてから突いてやる。
どれだけの涎が出るだろうなぁ?笑顔が固まるのが判る。
怖いと思ったからではない。
わたしには、ボールギャグの何がそんなに彼を悦ばせるのか、理解できなかったからだ。
その戸惑いが、表情を固めてしまった。
わたしに痛みを与えて悦ぶ。
わたしの呼吸を奪い、苦しませて悦ぶ。
今までの彼の行為は、彼が何に面白さを感じているのか、わたしにも想像がしやすかった。
けれども、ボールギャグは解らない…。
言葉という、人間同士の意志伝達に使われる手段を奪うことで、より一層モノや動物として扱い、それを愉しむというのなら、理解できる。
けれども、涎というのは、何なのだろう…?
彼は、わたしから何を引き出そうとしているのだろう…?
ほら、入るぞ。浴室へと促され、わたしの思考は中断された。
以前のエントリー「
注がれて」で予告した通り、シャンプーとリンスを持参していたわたしは、急いで鞄から入浴道具を取り出し、浴室へ向かった。