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直視する

2009/12/28(月) 21:36:46
  これから、面接に行くよ。
  無事に決まる様、祈ってて。


Sに、そうメールを送り、わたしは携帯電話を畳む。

近所の人の伝で、決まった話だった。
期間短期の契約社員で、仕事内容も単なる事務との事だし、わたしのリハビリとしては、とても適当な仕事と思われたので、話を繋いで頂いたのだ。

緊張しながら面接を受け、無事に採用される事となった。
初出勤の日も、決まった。
安堵と喜びに満ち溢れ、Sにメールする。

  決まったよ!
  ○日から、働きに行く事になった。
  どうもありがとう!
  これも、Sさんのお陰だよ!


Sからの返事は、無い。
これは、少し珍しい事だった。
しかしあまり深くは考えず、いよいよ引き篭もりを卒業して、社会に踏み出す事になったという現状を、その喜びを、噛み締める。

Sと連絡がついたのは、数日後のメッセンジャー上でだった。

  就職決まった様だな。
  おめでとう。


  んー、ありがと。
  暫く出て来てなかったね。


  ああ。実は、知り合いが自殺してさ。

  …えっ?

  バタバタしてて、連絡出来なかった。
  すぐにおめでとうを言いたかったんだが、
  お前から決まったってメール来た時、
  俺は、遺体確認の為に警察に居たw


絶句した。
すぐに思い当たる事があり、それを口にする。

  もしかして…例の、あの子…?

  そ。



いつだったかの深夜、メッセでSと二人で会話していた時、Sからのレスポンスが暫く途絶えた。
寝てしまった…?と思った時、返答があった。

  すまん、ちょっと出掛ける。

  は?これから?
  夜中の3時だよ?


  ああ。急用が出来た。
  そんじゃ、またな。


Sは、あっさり会話を打ち切り、メッセをオフにした。
普通の社会人が、こんな時間に急用で出掛けるって、何なんだろう…?
不思議に思ったが、その疑問は、すぐに解消される事となる。

  お前、自殺未遂とか、
  してねえだろうな?


後日、メッセでわたしの話を聞いていたSが、突然言い出した。

  自殺未遂?
  リストカットとか?
  してないよ。


  そうか。それならいい。
  あれは実際、周囲の人間が大変なんだ。
  俺の知り合いに、やたらリスカする奴が居てさ。


  もしかして…こないだ3時に、
  急に出掛けるっての…その子の関係…?


  あー、そうそう。
  リスカしたって電話があってさ。
  行って、宥めてきた。
  もー大変www


それから暫く、Sは、その女の子の症状や障害内容について、色々と話していた。
その内容は、わたしが聞いていても、悲惨で気の毒で、同情する余地は充分あった。
けれどもわたしは、リストカットについては否定的な考えの持ち主だった。

わたし自身も、根強い自殺願望に、翻弄されている人間だ。
けれども、その手段として、リストカットは候補に挙がらない。
手首は、余程深く切り裂かないと、死には至らないと聞くからだ。
わたしにとって、わたしが行うリストカットとは、周囲に対する「わたしはこんなに辛いの。苦しんでるの」というデモンストレーションに他ならないものだった。
わたしは、自殺を企図するなら完遂させたい、未遂で終わらせるのだけは絶対に御免だ、と考えていた。

もっとも今、実際にリストカット癖で苦しんでいる方に対して、この考え方を用いて説教などをする気は、毛頭無い。
手首を切る事によって、本当に精神の安寧が訪れる方も、生きていく気力が湧く方も、確かに居るのだろうと考えている。
あくまでも、わたしにとっては、己の辛さのアピールに終わる様に感じるから、わたしはやらない、というだけの話である事を、ご理解いただければと思う。

その時も、その考え方を、Sに説明した。

  だからわたしは、リスカはしないよ。

  あー、まぁ確かにな。
  最近は、デモンストレーションになってて、
  俺に構って欲しいから切ってるだけって印象も
  受けてるんだよな。


  そう思うんだったら、相手しないってのも
  選択肢なんじゃないの?
  振り回されるのが、
  本当にしんどいんだったらさ。


  そだな。考えとくわ。
  つーかお前、リスカしない、じゃなくて
  自殺しないって言えよwww


  あーwww
  まー考えない様になれればいいけどねーw


そんな会話をした事を、思い出す。



  何で、死んだの…?

  薬。○○(薬品名)と、酒。

その薬品のオーバードーズで死ねるとは…と、不思議に思った。
アルコールと併用したのが、奏功したのだろうか。

  いいか、お前、絶対に死ぬなよ。
  死んでも、楽にはならないぞ。
  すげー苦しそうな顔してたよ。
  吐血してたしさ。


その薬品で、吐血…?
それは、聞いた事が、無い。
死後数日経っていたという話だから、口内の粘膜がすでに腐敗し始め、液状化して流れていただけではないだろうか…?

確実に死ねる方法を模索していた時期に培った無駄な知識が、わたしの中で、囁いている。

完遂してしまった彼女に対する羨望が、夕立直前の雲の様に湧き上がる。

その一方で、わたしが完遂してしまうと、Sの立場を務めるのは妹になるだろう。あの子に、こんな思いをさせる事だけは回避しなくてはならない…という思考が、その羨望を霧散させようともしている。


  ともかくさ。
  んな訳で、暫くお前の相談乗るとか、
  無理だと思うわ。
  まずは俺が立ち直んなきゃw


  ん…そだね。

  元気出てきたら、またゲームに参加したり、
  メッセに上がったりするから、
  それまで時間くれるか。


  ん、わかった。

  あ、そうだ。仕事、頑張れよ。

  うん、ありがと。

そうして、その日の会話は、終わった。

Sの居なくなったメッセンジャーのウインドウを見詰めたまま、暫し呆然とする。
わたしは、自分の中に「死んでしまいたい」という願望が、依然根深く居座っていた事実を、この出来事によって強く意識し、真っ向から直視している状態に陥っていた。
誰かの自殺を機に、絶対に自殺するな、と言われた、その言葉が呼び水になってしまうとは、何という皮肉だろう…と、考えずにはいられなかった。





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